7色 クーの秘密?

「おじゃましまーす」

「ピュルーン♪」

「お、きたね、まってたよ」


 今日、わたしたちはシーニの研究所にきていた。


「お邪魔致しますわ」

「お邪魔します」


 もちろんフラウムとレータたちもね!


「よくきたね!ミズキとクウタくんはもう先にきてるよ」


 何日か同じことをしたり、タコの高さをかえたりしてクーの特訓を続けていたわたしたちだけど、クーが急に大きくなりはじめた理由はレータが果物のおにいさんから聞いた話だとタコに流している魔力をクーが吸っているのが原因かもしれないらしくて、そのせいか今はクーの大きさは高さが30センチぐらいにまで成長したんだ。それで、これ以上外の特訓はかなり人目を集めちゃうかもしれないからってことでシーニが特訓の場所を『造ってくれた』らしくてそれで今日はここにきたんだ!


「ひさしぶりじゃのうアカリさん」

「あ、魔女のおねえさん!」


 研究所の中にある机の前のイスに座っているおねえさんが手をふっている。


「どうしておねえさんがここにいるの?」

「シーニさんの紅茶を飲みにきたのじゃよ、シーニさんの淹れた紅茶は実に美味じゃからのう」

「ほめてくれるのはうれしいけど、ここは喫茶店じゃないよ」

 シーニは苦笑いする。


「すみません、失礼を承知でいいますがワタクシもその美味しい紅茶を頂いても宜しいでしょうか?」

「え?いいけどそんなたいしたものじゃないよ?それにお茶っ葉だって市販のものだし」

「大丈夫ですわ、ワタクシ紅茶には目がなくて」

「わたしもシーニの紅茶のみたい!」

 わたしも飲みたいと手をあげてアピールする。


 魔女のおねえさんのいう通りシーニの淹れた紅茶はすごく美味しいのだ。


「そう、ならちょっとまっててね」

「あの、僕は先に彼らの所に行ってもいいですか?」

 レータが少し遠慮しがちにいう。


「ごめん、そうだったねレータくんだよね?先にキミとクーを案内するよ」


 そういうとシーニはレータとクーをとあるドアの前に案内した。


「これは?」


 そう聞くレータにシーニは「入ればわかるよ」と笑顔で返し、中にはいるようにうながした。


「はあ…」


 すこし疑問げにレータはいいながらそのドアの中にはいって行った。すると、レータの姿が消えた。


「メガネが消えましたわ!」

「中々のパワーワードじゃのう」

「レータとメガネがきえたよ!」

「彼とメガネは別々の扱いなのかのう?」

「大丈夫だよ、ミズキとクウタくんもこの中にいるから」


 驚くわたしとフラウムにシーニは説明してくれる。


「このドアはね、わたしが発明した『魔空間ルーム』っていうもので空気中の魔力と魔法卵の魔力を使ってこのドアの先に仮想空間を造りだして、そこにわたしたちの体を転送しているんだ」

