14色 最後の試練
リングを抜けるとそこは風が強く吹き付ける場所だった。
「ここってもしかして塔の屋上?」
「風が強いですね。それに空気がかなり薄い感じがします」
「待ってましたよ」
わたしたちはすこし霧がかかったその場所を見回していると声が響いた。
「この声って」
声のした場所をみると空から虹色に輝くキレイなハネをたなびかせる一羽の美しいトリが霧をはらい地面に着地してきた。
「美しいね」
その姿をみたシーニが感嘆の声を出す。
「アナタがクーデリア?」
「ええ、ワタシがアナタに試練のタマゴを授けたモノです」
「試練のタマゴ。つまり、クーのことですね」
「キミが姿を見せたってことは試練は無事に終わりってこと?」
「いえ、後ヒトツだけ残っています」
「後ひとつ?」
「はい、ワタシは試練の終わりでもあり『最後の試練』でもあります」
「最後の試練って?」
「おっと、この流れは」
わたしの言葉にマルの表情が引きつる。
「ワタシと戦うことです」
「デスヨネー」
考えるのをやめたようにマルの感情が消える。
「安心してくださいコロシはしません」
「思いっきりラスボスのセリフだよ」
「一度云ってみたかったんです」
「めちゃくちゃお茶目じゃないですか」
クーデリアはキレイなハネを大きく広げるとハネを振り出し激しい風を起こした。
「うわあ!」
「い、いきなり過ぎるよ!」
「ぐう!飛ばさせないように気をつけてください!」
「わたしが壁を造るよ」
シーニが地面に手をつける。
しかし、なにも起きなかった。
「え!?なんで!?魔法が『でない』!?」
「え!?そんな馬鹿な!?」
シーニの言葉を聞いてマルも手をかざすけどなにも出てこなかった。
「そんな!?マジック棒が出ません!」
「残念ながらアナタ達の魔法は使えません」
「!?」
風の勢いを緩めずにクーデリアがいう。
「正しくは『ワタシのハネの色の魔法を封じる能力』ですが」
「クーデリアのハネの色って」
わたしたちはクーデリアの美しく輝くハネを確認する。
「それって『虹色』…」
「つまり『七色』の魔法が使えないってこと!?」
「魔法封じって思いっきり魔王の所業じゃないですか!」
「ピュ、ピュー!」
「クー!」
わたしの頭から飛ばされそうになったクーをわたしは抱きかかえる。
「取り敢えず今は飛ばされない様に踏んばるしかありません」
「なら、わたしがなんとかするよ」
そういうとシーニはわたしの前に立つ。
「シーニ!?」
「わたしが壁になってみんなを守るよ」
「仕方ありません…今はそれしかないですね」
マルも前に立つ。
「マル!?」
「だ、大丈夫です。アカリはクーが飛ばされない様にしてください」
「なら、これならどうですか?」
クーデリアは風を止めると大きく振りかぶって竜巻を創り出しそれをわたしたちに向かって飛ばしてきた。
「う、ウソでしょ!?」
「さすがにあんなのに飲み込まれたら一溜りもありません!出来るだけ逃げましょう!!」
「に、にげるってどこに!?ここ塔の上だよ!?」
そう、わたしたちのいるのは塔の上逃げ場はどこにもなかった…。
「とにかく!このまま飲み込まれるよりはマシなはずです!」
「とりあえず走ってぇーーー!!!」
シーニの叫びを聞いて竜巻がすぐ近くまできていたことに気が付いたわたしたちは急いで竜巻から逃げる。
「くう!魔法が使えないんじゃ魔道具も取り出せない…どうしたら」
「代わりになる武器もこの場所には有りそうにありません。めちゃくちゃ徹底的に叩きのめす気満々じゃないですか!いわゆるゲームの詰みポイントですか!?コンチキショウメェー!」
「うわあああ!どうしよー!!」
わたしたちは必死に逃げ回る。
「ちょ、ちょっと止まって!!」
シーニの声でわたしたちは止まる。
止まるしかなかった…。
「そ、そんな…」
「私達は此処で立ち止まる訳には行かないのに…止まるんじゃねぇですよ…」
「ここが端みたいだね…」
わたしたちは塔の端にまで追いつめられてしまった…。
わたしは塔の下をみると思わず「ヒェ…」という声が出てしまう。
「こうなったら一か八か!」
シーニはもう一度地面に手をつける。
「うぅ!やっぱりダメか…」
やっぱり魔法がだせなかったみたい。
「どうにかして逃げ場を造らなくては…だけど、もうそんな余裕はありません」
マルは口に手を当てて考えるけど、もう目の前に竜巻がきていた。
「クッウ!万事休すですか」
「おねがい!なんでもいいからでてぇーーーーー!!」
わたしはとっさに手を前にだして叫ぶ。
すると、わたしたちの周りがドーム状の空間につつまれた。
「え?」
「!?」
そのドーム状の空間は竜巻を防いでくれた。
「これって《防御魔法》!?」
「魔法は封じられているはずじゃ!?」
「え?え?どうして?」
わたしが一番驚いていた。
「それに確かアカリの魔力の色って《赤》だったはずです」
「なるほど、『白』の魔力の持ち主でしたか」
白の魔力?
