12色 アカリの試練

 トビラをぬけた先は身に覚えのある場所だった。


「あれ?ここって《学校》?」

「ピュル?」


 周りを見回すと見なれたグラウンド、校舎、花壇などよく目にする場所だった。


「なんで学校に飛ばされちゃったんだろう?」


 わたしはなんでか考えてみるけど、おバカなわたしにはさっぱりわからなかった。こういった難しいことはいつもマルとシーニが考えてくれてたからね。


 とりあえず、わたしでも出来ることを考えてみる。


「探索をすればいいのかな?」


 そう思い、わたしはいろいろと見て回ることにする。もう一度周りを見回すとフシギなことに気がつく。


「あれ?なんだか静かでだれもいない?」


 いつもならスポーツ科の人達がトレーニングをしているはずなのにやけに静かだった。それに、他の科の人も見当たらなかった。


「なんでだろう?」


 この場所にもしかしてわたしとクー以外の人が存在しないのかな?


「とりあえず教室に行ってみよう」


 わたしはとりあえず教室にむかうことにする。


 下駄箱に自分のクツを置こうとしてあることに気がつく。


「あれ?」


 わたしの四つとなりの下駄箱に紐なしの黒色のクツがあった。


「このクツって確か…」


 わたしは廊下を走らないように急ぎ足で教室にむかい教室のドアを勢いよく開ける。


「やっぱり!」


 教室の中には髪が左右にくるくると跳ねている緑色のパーカーの男の子がいた。


「クロロン!」

「あ、いろのさん待ってたよ」

「え?待ってた?」


 教室の中にいたクロロンに待ってたといわれ、わたしはキョトンとする。


「えーっと、どういうこと?」

「ごっごめんねいきなりそんなこといわれても変だよね」

 クロロンは慌てて手を振る。


「どこから話したらいいかな?」


 ちょっと待ってね、と言葉を続ける。


「えーっと、結論から言っちゃうとねぼくは《ぼくじゃない》んだ」

「んん?」

「つまり今いろのさんの目の前にいるぼくは《ニセモノ》ってことなんだ」

「に、にせもの!?」


 クロロンの言葉にわたしは驚く。


「うん、試練とその説明のためにぼくたちが創られたんだ」

「ぼくたち?」

「ぼく、以外にもみっくんとれいたくん、そして、きのせさんがいるよ」

「みんないるの?」

「うん、そして試練の内容はみんなをみつけてカケラを集めることだね。そして、隠れている神獣をみつけることだよ」

「戦うんじゃなくて?」


 確かクーデリアは戦ってもらうっていっていたような?


「ぼくたちを創った神獣さんは人と人とのかかわりがみたいらしいんだ。だから、いろのさんの記憶からぼくたちのコピーを創ってそれを確認したいみたい」

「つまりわたしは学校にいるシアンたちをみつければいいってこと?なんだかかくれんぼみたいだね」

「そうだね、そしてぼくは必要ないかもしれないけど、いろのさんのサポートをするみたい」

「ありがとう♪クロロンも手伝ってくれるんだね」


 そして、わたしとクロロンのみんなを探す探索がはじまった。


「ところでこれからどうしたらいいのかな?」

「たぶんみんな別々の場所にいると思うけど一番わかりやすいのはれいたくんかな」

「レータ?」

「うん、れいたくんといったらなにが思い浮かぶかな?」


 さっそくクロロンがヒントを出してくれる。


「メガネ」

「そっちじゃないほうだね」

「えっと確かレータっていつも分厚い本を読んでた気がする」

「そうだね、本っていったらどこが思い浮かぶかな?」

「ん~?、図書館?」

「じゃあ、行ってみようか」

「うん」


 ここの教室が2階で確か図書館は3階だったよね。わたしたちは図書館にむかうために廊下に出る。


 ふと、わたしはクロロンに気になっていた質問をする。


「ねえ、クロロン。今わたしの目の前にいるクロロンはホントにニセモノなの?」

「うんそうだよ」

「うーん、やっぱり信じられないなぁ…」


 わたしは目の前にいるクロロンをもう一度確認するけど、どこからどうみてもあの童顔のかわいらしいクロロンだった。そして、しっかりとチャームポイントの左目の下の泣きボクロもある。