「なるほど、そんな高度な技術を実現出来るなんてやはり貴方は噂以上の天才ですわね」

「そりゃそうじゃシーニさん以上の天才をわたしゃは生まれてこの方みたことないからのう」

「へ~そうなんだ」

「あら?珍しくアカリさんが理解出来てますのね?」

「うん!つまりどういうこと!」


 わたしがゲンキよく返事をすると3人ともずっこけてしまった。


「少しでもアカリさんに関心したワタクシがバカでしたわ」

 フラウムはおでこに片手をおく。


「まあ、仕方ないじゃろう実際かなり難しいことを云っておるからのう」

「えーと、そうだね、わかりやすく説明するにはそうだな~」 

「そうじゃのう、解りやすく云うとこれじゃな」


 魔女のおねえさんは空間に魔法陣をだすとそこから一冊の本を取り出した。


「こうやってこの魔法収納を使ったりはせんかのう?」

「シーニがよく使ってるやつだね」

「そうじゃ、原理はそれとほぼ同じでこれを沢山の魔力を使って先程シーニさんが説明した魔空間ルームを造りだしておるんじゃ」

「そうなんだ!すごいねシーニ!」


 わたしはやっと少し理解出来た気がした。


 その後、シーニが紅茶を淹れてくれた。


「これは…市販のものとは思えないほど香りもよくとても美味しいお味ですわ」

「じゃろじゃろ」

「やっぱりシーニの紅茶はおいしいね!」

「『シーニの淹れた紅茶』と商品に出来るレベルじゃろ?」

「うん、『シーニ茶』絶対売れるよ!」

「スポンサーは我が黄瀬財閥が持ちましてよ」

「こらこら勝手に話を進めないで」


 わたしたちは女子会で盛り上がっていた。


「すみません、シーニさん」

「ん?なに?」


 ふと、なにかを思い出したのかフラウムはシーニに話かけた。


「実は今日ここのお伺いしたのはクーさんのこととは違う理由がありまして…」

「?」


 フラウムは少しいいづらそうだけど意を決して口を開いた。


「ワタクシに魔法が使える様になるアイテムを造っていただけませんか?」

「いいよ、ていうかそういうアイテム確かもう造ってた気がするよ」

「ええ!?」 

 平然というシーニにフラウムは驚く。


「ちょっとまっててね」


 研究所においてあった大きな箱の前に行くとそれを開けてシーニはなにかを探しはじめた。


「あ、あったあった」


 シーニはなにかを箱から取り出すとそれをフラウムに渡した。


「これは…ポーチですわね」

「そう、それはねポーチの中に魔力を少し溜めてほんの少しなら魔法が使えるんだ」

「一体どのような?」

「大きな魔法は使えないけどお湯を沸かすだったり扇風機ほどの風をおこすだったりかな」

「もはや便利家電じゃのう」

「でも、本来は身体能力強化アイテムだけどね」

「身体能力強化?」

「うん、本来の使い方はそのポーチに溜めた魔力をカラダに纏って身体能力を底上げするアイテムなんだけど、カラダへの負担が大きいから没にしたものなんだよね」

「どれほどの代償が?」

「筋肉痛がすごいんだよね」

「それは地味に嫌じゃのう」

「まあ、でもキミなら大丈夫だと思うけどね」

「?」

「お主、今まで体力面を沢山努力して鍛えておったのじゃろう?」

「!どうしてそれを!?」


 おねえさんの言葉にフラウムは目を見開きながら驚くとおねえさんは優しい笑顔をむけながらいう。


「視れば判るのじゃ、お主は残念ながら魔力は一切感じられぬがその努力したカラダが語っておる」

「よかったねフラウム」


 わたしはなんだか嬉しくなってきた。


「ええ、あの代金のほうはお幾ら」

「ぜんぜんいいよ!どっちかというと試作品みたいなものだし逆になにかあったら改良するから教えて欲しいな」

「ありがとうございます、大事に使わせて頂きますわ」 


 フラウムは深く頭をさげた。


「ねえ、シーニ、その箱のなかみてもいいかな?」

「いいよ、でもそんなたいしたものははいってないよ」


 わたしはシーニの発明が気になって箱のなかをいろいろと探してみた。


 すると、あるものが目にはいってそれを手に取った。


「ん?これって?ねえ、これみてー」


 わたしは机にいる三人の前にそれをおいた。