「そうか、副色魔法か!」
シーニが気付き声を出す。
「本来の魔力とは別に人それぞれ少なくとも一つ持っているやつだね」
「白って確か虹の七色に含まれていない色です」
「ならクーデリアの魔力封じに引っかからないね」
「ですが、まだ扱えないようですね」
クーデリアの云う通りバリアにヒビがはいる。
「あ、えっと、どうしよう!とっさにだしたからどうコントロールしたらいいの!?」
わたしはうまく魔力コントロールが出来なくて徐々に竜巻に押されてしまう。
「大丈夫です!アカリお箸を右手から左手に持ち替える感覚です」
「わたし右手でしかお箸持てないよ!?」
「じゃあ、格闘ゲームからパズルゲームに切り替える感じで!」
「わたしかわいいモンスターを育てるゲームしかやったことないよ!?」
「では、トランプです!同じカードでも色んな遊びに切り替える感じです!解りますよね?解ってください!」
「ごめん!ババ抜きしかルールしらないよぉ!」
「だったら!らーめんとうどんの違いとか!」
「それって好みだよね!?」
そうこう言っている内にヒビが大きくなる。
「こうなったら一か八かです!」
マルはわたしの肩に手を乗せた。すると、すこしヒビが直った。
「よし、上手くいきました」
「マルなにをしたの?」
「わたしも副色魔法を使ってみました」
「どういうこと?」
「わたしの魔力の色は『橙色』ですが副色魔力は『銀』です。ですが、わたしの銀の魔力は創造魔法を使う時の『形』の部分しか創れなくて実態を創るには橙の魔力が大半を占めていて先程もそれのせいで魔法が使えませんでした。なので、その『形』の部分をアカリを経由して創ってみました」
「なるほどそういうことなら」
マルの説明を聞くとシーニもわたしの肩に触れるとヒビがさらに直った。
「わたしも『銀』だからね」
「ナイスです。シーニ」
「なかなかやりますね。なら」
クーデリアは竜巻をさらに二つ増やした。
「人数分増やしました」
「余計な御世話ですよ!人数が増えると逆に難しくなる鬼畜ゲーですか!?」
「マル、ツッコンでる場合じゃないよ」
「ど、どうしよう!?またヒビが!」
ヒビが広がってさっきよりも大きくなる。
「とにかく修復をしなければ」
「ダメ!もう追いつかないよ」
二人ががんばって直そうとしてくれるけど、間に合わなくて次の瞬間バリアがガラスが割れるような大きな音を立てて砕けてしまった。
「うわあぁーーーーーーーー!!」
その反動でわたし達は後ろに飛ばされてしまった。
そして、その勢いでクーがわたしの手から飛ばされた。
「ピュウゥーーーーー!」
「クー!!」
わたしは飛ばされたクーをなんとか空中で捕まえることが出来た。
しかし、下を見るとなにもなくあるのは浮遊感という名の落下だけだった。
「うああああああああ!」
「アカリ!!」
そのまま下に落ちたわたしをマルとシーニが崖に片手だけを残してわたしの左手を掴んだ。
「マル!シーニ!」
「アカリ大丈夫ですか!?」
「今引き上げるからがんばって!」
二人はわたしを引き上げようとがんばってるけど、女の子が片手以外身を投げ出して人を引き上げるなんて難しいよ!