「正直ぼくも変な感じはするな。でも、創られたものだからこそ自分がニセモノって理解できるのかな」

「え?どういうこと?」

「なんていったらいいかな~ぼくもなんとなくなんだけど、今のぼくの記憶や思い出って組み込まれたって感じがするんだ。いいかたはあれだけどロボットみたいな感覚だね」

「……」

「それともうひとつ根拠があるんだ」

「こんきょ?」

「いろのさんの頭の上のクーくんがぼくの頭に乗ってこないことだね」

「え!?」

「ピュルーン?」


 確かにいつもならまっさきにクロロンの頭の上に乗るクーがわたしの頭の上から離れていなかった。


「つまり記憶や姿をマネ出来てもぼくを創っているのは別の魔力だから素の部分が違うってことだね」

「へえーそうなんだ」

「あ、着いたよいろのさん」


 話しているうちに図書館の前に着いた。わたしは図書館のドアを開けると中にイスに座って本を読んでいる青年がいた。


「あ!レータ発見!」

「図書館では静かにしてくれないかい?」

「ごめん」


 大きな声を出してしまい怒られてしまった。


「これを読んだら相手をしてやるから少し待っていたまえ」

「じゃあ、いろのさん、ぼくたちもなにか本を読んでいようか」

「うん、そうだね」


 レータの読書が終わるまでわたしたちは本を読んで時間を潰すことにする。


「とは言ったけどわたし文字がいっぱいあると眠たくなっちゃうんだよね…」

「なら、これなんてどうかな?マンガを読みながら勉強できる本みたいだよ」


 クロロンはわたしにそれを渡し本を開く。


「ホントだ!これならわたしでも読めるかも!」


 続きを読もうと席にむかおうとしたわたしはクロロンの持っていた本が気になった。


「クロロンそれは?」

「コレ?これはね、ぼくが好きなミステリー作品の外伝だよ」

「がいでん?」

「えーっと、わかりやすくいうと主人公とは別の人のお話だよ」

「へえークロロンってミステリー作品とか読むんだね」

「うん、こわいのはすごい苦手だけどこの作品はすごいおもしろいんだ」

「その作品なら僕も好きだよ」


 レータは目を本から離さずに話に入ってきた。


「え?れいたくんも知ってるの?」

「ああ、キャラクターも魅力的だし何よりもストーリーが面白い。知名度は低いけど知る人ぞ知る作品だな」

「だよね!れいたくんはどこの話が好きかな?」


 クロロンはうれしそうにレータに聞く。


「そうだね、一作品目の二章かな。犯人が知らない内に被害者の死体が移動させられて犯人が動揺しているのが面白かったね」

「ぼくは二作品目の三章かな」

「あーあれか…なかなか独特な所が好きだな」

「なんていうか、今までやさしくて主人公を助けていて最後まで生き残りそうだったのにそんな人が犯人で途中退場しちゃうのが衝撃的だったな」

「まあ、あれは仕方ないよ。あれは黒幕のせいだ」

「だよね!」


 二人は楽しそうに話合う。


「でも、一番おもしろい話は二作品目の五章だと思うな」

「だろうな。僕も同意見だ」

「なんだかスゴイ楽しそうだね」

「あっ!?ごめんねいろのさん、ぼくたちだけで盛りあがっちゃって」

「いいよ二人が楽しそうにしてるとわたしもなんだかうれしくなっちゃってだから、わたしにもすこし教えてほしいな!」

「!?」


 ナゼだか二人は驚いた顔をしていた。


「どうしたの?」

「えっと、いや、なんというか」


 クロロンはレータをみる。


「珍しいなと思ってね」

「めずらしい?」

「自分の知らない話で盛り上がっていたとしたら普通は興味ないだろう?それを自分から教えて欲しいなんて随分変わっているなと思ってね」

「そうなのかな?もし、そうだったとしてもわたしはみんなの楽しそうな笑顔がみたいから、わたしはみんなの好きなものが知りたいな!」

「……」


 二人は互いをみる。


「まあ、君らしいと云えば君らしい意見だね」

「さすがいろのさんだね」

