6色 クー空を飛ぶ?(トレーニング編)

 あれからあの不思議なことは起きなくて数日がたった。


 クーはクラスにも馴染んで今はみんなととても仲良くやっているんだ。


「おっはよー♪」

「おはようございます、アカリさんとクーさんやっと来ましたわね」

「あ、フラウム」


 わたしが教室に入るとさっそくフラウムが歩みよってきた。


「クーさん、今日もとっておきの食材を使った食事ですわ」


 フラウムは手に持っていたバスケットからお弁当箱を取り出すとクーは眼を輝かせながら近くの机の上に飛び移り小さなハネをゲンキよくパタパタとさせる。


「とある国で作られている高級サラミですわ。どうぞ召し上がって下さい」


 数日前からフラウムはクーのためにご飯を持って来てくれるんだ。

 はじめはミミズや虫などを持って来てクロロンが顔を真っ青にさせて、ある時はとある小動物をあげてそれを食べるクーをみてフラウム以外のわたし含めてみんな顔が真っ白になってクロロンが気絶していたけど…今はちゃんと食べられるものになったんだ。


「ピュルーン♪」


 クーは差し出された一切れのサラミをゲンキに食べはじめた。それを、クロロンがとても羨ましそうに観ていた。


「緑風さん達もよかったらどうぞ召し上がって下さい」

「ホッホントに!?」


 フラウムはもうひと箱のお弁当箱を取り出しそれを受け取ったクロロンは眼を輝かせた。


「ありがとう。きのせさん」

「わぁー!すごいおいしそー!」

「はい、いろのさん」

「ありがとー!」

「みっくんも一緒に食べよう」

「ん」


 クロロンは今日も机に座って眠たそうに頬杖をしているシアンにもサラミを一切れ渡す。


「なかなか美味しそうなものを食べているね。僕が味見をして挙げようじゃないか」

「アナタの分はありませんわよ」

「何でだよ!」


 本当は欲しいと思っているけど、フラウムのものだからか素直に言えないレータがフラウムと今日も口論を始める。


「成績トップの秀才で将来は闇魔術の天才の名を手にするこの僕の分が無いとは一体どういうことだい?」

「欲しいなら欲しいと素直にいいやがれですわ!この上から目線メガネ!」

「誰が君に頭を下げるものか君に頭を下げるくらいなら靴を舐めたほうがマシさ!」

「じゃあ、ぼくのあげるよ」

「!!」


 二人の口論に突然クロロンが入る。


「きのせさんはれいたくんにあげたくなくて、れいたくんはきのせさんから貰いたくないんだよね?だったらぼくのをあげれば解決するんじゃないかな?」


 クロロンは笑顔で二人に問いかける。


「クウタ…お前…いい奴だな」

「醜い争いでしたわね」


 二人は互いを見る。


 少しの沈黙の後…


「ごめんなさい…ワタクシが大人げなかったですわ」

「いや、僕も…悪かった」

「はい、れいたくん」

「ああ、ありがとう」


 クロロンはお弁当箱を差し出しレータはその中から一切れのサラミを取るとそれを口に運ぶ。

 それを見届けたクロロンも一切れのサラミ手に取り眼を輝かせながら口に運んだ。


「ん!!!オイシー!!!」

「まあ、そこそこだね」


 跳び上がりそうなくらい美味しそうに食べるクロロンと違ってレータは冷静を装うが口が少し笑っていた。    

 わたし達の視線に気が付いたレータは口元を隠す。


「な、何だい?」

「メガネ笑ってる」

「すなおじゃないなー」

「美味しんだよね」

「ツンデレメガネも緑風さんくらい素直だと助かりますわね」

「まあ、良い食材を使っているんだ当然じゃないか。それにコレってただ『美味しい食材を切っただけ』じゃないか。君でも美味しく出来そうだね」

「ちょ、れいたくん!?」


「何ですって?」


 レータの失言をクロロンが止めようとしたが遅かった。


「おい、クソメガネ…今、何と仰いましたか?」

「き、きのせさん!?お、落ちついて!?れいたくんはね、きのせさんを褒めようとしたんだよ!」

「は?僕がこの脳筋クルクル女を褒める訳無いだろ」

「れぇうぃたくぅん!?」

 クロロンのフォローをレータは蹴る。


「良いんですよ、緑風さん今からワタクシはこのクズメガネに蹴りを入れることを決めましたから」


 フラウムはクロロンには優しい口調で云いレータには殺意を籠めた口調で云う。


「はっ、やれるもんならやってみるんだね」


 レータは鼻で笑いながら云い持っていた本を開く。


「メガネ…バカ」


 シアンがそう云った瞬間にフラウムはレータに突っ込んだ。


「やっぱり突っ込んで来たなこの脳筋女!しかし、甘い!『闇魔術・亜空間転移』」

「…!」


 レータは近くの魔法卵を取り魔力チャージをすると自分の目の前に黒いモヤみたいなのを出現させる。フラウムは全速力で突っ込んでいたからそのままモヤの中に入っていってしまった。