「二人とも!このままじゃ二人も落ちちゃうよ!だから、わたしの手を放して!」
「!なにをバカな事を言ってるんだよ!そんなこと出来る訳ないだろ!」
「そんなの『わたしを殺して』と云ってるのと同じです!」
「で、でも!」
「でももデモも起こしませんよ!」
「このまま手を放したら一生わたしは後悔すると思う。いや、絶対する!だから、腕が千切れてもこの手は放さないよ!」
「右に同感です!ここで大親友を見捨てて自分だけ助かるなんてただのクズです!もし、別世界の私がそんなことをしたらぶん殴りに行きます!」
「マル…シーニ…」
二人の言葉にわたしは胸の奥が熱くなる感覚がした。
「さて、その状況からどうしますか?」
「!?」
クーデリアの言葉にわたしたちの目の前に竜巻が来ていることに気がつく。
「う、ウソでしょ!?」
「この状況で攻撃してくるなんて超絶鬼畜じゃないですか!!」
「ごめん!二人とも!」
竜巻の風の勢いに押されて二人の手が崖から離れる。
「っあ!」
「しまっ!?」
そのままわたしたちは塔から落下してしまう。
「うわああああああああ!!」
ごめん!クー、マル、シーニ…わたしのせいでこんなことに…わたしがドジをしなければ、わたしがバカじゃなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに!本当にごめん!せめてクーと二人だけでも助ける方法はないの!お願いわたしはいいからみんなを助けて!
「ピュゥルーン!!」
「!?」
突然クーが眩いヒカリを放ち輝き出した。
そして、クーの輝きと共にわたしたち三人のカラダも赤、青、橙とそれぞれ輝き出し、それに呼応するかのように塔の下から四本の、緑、紫、黄、水色の四色のハネが飛んできてそれぞれ輝きながらわたしたちの周りを包んだ。
「こ、これは!?」
「もしかして!?」
「『みんなの魔力を込めたハネ』!」
「ピュルルルーン!」
みんなの魔力の込められているハネとわたしたち三人の魔力がクーに注ぎ込まれクーはさらに輝きを増し、そして姿を変えていった。
「ビュルーン!!」
クーはハネが七色に輝く美しいトリに姿を変え、わたしたちを背中に乗せる。
「!クー!?クーなの!?」
「ビュルン♪」
わたしが聞くとクーはゲンキに返してくれる。
「これは…進化…?」
「こんなことがあるなんて…」
二人は驚きのあまり言葉を失う。
わたしたち三人を乗せたクーは塔の屋上まで飛び塔の床に降り立つ。
「ありがとう!クー」
わたしはクーから降りると正面からクーに抱きつく。
「それと二人もありがとう!それと、ごめんね!!」
二人に抱きつきお礼をしてあやまる。
「謝罪の言葉はいりません」
「そうだよ。みんな無事だったんだし」
「はい。死ななければみんな掠り傷って奴です」
二人は優しくわたしの頭を撫でてくれる。
「見事です」
「!?」
助かった感動の余韻に浸っていたわたしたちにクーデリアの声がそれを壊し、また緊迫した空気が流れる。
「さて…」
まだなにかあるの?と思いわたしは思い唾を飲む。
「合格です」
「…え?」
突然そんなことを言われわたしたち三人は間の抜けた声を出す。
「…ということは?」
「試練は終わりってことですか?」
「はい」
マルが恐る恐る聞くとクーデリアは冷静に返す。
「…や、やったー!」
わたしはうれしくて飛び跳ねるけど、足にチカラが入らなくてその場に崩れ落ちる。
「アカリ!?」
崩れ落ちたわたしを二人が支えてくれた。
「ご、ごめん…うれしさと安心感でチカラがぬけちゃった…」
「よくがんばりました」
「えらいえらい」
二人はまた優しく頭を撫でてくれる。
「では、改めまして。お疲れ様でした」
クーデリアは落ち着いた声で話を続ける。
「手荒なマネをしてごめんなさいね」
「全く持ってその通りですよ。こちとら本気で死を覚悟しましたよ。デッドですよ。ダイですよ。アライブですよ」
「まあまあ落ち着いてマル」
すこし興奮気味のマルをシーニがたしなめる。
「すいません。これも我が子の進化の為だったので」
「クーの進化の為?」