「え?」

「さて、僕の所にわざわざ来たのは《コレ》が目的だろう?」


 レータはナニかのカケラみたいなモノを取り出した。


「それってもしかして」

「あげるよ」


 アッサリとそれを渡される。


「え?」

「何を驚いているんだい?まだ僕の分だけだぞ」


 突然のことにわたしは状況がうまく読み取れない。


「え~~~っと、どういうこと?」

「説明しないといけないかい?」

「うん、お願いします」

「ハァ~~~」 


 レータは大きなため息をつく。


「まあ、一言で云えば君がなかなか面白いことを言ってくれたから僕の《カケラ》を渡しただけさ」

「?」


 わたしはさらに首を傾げる。


「つまりいろのさんはれいたくんの試練に合格したってことだね」

「えっ!?そうなの!?」

「試練の内容はこれといって決まってないけど《僕が渡したかったら渡せ》だからね」

「そうなんだ、なんだかよくわからないけどありがとう!レータ!」


 わたしはレータにお礼をいう。


「さっきの話だけど本当に君が気になるなら《本物の僕》に聞くといいさ」

「それがいいかもしれないね」


 そうだったスッカリ忘れていたけど今目の前にいるクロロンとレータはニセモノだったんだ。


「うん、わかった楽しみにしてるね」

「じゃあ、僕の役目は終わったから先に失礼させてもらうよ」

「もう、行っちゃうの?」

「ああ、早いに越したことはないだろう」

「うん、そうだね。じゃあまたね」

「ああ」


 そういうとレータは煙となって消えてしまった。


「き、きえた!?」

「大丈夫だよれいたくんが死んじゃった訳じゃないから」


 驚くわたしにクロロンが説明してくれる。


「《今は》消えちゃったけど新しく創られる時は《今の》れいたくんがきちんと存在してるから」

「……?つまり、どういうこと?」


 せっかく説明してくれたのにわたしがおバカ過ぎて理解できなかった。


 ごめんクロロン。


「えーっと、ちょっと待ってね………あっ!そうそうAIっていえばわかるかな?」

「えーあい?」

「新しいデータに今回のデータを移す感じだね」

「へえーそうなんだよくわからないけどすごいね」 

「伝わってよかったよ」


 クロロンが優しく教えてくれてなんとなくだけど理解が出来た。


「次はどうすればいいのかな?」

「そうだねぇ、うーんとじゃあ次はきのせさんをさがしてみよっか」

「わかった」

「きのせさんのいそうなところってどこかな?」

「フラウムのいそうな場所……。フラウムは運動が得意だからもしかして『体育館』かな?」

「じゃあ、行ってみようか」


 わたしたちは一階にある体育館にむかう為に図書館を後にした。



「ねえクロロン、クロロンとシアンって幼馴染なんだっけ?」

「?うん、そうだね」


 クロロンはわたしが急に投げかけた質問にすこし首を傾げながら返す。


「前の学校もやっぱり同じだったの?」

「ううん、学校はまったく違ったよ。逆に今回、はじめて同じ学校になったかな」

「え!?そうなんだ!?」

「うん、ぼくとみっくんは親同士が知り合いでそれでたまたま同じ年に産まれて赤ちゃんの時から知ってるって感じかな」

「へえーなんだかかわってるね」

「そうだね。ある意味ぼくとみっくんは兄弟みたいな感じかもね」

「兄弟かぁなんだか熱い友情って感じだね!」

「ぼくはオニーがいるんだけどオニーもみっくんと仲がよかったからね」

「オニーさんってどんな人?」

「おもしろい人だよ」

「そうなんだ」

「あっそういえば」


 そんな会話をしているとクロロンがなにか思い出したのか話を続ける。


「みっくん以外にももう一人幼馴染がいたんだ」

「もうひとり?」

「うん、ぼくが7歳の時に引っ越しちゃったんだけど女の子でぼくたちは《はーちゃん》って呼んでたんだ」

「へえーそうなん……」


 あれ?……どこかで聞いたことがあるような…?