 そして、フラウムはその場から姿を消した。


「フラウムが消えちゃった!?」

「ふん、どうだ!これが僕が解読した『闇魔術』のチカラだ」


 レータは高笑いする。


「きのせさんはどこに行っちゃったの?」

「少なくともすぐに戻って来られない所さ、ダァーーーハハハハハ」


さらに、勝ち誇ったように云う。


「メガネ…後ろ」

「戻りましたわよ」

「はえ?」


 突然聞こえてきた声にレータはマヌケな声を出す。


「さて、アホ面メガネ…覚悟はよろしくて?」


 どこからか戻ってきたフラウムは手をパキパキと音を立てながらレータに一歩一歩近づく。


「ちょっとまて!?僕は君を学校の外まで飛ばしたはずだ!こんなに早く戻ってこられる訳ない!」

「ええ、しっかりと学校の正門の所まで飛ばされましたわ。けれど、ワタクシは日頃から鍛えておりますの、だからあの程度の距離このくらいの早さで余裕を持って戻ってこられますわ」

「ただのバケモノじゃないか!」

「まあ、レディーに向かってバケモノとは飛んだ失礼なクソメガネですわね。三発程蹴りが必要かしら?」


 フラウムは「おほほほ」とお上品に笑いながらレータに歩みよっていく。


「…くっ!…仕方ない先程の魔法で魔力を使い過ぎたようだ…だが、これは戦略的撤退だ!『闇魔術・闇隠れ』!」


 レータは持っていた本を真上に掲げ叫ぶとその本のページから黒い霧みたいなのが溢れ出た。


「あら?」

「うえ!?なにか煙が出てきたよ!?」

「みんな!ハンカチ!ハンカチ!避難訓練みたいに口を隠したほうがいいよ!?」


 わたしとクロロンはあたふたと走り回る。

 

「お二人とも落ち着いてください。これはメガネの見せているただの幻覚ですわ」


 フラウムは近くの自分の席の筆箱から消しゴムを取り出した。


「淑女たるものこの程度の小細工では取り乱しませんわ」

「その消しゴムどうするの?」

「まあ、観ててください」


 そう云うと手に持っていた消しゴムを軽く上に投げて掴む作業を繰り返し始めた。


「?」

「すみませんが五秒程静粛にお願いしますわ」


 その作業を数回繰り返す。すると、


「視つけましたわ」


 そう云うとフラウムは真後ろにバク転をしてその勢いで空中の消しゴムを蹴飛ばした。


「いでぇ!」


 消しゴムの飛ばされた先で声がしてわたしたちはそっちに振り向くとレータが右手を抑え持っていた本を床に落としていた。


 そして、黒い靄が消えた。


「あっ!しまった!もう一度『闇隠れ』を使わないと」


 レータは慌てて本を拾おうとする。


「遅いですわ。『黄瀬流武術奥義その壱・三連蹴り』!」

「ちょ!まぎゃああああああああああああああああああ」


 レータのお尻に連続蹴りが炸裂し学校内に叫びが響き渡った。


「すごい音がれいたくんのお尻からしたね…痛そう…」


 クロロンが苦笑いでお尻を立てながら倒れているレータを眺める。


「ああ…ジヌほど…イダイヨ…」


 レータは死にそうな声を絞り出す。


「ボクの魔法ですこし楽になるかな?」


 クロロンは手から微量の風を出してレータのお尻に当てる。


「クウタ…お前、いい奴だな」

「緑風さんは本当にお人好しですわね」

「そんなことないよ、ボクなんかのチカラが少しでも役に立つなら…」

「……」


 クロロンの言葉にレータとフラウムはすこし思うところがあるのか互いを見る。


「あっそうだ!いろのさん、クーくんのことで気になったことがあるんだ」

「気になること?」

「うん、クーくん『昨日より大きくなってる』気がするんだ」

「えっ?」

「…」


 わたし達はシアンにサラミを与えられているクーを見る。


「言われてみれば初めて出会った時より大きくなってる気がするよ」


 クーは初めソフトボールぐらいの大きさだった気がするけど今はその2倍ぐらい大きくなっていた。


「確かによく見ると一日では気が付かなかったが、数日前より一回り近く大きくなっているね、幼鳥は約十五日で巣立つというがそれとは別といった感じだね」


 レータはカッコ悪い態勢のまま冷静に分析する。

 