「はい、どの生物も生命の危機や大切なモノを失う時にチカラを発揮します。その為にアナタたちを追い詰めました。しかし、それだけでは我が子は進化することは出来ません」
「他にナニかあるってこと?」
「なるほど、その為の『三つの試練』ということですか」
マルはなにかに気づく。
「アナタ達には『心の試練』『技術の試練』『体術の試練』をそれぞれ課しました」
「なるほど『心技体』ってことだね」
「え?どういうこと?」
まったく理解が出来ていないわたしにマルが教えてくれる。
「恐らくですが私に『体術の試練』、シーニに『技術の試練』、アカリに『心の試練』が与えられたのだと思います」
「え?マル、なんでそこまで解るの?」
今度はシーニにがマルに問いかける。
「わたしが御手合わせしたモンさんはどちらかというと体術の達人といった感じでした。そして、シーニが御手合わせしたというキツネさんは魔術ならぬ妖術を駆使してきて、シーニは魔法の技術を駆使して挑んだと云っていましたよね。そして、アカリと合流した時アカリは怪我の一つもしていませんでした。つまりアカリの試練は『心の試練』だったと推測されます」
心の試練ってシアンやクロロンとのカケラ集めのことだよね?
「それと最後にもう一つあります。ここまで云えば解りますよね?」
クーデリアはわたしに問いかけてくる。
「もしかして、『みんなの魔力の込めたハネ』のこと?」
「はい、正しくは『七色の魔力』です」
「だからわたしたちのカラダも輝いたんだね」
「やはり『始めから仕組まれた事』ということですか?」
「!?」
マルが神妙な面持ちでクーデリアに聞く。
「いえ、そうとも言い切れませんよ」
「ですが、ここまで来るとどうしても貴方に都合が良過ぎます」
マルはさらに問い詰める。
「確かにヒントを幾つか与えましたが『全てではない』です」
「全てではない?」
「アカリに『試練のタマゴ』を与えましたがこの場所にいる三人はワタシは選んでいません」
「え!?」
「アナタ達三人以外の可能性もあったということです」
「す、すみません…少し整理してもいいですか…」
マルは右手を頭に乗せてなにかを考えはじめすこし顔色が悪くなる。
「マ、マル大丈夫?」
わたしは心配になりマルに声をかける。
「クーデリア一つだけ質問してもいいですか?」
「はい」
「アカリこの質問の答えによっては私の気分は悪くなるかもしれません…」
「え?」
わたしは理解出来ずにいたけどシーニの方をみるとシーニもすこし顔を青くしていた。
「シ、シーニ!?」
「なるほど…そういう可能性も『あったかも』しれないってことだね」
「え?え?」
わたしはまったく理解が出来ない。
そして、マルは意を決して口を開く。
「もし、あの時、七色の魔力が『揃ってなかったら』私達はどうなっていたのでしょうか?」
揃ってなかったら?その言葉をすぐに理解は出来なかったけど、わたしのカラダがなぜかゾクッとする感覚がする。
「恐らく、そのまま地面に落ちていたでしょうね」
クーデリアは冷静にその言葉を口にするけど意味を理解したわたしは鏡を観ずとも自分の顔が真っ青になっているのがわかった。
「ひ…ひぇ…」
もしものことを想像してしまい思わずカラダが震える。
「今この場所でアナタ達が生きているのは道を切り開いたからです」
「……」
クーデリアはなにも言えなくなったわたしたちに語りかける。
「ワタシの本来の目的を話しましょうか」
「本来の目的…?」
シーニがわたしとマルの代わりに聞き返す。
「ワタシが我が子を下界に放ったのは『見定める為』です」
「見定める?」
「ワタシ達、神獣はアナタ達人間よりも永い時間を生きています。そして、色々な『時』を観てきました。その中で人は争い奪い自然は時に美しく時に残酷に牙を向けたりもしました。そして、ワタシは思いました。この世に人は必要かと人は人を苦しめたりします。中には人は人を幸せに出来ると云うモノもいます。それは、ワタシも理解はしています。しかし、幸福があるから不幸もあるのではないかとそんな人々を観てきたワタシは哀しくなりました。だからいっその事世界をリセットしてしまった方がいいのではないかと」