「着いたよ」

「あっうん」


 ナニか大切なことを思い出せそうな気がしたけど、目的の場所に着いて考えが飛んでしまった。でも、先にこっちだよね!わたしは気を取り直して体育館のトビラを開ける。


「あら、思ったよりも早かったですわね」


 トビラを開けて中には長い髪をお団子にして動きやすそうなスポーツ服姿のフラウムがいた。


「うん、れいたくんが思ったよりもはやくカケラをくれたんだ」

「あのメガネがアッサリくれるなんて珍しいですわね」

「なんかレータと一緒に本のお話をしたらナゼかくれたんだ」


 わたしはフラウムに説明するとすこしフシギそうな顔をする。


「まあ、いいですわ。貴方方が気付いていないだけであのメガネの機嫌を取れたんですわね」


 フラウムはひとりで納得したみたい。


「ワタクシも直ぐに渡してもいいのですが折角ですから、お二人さん少しワタクシの勝負に付き合って頂けませんか?」


 フラウムは片手に持っていたバスケットボールを指で回しながらいう。


「えーっと、もしかしてバスケをするってことかな?」

「ええ、そうですわ」

「ぼくボールを使った運動苦手だな…」

「わたしもあまりやったことないな」

「マンガなら読んだことあるけど」

「あのダンクするやつ?」

「うん」

「まあ、勝負と云ってもワタクシからこのボールを奪うことが出来たらいいですわ」

「きのせさんから奪うってなかなか難しいね」

「でしたら、お二人を舐めている訳ではありませんが、身体強化魔法や攻撃魔法を使ってきてもいいですわよ」

「わ、わかった。でも、さすがに攻撃魔法は危ないから身体強化とケガをしない魔法にするよ」

「そうだね」

「では、始める前に準備体操はしっかりしてください。いきなり激しい運動をすると危ないですからね」

「うん」

「わかった」


 わたしたちはお互いにクッシンをしたり手足をブラブラと振りケガをしないようにしっかりと準備運動をする。


「よし!準備完了だね!」

「いろのさんは身体強化はいつ使うかな?」

「そういえばそうだったねクロロンはどうするの?」

「様子をみてから使いたいところだけど体力に自信がないからはじめに使ってホンキでボールをとりに行こうと思うよ。それでスタミナがなくなっちゃったら回復するまですこしまってもう一度使ってみるね」

「じゃあ、わたしはクロロンの体力がなくなっちゃった後とかスキがみえた時にタイミングをみて使うね」

「うん。よろしくね」

「相手にする本人の前で作戦会議とはまる聞こえですわよ」

「あっ!」


 わたしとクロロンはお互いにハッとする。それをみたフラウムは呆れた感じで返す。


「お二人らしいですわね。ですが、お二人のその抜けているところ好きですわよ」


 そういうとフラウムは手に持っていたボールを地面に弾ませる。


「さあ、そろそろ始めますわよ」

「よーし!いくよー!マックスダーイヘーンシン!シャキーーン!」


 クロロンはそう叫ぶと両手を斜めに構えて強化魔法をかけた。それをみたフラウムはポカーンとした表情を浮かべ一瞬動きを止めた。


「いまだ!」

「!」


 わたしはすかさずボールに触れようとしたけどすぐに正気を取り戻したフラウムが華麗にかわした。


「危なかったですわ…まさかいきなりボールを取られそうになるとは中々いい作戦ですわ緑風さん」


 フラウムはクロロンを褒めるが当の本人は一瞬ナニが起こったのか理解していなかったみたいだった。


「そ、そうだね~うん、ま、まさか、この作戦にすぐに対応しちゃうとはさ、さすがきのせさんだね~…」


 理解したクロロンはすごい目を泳がせながら返す。


「嘘が御下手ですわね…まあ、気を取り直して行きますわよ」


 体育館にボールの弾む音と靴を滑らせる音が響く。


 わたしとクロロンは必至にボールに食らいついたけど、やはり触れること、ましてやフラウムの動きにも着いていくことが出来なかった。なんとか二人で挟み込めてもまるで息をする様に股下にボールを潜らせて抜けたり何度かシュートを決めていたのでシュートを打つ瞬間を狙ったらフェイントを華麗にされ、ゴールに直接いれようとしてジャンプしたところを二人でジャンプして止めようとしたら空中で体勢を変えてわたしたちの空いた隙間からボールを投げて入れたりどこかのマンガでみるようなダンクをきめられたりした。


「…わお」

「…ふつくしぃ」


 こんなに何度もかわされ美しくゴールを決められてしまうともうわたしたちは逆に感心してしまっていた。


「御二人さんもう終わりですの?息があがってますわよ」

「はあ…はあ…フッ…きのせさん舐めてもらっちゃこまるよ」

「はあ…はあ…クロロン?」


 わたしは膝に手をつきながらクロロンをみる。


「ちょっとホンキを出そうかな」

「本気?」

「頼んだよ…もうひとりのぼく」

「え?」


 そういうとクロロンは途中から腰に巻いていた上着を自分の肩に巻き直した。


「ああ、後は任せときな」

「え?」


 突然変なことを言い出したクロロンにわたしとフラウムは目を丸くする。


「クロロンどうしたの?」

「おれはクウタでありクウタじゃないぜ」

「あの、緑風さん?」

「おれは『ブラックウタ』封印されし闇の王だぜ」

「………なるほど、そういう設定ってことですわね」

「あっそういうこと」


 フラウムの言葉にわたしはなるほどと手をポンと叩く。


「つまり、クロロンはなんだかよくわからないけど魔王ごっこ的なのを始めたんだね」

「それはどうかな?」

「え?」

「おれは『ブラックウタ』だぜ」

「意地でも貫くんですわね」

「お遊びはここまでってところを思いしらせてやるぜ」

「負けフラグですわね」

「いくぜ!速攻アタック『旋風突進』!」


 高らかに技を叫ぶとクロロンはフラウムにむかって走り出した。


「もらったぜ!『シャイニングフラッシュ』!」

「『闇』って云ってるのに輝きまくってますわね」


 フラウムはツッコミながらも華麗にかわす。


「フン、あまいぜ!『ウインド』!」


 スカッ


「『ダブルウインド』!」


 スカッ


「『ギャラクシーウインド』!」


 スカッ


 見事にすべてかわされてしまった。


「うあーーーなんでぇーー!」


 クロロンは奇声を発しながら地面に手をついた。


 あれ?よくよく考えてみたらこれってチャンスだよね?