「こ、これは…」


 それをフラウムが覗き込んですこし固まった。


「これは、写真じゃのう」

「ずいぶんなつかしいのがでてきたね」


 そう、わたしが取り出したのは写真立てにはいっている1枚の写真だった。


 そこには、二人の小さな男の子と一人の小さな女の子が並んで写ってた。女の子のほうはだれだかわからなかったけど、二人の男の子は一目でわかった。


「もしかして、これって小さい時のシアンとクロロン?キャーカワイー!」

「可愛いですわね」

「でしょでしょ!うちのミズキとクウタくんは昔からかわいかったんだから、こんなところにあったんだね」

「無くしておったのか…」

「たぶん、発明品とかと適当にしまっちゃってたみたいだね」

「ズボラじゃのう」


 シーニは頭をかきながら笑ってそれをおねえさんが呆れたようにみる。


「クロロンの顔ってむかしっからあんまりかわってないんだね」

「今日はワタクシにとってある意味収穫日ですわ」

 フラウムは小さくガッツポーズをする。


「ところで、この緑風さんの隣にいる女性はどなたですの?」

「あ、そうそうわたしも気になってた」


 わたしはこのクロロンの隣にいる女の子がだれなのかシーニに聞いてみる。


「それはね、はーちゃんだよ」

「はーちゃん?」

「うん、ハヅキちゃんっていうミズキとクウタくんの幼馴染なんだ」

「緑風さんに天海さん以外の幼馴染がいたとは…」

「今は遠くに引っ越しちゃって確か10年ぐらいかな、会ってないけど3人すごく仲がよかったんだよ」

 シーニは懐かしそうに話す。


「しかも、ハヅキちゃんはクウタくんのことが大好きでね、いつもクウタくんにくっついてたんだ」

「キャー!それってそれってクロロンからしても初恋かもしれないってことだねー!キャー!」

「!初恋」

 フラウムがカラダをピクリと反応させる。


「ま、まあ、まだ子供の時ですから初恋だと感じてないと思いますわよ」

「青いのう」


 これはもしかしてもしかして甘酸っぱいコイバナの予感!?なんてわたしがコーフンしているとドアの開く音がしてわたしたちはそっちをみるとドアからシアンたちがでてきた。


「二人ともまだ飲んでたのかい?」 


 レータが少しイヤミっぽくいってくる。


「あ、いろのさんときのせさんこんにちは」


 その後ろからのほほーんとした雰囲気で頭にクーを乗せたクロロンがいう。


「…ん」


 シアンは相変わらず眠たそうにしている。


「クウタさんそれ重くないのかのう?」

 魔女のおねえさんがクーを頭に乗せたクロロンに聞く。


「ちょっと重いですけどクーくんが喜んでくれるので平気です」

 クロロンは曇りひとつない笑顔で返す。


「あ、そうだ!シアン、クロロンこれみてよ!」


 わたしはさっきみていた写真を二人にみせた。


「ねえねえ、この女の子おぼえてる?」

「…うん」

「?」


 シアンは首を縦にふったけどクロロンは首を傾げた。


「クウタ覚えてないのか?」

「え?…うん、みっくんはこの女の子しってるの?」


 クロロンは不思議そうに聞く。


「クウタくん、ハヅキちゃんだよ覚えてない?」

「いつも、クウタにくっついてた」


 クロロンの反応が意外だったのかシーニがすこし驚きながら聞きシアンもそれに続く。


「う…ん?ごめん、なぜか思い出せないな…なんでだろう…」


 クロロン本人が一番困惑しているみたい。


「もしかしたら、10年も前で御二人が小さかったから記憶の差があるんじゃなくて?」

「まあ、有り得なくはないね」


 困っているクロロンにフラウムがフォローをいれそこにレータも言葉を足した。


「そうなの…かな?」


 クロロンは腕を組みながらいい「だけど…」と言葉を続ける。


「うまくいえないけど、なんかというか、えーっと…記憶にはまったくないけど、でも、なつかしいような?…なんかスッポリと抜け落ちてる?…ような?」

「?」


 わたしたちがクロロンの言葉に首かしげていると魔女のおねえさんが「…ほう」と小さく呟いたような気がした。


「まあ、無理に思い出さんくっても良いじゃろう。それに、そんなに頭を悩ませては体に悪いからのう」