「クーさんが幼鳥に近い何かってことは分かりますが元から毛並みが奇麗に生え揃っていたので幼鳥と言っていいものか迷いますわね」

「でも、れいたくんの言ったみたいに約十五日で巣立つならもうそろそろじゃないかな?」

「そうだね、だけどクーは今のところ飛ぶ気配はないね。…アカリ、今まででクーが飛んだことや飛ぼうとしたことはあったかい?」

「う~ん、どうだったかな?」


 わたしは少し考える…


「あっ!あったよ一回だけ」

「それは何時だい?」

「えっと、あれは確かにクーに初めて合った日で隣町の果物がいっぱいあるところで、そこの木に実っている果物をクーが飛んで取ろうとした時だよ」

「もしかして果物農園かい?」

「うん、だけどあとすこしのところでスミレっていう女の子にクーが捕まっちゃってね」

「厄介な奴に捕まったね…」

「?」


 レータは少し怪訝そうな顔をする。


「まさかその名前が出てくるとは思わなかったよ…」

「えっ?レータはスミレのこと知ってるの?」

「すまないがあまりその名前を出さないでくれ…まあ、知っているかと聞かれたらかなり『険悪』な知り合いってところかな」

「けんあく?」

「仲の悪いってことですわ」


 そうなんだ、スミレとレータは知り合いだったんだね、しかも仲の悪い…


「スミレとレータはナニかあったの?あまりいいたくないなら無理にいわなくてもいいけど」

「まあ、そんな大した話じゃないけどあの鍵女に会ったならリュイさんにも会っただろう?」

「うん、あの果物のおにいさんだね」

「く、果物のおにいさん?」

 レータはすこし唖然とする。


「キミ、あの魔術の天才と呼ばれる林原緑はやしばら りゅいさんを果物のおにいさん呼ばわりとは正気かい!?」

「え?果物のおにいさんって有名人なの?」

「ワタクシはお名前と噂はお聞きしたことがありますわ」

「ボクも少しだけ」

「…そういえば、ねえが会ったっていってた気がする」

「クロロンとシアンも知ってるの?」

「有名といっても噂だけって人が大半だろうけどね」

「へー知らなかったな」

「そのリュイさんとは古くからの知り合いで《憧れ》なんだ。そして、彼女も《同じ》様にね」

 彼女とはスミレのことだろう。


「あの鍵女とも古くからの知り合いだけどリュイさんに持つ《憧れの違い》で揉めてしまってね、それから険悪なのさ」 

「憧れの違い?」

「おそらく《考え方の違い》ってことですわ。まあ、アカリさん、今日のところはこの辺にした方がいいと思いますわ」

「え?」

「あまり人のプライバシーに干渉するのはよくありませんわ」

「そ、そうだね!ごめんね、れいたくん」

「いや、自分から話したことだからね、気にすることないさ」

「うん、確かにフラウムのいう通りだね、それに…」

 わたしはレータに目を向ける。


「まだイタイ?」

「ああ、かなり痛い…」

 レータはまだお尻を立てながら倒れていた。


「もうすこし風いるかな?」

「ああ、少し強めてくれるとありがたい」

 


 翌日、放課後校内のグラウンド


「というわけでだ『クーの巣立ち大作戦』を開始しようと思う」


 わたし達は先生にお願いをして学校内のグラウンドの一部を借りていた。


「グラウンドの一部を借りたはいいけど『他の科』の人達の迷惑にならないかな?」

「何を云っておられますの緑風さんグラウンドは誰でも使っていいものですわ。もし、「ここは自分達の縄張りだ」という低能な御方がみえればワタクシの《黄瀬流格闘術》でボコボコにして殺りますわ」