「…よし」


 わたしはゆっくりとフラウムに近づく。


 そお~っと 


 そお~っと


「万策尽きましたわね」

「それはどうかな?」

「今だ!」


 わたしは一気にボール目掛けて手を伸ばす。


「甘いですわ」

「え!?」


 振り返ったフラウムにあっさり避けられてしまった。


「これが緑風さんの作戦ってことぐらいお見通しですわよ」

「『風神の一撃!ゴッドウインドクラッシャー!』」

「え?」


 フラウムの背後から突然クロロンの叫び声が聞こえてきたかと思ったらクロロンの手がボールに当たってフラウムの手から離れ高く宙を舞った。


「あれ?」

「しまった!」


 ボールが宙を舞っているほんの数秒間わたしの世界がスローになる感覚がした。スローになっているというか咄嗟にカラダが動いた感じかな?


 一瞬なにが起こったのか理解していない感じのクロロンと予想だにしない事態が起こって驚いているフラウムだったが二人は慌ててボールを取りに行こうとジャンプをしていた。


 わたしも二人に続いて飛ぼうとしたけどフラウムの身体能力には敵わないことはわかっていたから一瞬ためらったけど、ふとある方法を思いついてすぐにそれを行動に移した。


 それは『すべての魔力を足にかけること』そして、すぐにわたしは飛び上がった。


 すると、フラウムたちより高く飛べて早くボールをキャッチすることに成功した!


「やった!やったよー!」


 わたしは大喜びしたけどあることを忘れていた。


「い、いろのさん着地は!?」

「え?ああ!?」


 すべての魔力を足にかけてしまったことで高く飛び過ぎてしまった。


「アカリさん!」

「うわあー!?」


 わたしのカラダに重力がかかりわたしは地面目掛けて落下していく。


「ピュピュ―!」


 クーが必至にわたしを掴んで飛ぼうとするけどダメみたい!


「ぶ、ぶつかるー!」


 地面にぶつかる覚悟をしたわたしは目をつむる。


「うん?」


 だけど、思ったよりも痛くなかった。


「あれ?」


 そっと目を開けるとフラウムとクロロンがわたしを受け止めてくれていた。


「いろのさん大丈夫かな?」

「お怪我はありませんか?」

「あ、ありがとう二人こそケガないかな?それにクーもありがとう」

「ピュルーン」

「助けた方を心配してどうするんですの?」

「そうだよ、いろのさんは今のぼくたちと違って『本物』なんだから」

「そうだったね」

「ぼくなんかはなにがあっても大丈夫だけどいろのさんになにかあったら大変だからね」

「それはちがうよ!」

「え?」

「今回の行動はわたしがなにも考えずに起しちゃったけど、今のクロロンとフラウムが『造られた』存在だったとしてもわたしは今の二人は『本物』だと思ってるよ」

「…いろのさん」

「………」

「だから、二人は変わらずわたしの『トモダチ』だよ」


 二人はお互いをみるとクスリと笑いこちらに向き直った。


「まあ、アカリさんらしい考えですわね」

「そうだね、なんというかさすがって感じだね」

「さて、話を戻しますが、ワタクシの負けですので約束通りこちらをお渡し致しますわ」

「あ、忘れてた」


 フラウムから二つ目のカケラを受け取った。


「じゃあ、緑風さん後はお任せ致しますわね」

「うん、わかった」

「もう行っちゃうの?」

「ええ、ほんの少しでも遊べて楽しかったですわ。今度はぜひ『あちらのワタクシ』ともやってくださいね」

「うん、また『アナタ』ともやろうね」


 わたしがそういうとフラウムは微笑みながら消えていった。


「疲れたけどたのしかったね」

「うん、あまり他の人とカラダを使う遊びはやったことなかったからなんだか新鮮な気分だったよ」

「また、みんなともやりたいね」

「う…うん。そうだ次に行かないとね」


 一瞬クロロンが複雑そうな顔をした気がするけど気のせいかな?