「そうだね、まあ、昔の事だから覚えてなくても不思議じゃないしね」


 シーニはなにかを察したのか「問い詰めるみたいになってごめんね」とクロロンに謝りクロロンも「こちらこそすいません」と頭を下げた。


「おっと、そうじゃ、丁度全員集まっとるならチョイと面白いものを見せようかのう」

「おもしろいもの?」


 魔女のおねえさんがふと思い出したのかいう。


「この前、わたしゃがクーさんを調べるために数本ハネをもらったじゃろ?それで、おばあちゃんと一緒に調べておったら面白いことが分かったんじゃよ…」


 ピンポーン♪


 おねえさんの話しの途中でシーニの研究室のインターホンがなった。


「おや?誰か観えたみたいじゃのう」

「お、来たみたいだね」

「タイミング悪いな…」


 話の腰を折られたというレータに「ある意味ナイスタイミングかもね」とシーニはいい「話を続けてていいよ」と玄関にむかった。


「よし、気を取り直して話を続けるかのう」


 咳ばらいをして話はじめふところから一本のキレイなハネを取り出した。


「ここに前貰ったハネがあるじゃろう?これに魔力を流すと不思議なことが起こるんじゃ、見とるんじゃぞ」


 そういうとおねえさんがハネに魔力を流すとハネがピンク色に輝きだした。


「わあ、キレイだね」


 わたしたちはその輝きに感動する。


「面白いのはここからじゃ、アカリさんやお主も一度試してみるのじゃ」

「え?うん」


 おねえさんにもう一つのハネを渡されわたしもすこし魔力を流してみた。


 すると、さっきと違って赤色に輝きだした。


「あれ!?さっきと色がちがうよ!?」

「そう、それが面白いことじゃ」

「なるほど、人によって魔力の色が違う様にハネの色も人によって変わるということですか。かなり良いタイミングで来れたみたいですね」

「!?」


 振り返るとシーニの隣に赤髪の女の子がいた。


「あ、マル!ひさしぶり」

「アカリ、ご無沙汰です」


 そこにはひさしぶりに会うマルがいた。


「八百屋のマルじゃないか」

「こんにちは日紫喜書店のメガネくん」

「怜太だよ」

「マルとレータって知り合いだったの?」

「はい、実家の八百屋兼探偵所のある商店街で彼の実家もお店を構えてまして顔見知りと云った感じです」

「ムカつくことにあの鍵女も近くに店を構えてるのさ」

 レータがイヤミったらしくいう。


「メガネくん、御心境はお察ししますが程々にですよ」


 マルはなにか事情を知っているのか、やれやれといった感じで返す。


「まあ、何と云うか世間は狭いですね」

「あの、盛り上がってる所申し訳ありませんが、アカリさんとメガネのお知り合いですの?」


 わたしたち三人だけで話していてカヤの外になっていたフラウムが聞いてきた。


「あ!そうだった!みんなにも紹介するね!わたしの友達のマルだよ!」

「正しくは丸内 林檎と申します」

「ワタクシは黄瀬 楓夢と申しますわ。以後お見知り置きを」


 フラウムは丁寧にお嬢様って感じのお辞儀をした。


「あっ、えっと、みどりかぜ くうたです。イゴはやったことないです」

「アマミ ミズキ…よろしく」


 クロロンはフラウムのマネをしながらシアンは相変わらず眠たそうにいう。それをみてナゼか他のみんなと挨拶を一緒にしていたフラウムが肩を震わせていた。


「はい、こちらこそよろしくお願いします。えーっと、クルクルお嬢様とナチュラルテンパボーイと眠たそうな少年」

「うん、よろしくね」

「1ミリも名前覚えてないじゃないか!」

「緑風さんナチュラルに進めようとしましたけど、それでいいんですの?」

「ぼくもあまり人の名前を覚えるの得意じゃないけどすこしずつ覚えていけば大丈夫だよ」

「クロロンいいこという」

「クロニクルくんの云う通りですね」

クロロンから歴史書クロニクルに変化したのう」

「2文字しか合ってないじゃないか」

「一体どう間違えたらそんな間違いするんですの」

「マルも相変わらずだね」

「では、自己紹介も済んだ事ですし本題に入りますね」


 マルはそう切り出すと肩に掛けていたバックをおろして中から本と何枚かの紙を取り出した。