「リセット…!」
「神獣にはそんなチカラが…!」
「………」
「しかし、とあるモノがワタシにいいました。『キミにもきっと解る時がくるよ』とそのモノの言葉を信じてワタシは少しだけ思い留まることが出来ました」
「そのモノとは他の神獣様ということでしょうか?」
「はい、今は『存在しません』が」
「え!?存在しないってことは!?」
「数千年程前に『昇天』しました」
「しょうてん?」
「亡くなったということです」
「!」
「その神獣様になにがあったの?」
「あのモノは大昔下界を襲った厄災から下界のモノを守る為にその命を散らせました」
クーデリアの声が暗くなる。
「正直ワタシには理解が出来ませんでした。下界のモノの為にそこまですることが…だから、確かめてみることにしたんです。あのモノが命をかけて守ったこの世界を見守ってみることにしました。そして、かなりの時間が過ぎたある日気づきました。もしかしたらこの世も捨てたものではないかもしれないと」
クーデリアの美しい眼がわたしを映す。
「そして、最後にそれを確かめる為に我が子をアナタに託すことにしました」
「わたしに?」
「はい、アナタに託して正解でした。アナタの純粋な笑顔が周りを惹きつけ我が子を成長させました」
わたしは後ろのクーと向き合う。
「ねえ、クーはわたしたちと過ごしてどうだったかな?」
わたしはクーの奇麗な瞳をしっかりと見ながらクーに問いかける。
「ピュルルーン♪」
クーはいつもと変わらない楽しそうな声で返してくれる。
「クー!ありがとう!」
わたしはうれしくてクーに抱きつく。
「お疲れ様でした。これで全ての試練は終了です」
その言葉を聞いてわたしたちは喜ぶ。
しかし、
「では、我が子を《返して》いただきます」
「え?」
クーデリアの言葉にわたしたちは動きを止めた。
「…そっか…試練が終わるってことはそうゆうことだったね…」
「え?そうゆうことって?」
シーニにわたしは聞き返すけど、聞かなくてもなんとなくわかってしまう…それを口にしてはいけない気がする。口にしたら受け入れなくちゃいけないから。
「……クーとの『別れ』って事です」
「!?」
マルはその言葉を口にする。
「そ…そんな」
「元々、クーは『試練のタマゴ』つまり言い換えれば『試練を受ける為の切符』です。だから、試練が終われば役目を果たしたということになります」
自分の言っていることの重さを感じながらもマルは説明する。
「アナタ達人の可能性や繋がりはしっかりと見せていただきました。世の人はどうしようもないほど心の醜いモノもいれば中には捨てたものではないモノもいます。アナタ達の様に」
クーデリアは落ち込むわたしに語り続ける。
「それが解っただけでも我が子に取ってはかけがえないのない思い出になったはずです」
クーはわたしから離れクーデリアの元に羽ばたいて行く。
「…」
クーの温もりがなくなり大切なモノを失う感覚になる。
「……」
もうお別れなの?
「………」
これで終わりなの?
……………違う。
「クー!」
「ビュ?」
わたしはクーを呼び止める。
二人は心配そうにわたしをみる。
「これでさよならなんてわたしはヤダよ!」
わたしはクーとの思い出を思い出す。
「わたしクーと出会えてよかった!みんなとも前よりも仲良くなれた!クーといてとても楽しかったよ!」
だから、
「わたしはクーと別れたくない!」
だからこそ!
「『さよなら』の代わりに『またね』っていうね!」
湧き上がりそうな涙を堪えてわたしはとびっきりの笑顔でいう。
「そうだね『またね』クー!」
「ええ『またね』です」
二人もわたしと同じ気持ちだったみたい。
「いいトモダチを持ちましたね」
「ビュリュリュルーーーーン♪」
クーの飛びきりゲンキな鳴き声を響かせながら周りは霧に包まれていった。
(またね)
深い霧の中でそんな声が聞こえたような気がした。
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