「かなり物騒だね…でも、暴力はあまり好きじゃないな」

「確かにそうですわね、でしたら、あまり使いたくありませんが黄瀬財閥の力を使って潰しますわ」

「根本的なことが変わってない気がするけど気のせいかな?」

「まあ、そこの暴力令嬢は無視して話を進めるが今は視ての通り『他の科』も使っているからねあまり邪魔にならない様にしよう」


 あ、そうだ!さっきからいっている『他の科』っていうのはね、この魔導学校にはいくつかの『科』ってのがあって、魔法を使っていろいろなスポーツや球技の勉強や実践をする『スポーツ科』。

 機械をいじったりロボットを造ったりする『発明科』。

 魔法や魔術について深く難しく勉強しているのが『魔導科』。

 それで、わたしたちの通う科は魔導科と違って魔法の基本知識や普通の勉強をする『普通科』なんだ。他にもいろいろな科があるけど大体の人は自分の得意分野にあったところに行くんだ。だから普通科は人数が少なくてわたしを合わせても五人しかいないんだ。


「クーさんを飛ばすにしてもどうやって飛ばしますの?魔法ですか?ぶん投げるんですの?」

「相変わらず考えが脳筋だね」

「なんですって?」

「ま、まあまあ、でも、「もうそろそろ飛ぶかも」って云ったのはぼくだけどクーくんって本当に鳥さんなのかな?」


 クロロンはすこし心配そうにいう。


「まあ、どっちにしろ試してみる価値はあるさ、それに、《しれん》っていうのがハッキリと分からない以上取り敢えずクーの『成長』って過程を見守るのもいいんじゃないかと思ってさ」

「さすがれいたくん!そこまで考えてたんだね!」

「メガネのメガネが機能してる」

「それはどっちを褒めているんだい?」


 レータはシアンに軽くツッコミながら「例のものはもってきたかい?」と聞く。そしてシアンは「…ん」と返事をするとカバンから何かを取り出しレータに渡した。


「何それ?」

「これは魔力を使って飛ばせる凧さ」

「タコって赤くてニュルニュル動くアレ?」

「そっちじゃない」

「えっとね、タコっていうのは生き物のタコさんじゃなくて飛ばせるタコさんのことだよ」

「まあ、間違った説明ではないな」

「えっと?どういうこと?」

「ピュル?」

 わたしとクーは首を傾げる。


「ワタクシも知識でしか知りませんが、古くから伝わる祭りや正月の風物詩で飛ばす歴史あるものですわ」

「なんだい?筋肉貴族令嬢のキミのことだから筋肉以外の一般知識はないものかと思っていたよ」

「あら?貴方さえいなければワタクシは学年一位の成績でしてよ?おほほ」

「あぁ、これは失礼した筋肉の量と暴力では僕に勝っても成績では勝てない足蹴り女だったね」

「面白いことをほざきやがるヒョロメガネですわね。おーほっほっほ!」

「お褒めいただきどうも、ダァーハッハッハ!」

 二人は不気味に笑い合う。


「と、とにかく、最近はあまりみなくなっちゃったけど、ぼくも昔かーさんとオニーと一緒に飛ばしたことがあるよ」

「へーなんだか楽しそうだね」

「うん、でも、ぼくのやったことあるタコは普通のタコだけどこれって魔力を使って飛ばす?ってなにが違うのかな?」

「ああ、それはこれに魔力を流して飛ばすんだよ」


 レータはタコの持ち手とそれに繋がっている糸を手に取った。


「この持ち手と糸は魔力が流れる仕組みになっていて、これに魔力を通すとそれに繋がっている凧が浮く仕組みになっているんだ。簡単にいうと僕達が魔法で体を浮かしたりホウキに乗って飛ぶのと同じ原理さ」

「へーすごいね」

「そんなのがあったんだね」

「まあ、厳密にはかなりお高いアイテムで金持ちやマニアしか買わないようなものでまず子供達はあまり触れることのない高級品だけどね」

「それをレータが買ったの?」

「まさか、君も知ってる身近な人にお願いして作ってもらったのさ」

「身近な人?」

「直接ではないけど彼女の弟にお願いしてのほうが正しいか」

「あっ!」

 わたしが答えに気づくとクロロンも気付いたという顔をした。


「シーニだね!」

「そう、こういうことはあの人は得意だろ」

「さすがアオイさん」

「始めはそこの財閥お嬢様の力で手に入れてもらおうと思ったけど借りをつくりたくなくてね」

「別にその程度だったら借りにしないわよ」

「まあ、とりあえず話を戻そうか」


 そういうとレータはタコ本体を手に取り持ち手と糸をシアンに渡した。


「ミズキ試しに一度飛ばしてみようと思うから魔力を流してくれないか」

「わかった」


 それを受け取ったシアンは魔力を流しはじめた。

 