「これは?」

「魔導学に詳しい先輩の知人からお借りした『魔導生物研究図鑑』という物です」

「まどーせいぶつけんきゅーずかん?」

「分かりやすく云えば、いわゆる魔獣や神獣といった聞いたことはあるけど存在がはっきりと分かっていない生物をまとめた本です」

「リンゴさんといったかのう?少しそれを見せてくれぬか?」


 魔女のおねえさんが少し驚きながらマルに聞き。

 マルは「どうぞ。」といい渡した。

 そして、本のページをめくりながらおねえさんはさらに驚きの表情を浮かべた。


「これは驚きじゃ、まさかここに書いてあることはまごうことなき《事実》じゃ」

「どういうことですか?」

「図鑑ってことは《事実》ってことじゃないの?」


 わたしとクロロンはおねえさんの言っていることがわからなくて首を傾げる。


「いや、そうとも限らないさ」 

 レータが言葉を続ける。


「書籍化されているからといって、そこの情報が全て真実とは限らないし、逆に云えば売上や話題性の為に嘘偽りを書いて誤った知識が書かれている可能性があるってことさ」

「それってサギってことかな?」

「ネットのフェイク情報と同じさ、信じるか信じないかはそれを見た人に委ねるってことさ」

「なんだかむずかしいね」


 わたしとクロロンは顔を見合わす。


「まあ、そう難しく考えんでもこの本にはそういった事がないということじゃ」

 おねえさんは「しかし」と言葉を続ける。


「わたしゃもおばあちゃんの書斎でしかこういったものを読んだことがないが、これはかなり珍しい物じゃのう。ということはこれは複製魔法でコピーした物じゃのう」

「私も先輩からそうお伺いしていましたがよく解りましたね」

 今度はマルが驚く。


「これ程珍しい物をそう簡単に他人に貸したくないものじゃ、そう考えるのが妥当じゃろう。そして、お主が見せたいページはここじゃろう?」


 そういうとおねえさんはとあるページを開いてマルに渡す。


「全てお見通しみたいですね」


 マルは苦笑しながらそのページをわたしたちにも見せてくれた。


 そこには、クーにとても似た鳥のような生き物の絵が描かれていた。


「え!?これってクー!?」

「正しくはクーと同じ種族の《クーデリア》という神獣みたいですね」

「クーデリア?」

「《デリア》とは《祭事》のことですわね」

「《クー》は普通に《空》っていう意味かな?」

「いや、とある国で《クー》という戦いの神がいると本で読んだことがあるぞ」

「ということは、クーもといクーデリアは《神の祭り》ってこと?」

「はい、大方合っています」

「なるほど、クーとはじめて出会った時にミズキが『クー』っていった時に大きく反応していたのはそういうことだったんだね」

「そうですね。偶然とはいえネム少年が云ったことがほぼ答えだったんですね」

「さすがわたしの弟!」


 シーニはとても誇らしそうに胸をはる。


「そして、これを見てください」


 マルはページの図を指さした。そこには、クーに似た鳥が人の頭に乗っている絵が描かれていた。


「これって今のクーとクロロンの姿と同じだね」

「ええ、テンパ少年の頭の上に乗っているのはクーデリアとしての習性でちゃんと意味が合ったんですね」

「この図鑑によると『気にいった人間の頭上に乗り魔力を少しずつ貰い受ける』と書いてあるのう」

「『クーデリアに気にいられる人間はかなり稀な存在』ってことはクウタくんとアカリは何気にすごいことをしていたんだね」

「え?そうなんですか?」


 クロロン本人はあまりしっくりきてないみたい。

 そういうわたしもよくわかってないけど…


「確かに振り返ってみればアカリとクウタ以外の頭に乗ったことはなかったな」

「何か理由があるのでしょうか?」

「もしかして、純粋な心を持っているからとか?」

「いや、単純にバカだからかもよ?」


 レータがすこしからかうようにいうとフラウムに軽く頭を叩かれた。


「冗談じゃないか…」

「貴方はいちいち人を煽らないと生きていけないんですの?」

「まあ、メガネくんの発言は無視するとして、皆さん一冊の本を回し読みじゃ観にくいでしょうから私が幾つか抜粋してまとめた用紙があるので良ければこちらも見てください」