「つぎはもしかしてシアンかな?」

「すごい!よくわかったね!そうだよ次はみっくんをさがしてみようか」

「シアンのいそうな場所かぁ」


 わたしはシアンのいそうな場所を考えてみる。


 シアンはいつもボーっとしていてちょっとなにを考えているかわからないけど、よく教室の窓から空をみていた気がするな。


 もしかして、《空がみえる場所》かな?そして、空が《近い場所》といえば…


「《屋上》かな?」

「じゃあ、答えあわせに行こうか」

「うん」


 わたしたちは体育館を後にすると屋上にむかった。



「ねえクロロン。クロロンとシアンって幼馴染なんだよね」

「あれ?デジャブかな?」

「シアンってむかしからあんなにボーとしてたの?」

「うーん、そうだね。むかしから基本あんな感じだけど、しっかりと自分の《いし》はちゃんと持っていたよ」

「自分のいし?」

「《いし》っていっても色んな意味があると思うけど、相手を思う《意思》、目標をしっかりと持っている《意志》とかお医者さんの《医師》とかね」


 たぶん最後のはなにか違う気がするけど気のせいかな?


「みっくんはいつもボーっとしているけどちゃんと周りもしっかりとみれているんだ」

「シアンのこと信頼してるんだね」

「そうだね。ちょっと言い方は気持ち悪いかもしれないけど、お互いのことを知っているからこその信頼かな」

「全然気持ち悪くないよ!むしろすごいうらやましいよ!裏山に住む浦山さんなみにうらやましいよ!」

「うらやまさんってどなたかな?」

「とにかく二人が固い友情で結ばれているってことだよね!」

「そういってもらえると少し照れくさいけどうれしいな」


 そうこう話している内に屋上のドアの前に着いた。


「ここだね」

「そうだね」

「さて、シアンはいるかな?」


 わたしはウキウキしながらドアを開けた。


 すると、そこにはシアンはいなかった。


「あれ?いない?」


 わたしは屋上を見回すけどシアンはどこにもいなかった。


「もしかして間違えちゃった!?」

「…ここ」

「え?」


 わたしは声のした方に振りかえるとシアンが屋上のドアの屋根のところに座っていた。


「シアン!そんなところにいたんだね」

「まあ」

「みっくん空の眺めはどうかな?」


 クロロンがシアンにそう尋ねるとシアンは屋根から降りてきた。


「やっぱり《本物の空》がみたい」

「そういうと思ったよ」

「え?《本物の空》?」

「ぼくたちと同じ様にこの場所というより空間も造られたモノなんだ」

「え!?そうだったの!?」


 わたしはすごく驚いた。


「アカリ、これ」

「え?」


 シアンはわたしにカケラを手渡した。


「ええ!?もらっていいの!?試練は?」

「終わった」

「ええ!?」


 さっきからわたし『え!?』ばっかりいってる気がするけど気のせいじゃないよね。


「どういうこと?シアン」

「《探す》それだけ」


 わたしは頭にハテナをつけながら首をかしげる。


「えーっと、みっくんの言いたいことをまとめると、いろのさんがみっくんをみつけるのがみっくんからの試練だったみたいだね」

「それとめんどくさかったから」

「正直だね」


 軽くツッコムクロロンだったけどシアンが「…でも」と続ける。


「…アカリならすぐみつけてくれると思ったから…それだけ」


 どういうことだろう?


「やっぱりみっくんもいろのさんを信頼しているんだね」

「……」


 シアンはなにも答えなかったがクロロンはシアンの考えていることを理解している感じだった。


「じゃあ、行く」

「え?もう行っちゃうの?」

「終わったから」

「そうだけど、もうすこしお話したいな」


 わたしはシアンを呼びとめる。


「また、今度」


 そう一言だけシアンは無表情ながらもすこし嬉しそうに微笑んでいる気がした。


 そして、その場から姿を消した。


「行っちゃったね」

「口数は少ないけど、ああみえてみっくんいつもいろのさんと話していて楽しそうにしてるんだよ」

「そうなの?」

「うん、だから帰ったらみっくんといっぱいお話してあげてほしいな」

「わかった!帰ったらみんなといっぱいお話しよう!もちろんクロロンともだよ」

「!…あ、ありがとう」


 わたしの言葉になぜかクロロンは驚いた顔をした。


「じゃあ、全員分カケラを集め終わったし神獣さんを探しに行こうか」

「あれ?まだ全員分集まってないよ?」

「え?」

「後はクロロンだけだね」

「え!?なんでわかったの!?」


 クロロンはさらに驚いた顔をする。


「なんでって今までわたしの大切なトモダチからだったからクロロンももっているかなと思って」

「ぼくはただの案内役ってことは考えなかったのかな?」


 クロロンはフシギそうに質問してくる。


「あ、そういえばそうだったね。でも、それでも関係なかったかな」


 わたしは「だって」と言葉を続ける。


「この試練は《人と人とのかかわり》をみているんだよね?だったらクロロンが関係ないなんて思わなかったな」 

     