 マルが机に数枚の紙をひろげた。


 そこには、名前についてや生態、伝説、そして、わたしたちから聞いたことを用紙ごとに内容分けされているものだった。


「す、すごいですわ」

「これを一人でまとめたの!?」

「いえ、書いたのは私ですが、情報の共有を先輩方と行い何処を重点的に書くか考えました」

「ほう、かなりよくまとまっておるのう」 

「ほぼ論文だな」

「すごいキレイな字だね」

「ナゼかねむくなる」

「わかる…」


 わたしたちは用紙を手に取りながら口ぐちに感想をいいお互いに気になったところを言っていく。


「あの、少し話が戻ってしまうのですが、ワタクシの持っている用紙によりますと『数百年に一度神獣がタマゴを産み、それを地上に落とし、そこから生まれた神獣の子を育て親の元へ返し神獣から認められたあかつきに開かれる宴で締めくくり数百年後の未来へ繋げる。この一連の流れのことを《クーデリア》と呼びそこから名前が付けられたという。』事についてですがアカリさんの仰っていた《試練》については書かれていませんわね」

「ええ、私も気になっていました。恐らくですが、あえて言及していないと思われます」


 マルはあごに手をあてながら真剣な顔で返す。


「書いてはいけない内容または秘密といったところじゃろう」

「もしかして、いろのさんだけじゃなくクーくんにかかわっているぼくたちも試されてるってことかな?」

「ん?どういうことかな?」


 みんながクロロンに注目する。


「あっと、えーと、なんていえばいいのかな…うまくいえないけど、《宴で締めくくる》ってことは《ひとりじゃない》ってことでしょ?だから、《クーデリアの存在を知っている人達》がいるってことでその人達も《試されている》んじゃないのかな?」


「!!」


 クロロンの言葉に一部の人が反応した。


「なるほど、頭が柔らかいとはこのことをいうのかもしれんのう…」

「私としたことがこんな単純なことに気が付かないとは…」


 マルとおねえさんはもう一度資料を見返しはじめた。

 

「え?どういうこと?」

「つまりはね…」


 なにもわからなかったわたしに二人と同時に気がついたシーニが教えてくれた。


「アカリの聞いた声は《アカリだけに向けられた声》じゃなくて《アカリを含めた人達》も含まれていたんだ」

「キミに分かりやすく云えば《全員が試練の対象》ってことさ」

 レータも補足してくれる。

「よく気が付いたね、クウタくん」

「気が付いたというかなんとなくです。すみません…」

 クロロンが自信なさげにいうとシーニが「それでも、お手柄だよ」と優しく返すしクロロンは嬉しそうに笑った。

 

「さて、まだ仮説の段階ではありますが、クーを育て親鳥もとい親神獣に返せばいいみたいですが、後は場所が何所かという所ですね」

「それは問題ないじゃろう。それならもうそろそろ…」


 おねえさんがなにか言いかけるとシーニのポケットから音楽が鳴りはじめた。

 シーニはポケットからケータイを取り出すと画面を確認する。


「あ、マコトからだ…はいはい、もしもし」

「ほら」

「ちょっと待ってて、ピンコ達もいるからみんなに聞こえるようにするから」


 そういうとシーニは画面のボタンを押してわたしたちに聞こえるようにしてくれた。


「いいよ、マコト」

「【桃山聞こえるか?】」

「おう、しっかりとお主のハンサム声が聞こえとるぞ」


 シーニが声をかけるとあのおにいさんの声が聞こえてきた。


「あ、カレシーニさんの声だ」

「【誰がカレシーニだ】」

「で、どうだった?」

「【ああ、話を続けるぞ】」

「この声の主はどなたですか?」

「わたしの知り合いでアカリが一体どこに飛ばされたのかを調べてもらってたんだ」

「ナイスタイミングですね」

「【アオイお前に頼まれていた件だが場所が分かったぞ】」

「おお、さすが」

「【最初に云っておくが、これは俺の管轄外だからな、それと、魔導警察の情報を一般人であるお前達に流すのは本来は禁句だからな上の人達も『天海 葵』ということで『特例』だからな】」

「はいはい、耳にタコが出来るくらい聞いてるよ…いつも、たすかってます」

「『得例』とは」

 マルが気になったのか聞き返す。


「簡潔に云うとシーニさんは魔導警察のアイテムなどを開発していたりしとるんじゃ。それで、上の方達も頭が挙がらんみたいじゃのう」

「さすがシーニ凄過ぎて笑うしかないですね…」

 急にすごいことをいわれてマルが苦笑いをする。


「で、マコトごめんけどさっそく教えてくれないかな」

「【俺もまあまあ骨が折れたんだ多少の見返りが欲しいものだな】」

「現金な奴じゃのう」

「【あたり前だろコーヒー一杯じゃ割に合わん、少しぐらい贅沢をさせ…】」

「小倉トースト奢るよ」

「【何?】」

「足りないっていうんだったらあんぱんとコーヒーもつけるけど」

「【いいだろう】」

「案外安いですね」

「【アカリだったか?恐らくそいつの飛ばされた場所は《ヴェルデの森》の可能性がある】」

「なんと!?」

「ほう、まさかの《ヴェルデの森》とはのう」

「べるでのもり?」

「って、どこですか?」 

「ヴェルデの森は確か《アスール湾》に佇む孤島の中にある森だったと思いますわ」

「テレビとかでたまーに取り上げてる島だな」

「マコトさんよく分かったのう」

「【俺も言葉だけじゃさすがに分からん、だから、アオイに少し頼み事をしてな】」

「頼み事とはなんじゃ?」

「【アカリが視たという場所を念写して貰ったんだ】」

「念写ですか?アカリ何時の間にそんな高度な技術を覚えたんですか?」

「えっーと、わたしじゃなくて確かこの前、シーニがわたしの頭にナニかを被せて…」


 わたしは少し前のことを思い出す。


 数日前


「アカリちょっとこれ被ってもらえないかな」


 その日もわたしはクーのこともかねてシーニの研究所に遊びに来ていたんだけど、突然シーニがヘルメットのような?ナゾのモノを被るようにいってきた。


「これってナニ?」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。これはね、わたしが発明した《記憶念写装置》だよ」

「きおくねんしゃそーち?」

「えーっと、詳しく説明すると空気中の魔力や魔法卵の魔力を利用して頭の中つまり記憶の中を少し刺激してそこから流れる周波数を紙に写しだす装置なんだ」

「…えーーーと?んーーー?なるほど?」

「ねえ、もっとわかりやすくいって」


 頭と目をぐるぐるとさせていたわたしにシアンが助け船を出してくれる。


「そっかごめんね。分かりやすくいうと記憶を写真にするっていえばわかるかな?」

「それならなんとなく」

「まあ、そういうことだからアカリの視たっていう場所を思い浮かべてくれないかな」

「うん、やってみる!」


 わたしはゲンキに返事をするとそれを被った。



「という訳でその念写したのを道具を受け取りに来たマコトに渡したってことだね」

 シーニがいろいろと説明してくれた。


「なるほど、毎度思いますが相変わらずシーニの天才っぷりには驚かされますね」

「【まあ、それのおかげで思ったよりも早く分かったというわけだ】」

「それでも二人の仕事のはやさには驚愕じゃのう」

「【伝えることは伝えたから切るぞ】」

「おっけー、ありがとね」

「【ああ】」


 そういうとシーニのケータイはプープーと音をたてた。


「重要なことを云うだけ云って後は丸投げですか」

「まあ、昔からそんな感じだけどね」 


 シーニは笑いながらいいケータイをポケットにしまった。


「さて、情報は大方出揃ったみたいですね」

「そうだね、ということは次にやることはひとつだね」

「え?なに?」


 なにかを確信した二人にわたしは頭にハテナを浮かべながら聞く。


「確かめに行くんです」

「どこに?」

「ヴェルデの森にね」

「ええーーーーーーーーー!?」


 わたしはいきなりそんなことを言われて叫んでしまった。


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