 クロロンはすこし顔をさげて考えごとをしている感じだったけどすぐに顔をあげた。


「さすがいろのさんだね…ちょっとだけ歩きながら話さないかな?」

「うん、いいよ」


 わたしたちは屋上を後にした。



「つまらない話だけどすこし聞いてもらってもいいかな?」


 廊下を歩きながらクロロンは話はじめた。


「ぼくはね、実は《トモダチ》って言葉が《怖かった》んだ」

「え?」

「むかしね、トモダチ《だった》人がいてね。よくその人と遊んでいたんだ。はじめはその子もぼくのことをトモダチと思ってくれていてもちろんぼくもトモダチだと思っていたんだ」


 クロロンは「でもね」とつけたすと少し顔を暗くした。


「ある時からね、その子はぼくに暴言を吐いたり殴るようになったんだ」

「!」

「そして、その時からなぜかぼくはクラスの人たちからムシされるようになっちゃたんだ」

「それって、いじめ!?」

「違うと思うな…たぶん…しらないうちにぼくがみんなの嫌がることをやっちゃったんだ…」


 また、あの眼だ…いつも明るくてとても優しいクロロンだけどたまにすごい哀しそうな眼をするんだ…。


 そして、わたしは思い出した、なぜかクロロンのことを変な眼、うまくいえないけど《悪意》ある眼でみる人がたまにいた。そして、今に思えば気づいてない感じだったけど、たぶんクロロンは《気づいていないフリ》をしていたんだ…。


「ご、ごめん!クロロン!今まで気づかなくて!」


 わたしは深く頭を下げて謝る。


「ち、違うよこっちこそごめんね。急に変なことを言っちゃって」


 逆に謝らせてしまった。


「それにいわれたんだ。『お前が悪い』『ゴミ虫』『クズ』ってだからぼくが《悪いんだ》」


 胸がイタイ…。


「そして、ある日ね。その子が夜、ぼくの家にきてね。こういったんだ。親から借りたお金を使っちゃって道中で落としたって嘘をついてきたからお金かしてよってね。そして、彼は最後にこうつけたしたんだ。『俺たち《友達》だろ?』って」


 わたしがよく口にする言葉。


「その時ぼくの中でナニかが《壊れる》感覚がしたんだ。トモダチってなんだろう?って《これが友情?迷う心情》って感じだね」


 わたしの一番 《好き》な言葉がクロロンを一番 《傷つけていた》言葉なんて…。涙が出そうだったでも一番泣きたいのはクロロンのはずだ。


 でも………でも!


「クロロン!」

「え!?」


 わたしはクロロンの手を握る。


「ごめんねクロロン!わたしの言葉がクロロンを苦しめていたなら本当にごめんね!だけど、これだけは信じて!わたしは本当にクロロンやみんなのことをかけがえのない《大切なトモダチ》だと思ってるしみんなとの思い出も《タカラモノ》だと思ってるよ!だから、ひとりで悩まないでわたしたちがいるから!」


 握る手に強く思いを込める。


「ありがとう」


 クロロンは優しく微笑む。


「さすがいろのさんだね。こっちこそ変なことをいってごめんね。逆にぼくはいろのさんの言葉に救われていたんだ」

「え!?」

「いろのさんの言葉っていつもすごいまっすぐで力強くてぼくは尊敬していて本当に感謝をしていたんだ。だから」


 クロロンはまっすぐわたしをみつめる。


「本当にありがとう」


 いつもの明るくて優しくて屈託のない笑顔でクロロンは微笑んだ。


「さて、ぼくのつまらない話に付き合ってくれたいろのさんにお礼をしないとね」


 クロロンはわたしにカケラを手渡した。


「これって」

「そう!見事にいろのさんはぼくの試練をクリアしたのです!」

「クロロンの試練って?」

「それは内緒かな」


 クロロンは口元に指を立てていう。


「いじわるしちゃってごめんね。でも、なんとなく内緒にしておきたいんだ」


 今まではみんなの試練の内容を察して教えてくれていた感じだけど自分の試練の内容は内緒にしたいってことは…。


「もしかして、わたし自身に気づいてほしいってことかな?」

「そうだね。まあ、いろのさんならすぐに気づいてくれると思うけどね」

「じゃあ、わたしも気づいても教えてあげないね」

「えー!?いろのさんいじわるだなぁ~」

「おたがいさまだね」


 お互い笑いあう。


「それじゃあぼくの役目はここまでだね」

「うん、ありがとう」

「こちらこそありがとう、帰ったら《あっち》のぼくにもよろしくね」

「またね」


「また」そう一言だけ返すとクロロンは笑顔で消えていった。



 しばらくわたしは静かになった廊下で余韻に浸っていた。


「よし」


 ほんの数分いや数十秒だったかもしれないけどゆっくりしたわたしはそう一言口にする。 


「行こうかクー」

「ピュルーン」


 頭の上のクーにそういい歩き出した。


 下駄箱のクツを取り出し外に出るとわたしは一番はじめにいた場所に戻ってきた。そして大きく深呼吸をする。


「神獣さんありがとーう!!!」


 わたしは大声で叫ぶ正しくは呼びかけるかな?


「トモダチの大切さを思い出させてくれてありがとう!」


「思い出の大切さを思い出させてくれてありがとう!」


「みんなとの大切な繋がりを思い出させてくれてありがとう!」


「そして今もいろいろな思い出をつくらせてくれてありがとう!」


 心の底からの感謝をわたしは叫ぶ。


「まさか『ありがとう』とはね」

「!」


 背後から声がして振りかえるとそこには茶色いカラダで丸いしっぽの頭に葉っぱをのせている生物がいた。


「タヌキさん?」

「おしい!ぼくは『たぬきち』だよ」

「おしいね」

「さて、いきなり本題にはいるけどカケラを集め終わったみたいだね」

「もしかして、キミが神獣さん?」

「うん、そうだよ。今回のぼくの試練は聞いていると思うけど《人と人とのかかわり》をみたかったんだよね」

「みんなとさらに仲良くなった気がしてすごい楽しかったよ」

「それはよかった。でも、正直にいうとぼくは人間を信用していないんだよね」

「!」

「まあ、その話をする前にこの場所を《元に戻そうか》」


 たぬきちさんは飛び上がり一回転するとポンと辺りが煙に包まれる。


 しばらくして煙が消えるとそこは《ナニもない》空間だった。


 そして、人間の少年の姿になっていた。


「こっちのほうが話しやすいと思ってね」 


 たぬきちさんはいたずらっぽく笑う。


「今回キミを試すにあたってぼくが行ったのはキミの『記憶から大切な人達』を造りだしてみたんだ」

「レータ、フラウム、シアン、そしてクロロンだね」

「そう、そしてキミがクロロンと呼ぶ少年クウタだったかな?彼はぼくと《似ていた》んだよね」

「クロロンと?」

「彼ってなんというか無意識的に《人の感情に敏感》だったんだよね。それってぼくと同じように《人間に抱く警戒心》とも取れるよね?」

「それがキミのいう人間を信頼していないってこと?」

「そうだね。だけど《信頼してる》ところもあるんだ」

「え~っと?どういうことかな?」


 わたしは頭にハテナを出す。


「彼はというか、ぼく自身もわかっているんだよね。世の中十人中九人が悪い人で一人がいい人だったとするとすべてが嫌な人じゃなくて信用出来る人がいる。逆もしかりだよね嫌な人も必ず世の中に存在する。つまり、《人とのかかわり》が大事だってね」

「かかわり」


 その言葉の重要さが鮮明になってくる。


「人とのかかわりが人生をよくも悪くもするんだよね」

「………」

「そして、ぼくは思ったんだキミは純粋でまっすぐな人だってね。それを生かすも殺すもこれからのキミの人生しだいだね」


 人生そんなこと考えもしなかった。


 生かすも殺すもわたししだい…なら。


「うん、わかったよ!もし、わたしが間違った道を進んじゃったとしても大丈夫!だってわたしはみんなを《信頼》しているから!だから、きっとわたしはみんなとの《かかわり》を絶対大切にするよ!」


 わたしは心からの気持ちを叫ぶ。その言葉を聞いたたぬきちさんはクスリと笑う。


「よし!よくいったね。じゃあ、ぼくの試練はこれで終わりだよ」


 たぬきちさんはわたしの後ろを指さす。


「そこに集めたカケラをはめ込むんだ。そしたらこの場所から抜け出せるよ」


 トビラにカケラをはめ込む場所が現れる。


 わたしは今回の思い出をひとつひとつ思い出してはめ込んでいく。


 レータとの本の話。


 フラウムとのバスケ対決。


 シアンと今度たくさん話す約束。


 クロロンとの深まったキズナ。


 ひとつひとつに気持ちを込めていく。そして、すべてはめ込むとトビラが開いた。


「ねえ、たぬきちさん」

「うん?」


 わたしはたぬきちさんに声をかける。


「また会おうね!」


 ゲンキよくたぬきちさんにいうと笑顔を返してくれた。


「行こうかクー」

「ピュルーン」


 そういうとわたしはトビラをくぐった。


「どうかキミの笑顔が壊されないように」

「?」


 後ろでたぬきちさんがなにかをいっていたけどわたしには届かなかった。


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