 すると、持ち手から糸にその先のタコ本体に魔力が届くとタコを持っていたレータの手を離れて宙に浮きはじめた。


「自由に動かすことは出来るかい?」

「…ん…やってみる」


 すると、タコは円を描いたりジグザグと動いたりいろんな動きをはじめた。


「わぁすごい」

「確かにマニアが注目するのもわかるな実に興味深いね」

「みっくん楽しそうだね」

「真顔ですけど」

 わたしたちはそれを観て関心していた。


「なるほど、つまりこの魔力で自由に飛ばせる仕組みを利用してクーさんを飛ばすんですわね」

「そういうこと、普通の凧だと風や天候に左右されるし高く飛ばさないといけないだろ?これなら低い位置に飛ばすことも出来るしクーからしたら本当に飛んでる感覚を感じさせることが出来るって訳さ」

「なるほど、まずは飛ぶっていう感覚を覚えさせるってことだね」

「さすがレータ頭いいね」

 レータはメガネをクイッと押し上げると「まあね」と得意げな顔をする。


「じゃあ、クーさっそくやってみようか」

「ピュルーン♪」


 シアンがタコを近くに寄せてくれてその上にクーが飛び乗った。そして、しばらくクーを乗せて動かして特訓をしていた。


「…つかれた」


 ずっとタコに魔力を流していたシアンがいった。


「ミズキの魔力量で約15分ぐらいか」

「みっくんかわるよ」


 レータは時計を確認しクロロンがシアンとかわった。


「えーすごい本当に自由に動かせるんだね」


 クロロンもシアンみたいにいろいろと動かしている。


「…その代わり結構つかれる」

「クロロンの次わたしがやりたい」

「ピュルーン♪」

「あの…」


 わたしたちが盛り上がっているとフラウムが少し気まずそうに聞いてきた。


「どうしたの?フラウム」

「ワタクシはどうしたら宜しいでしょうか?」

「?」


 わたしはなんのことかと思ったけどクロロンがすぐにハッという顔をした。


「あ、そうかきのせさんって確か…」


 クロロンの言葉にわたしも気付いた。


「『魔力がない』ワタクシは何を手伝えば宜しいでしょうか?」


 そうフラウムは生まれつき『魔力がない』のだ。


 前にもいったようにこの世界では魔法が使えて『あたりまえ』で魔力量は人それぞれ違って『魔力が少ない』って人は珍しくないんだけど、フラウムは『魔力が一切ない』のだ。そのせいで昔にお家とかいろんな所で苦労したみたいなんだ…。


「あーそのことなら気にしなくてもいいよ」

「?」


 すると、レータがなにも問題ないといった感じで続ける。


「キミにはちゃんと仕事をお願いするつもりさ」

「仕事?」

「補助さ」 

「補助?」

「ああ、今日はその段階までいかないかも知れないけど、クーが慣れてきたら少し高さを上げるから、もし、クーが落ちてしまった時の為の補助さ」

「なるほど、もし落ちてしまったらそこをワタクシが受け止めればいいんですわね」

「そういうこと、それに、何を今更そんなこと気にしているんだい?」


 レータは呆れたというがそこにクロロンが言葉を続ける。


「さすがれいたくん、それにそこまで考えてあげてるなんてやっぱりれいたくんは優しいね」

「な!?何を勘違いしてるんだい!?僕はただ単にこの脳筋お嬢様が使えると思ったからで」

「またまた~」

「ツンデレメガネ」


 クロロンの言葉にレータは否定しているがわたしもクロロンの云う通りだと思った。

 それを観ていたフラウムは少し嬉しそうにほほ笑むと

「解りましたわ、このワタクシに任せて下さい」と胸を張る。


 そこからは魔力の残っているわたしとレータの順にタコをまわしていった。


「ぜぇ…思っていた以上に疲れるね」


 レータの魔力が無くなったので今日はここまでにすることにしてみんなでタコを片づける。


「このヒョロメガネいつまで倒れていますの?踏みますわよ?」

「う…うりゅひゃい…キミには分からないだろうけど魔力を流すのも大変なんだぞ!」

「ワタクシは魔力が無くともそれを補う自慢のスタミナがありましてよ」

「ふん、例えるなら魔力を流している間はずっとランニングしているような感覚だぞ!」

 レータは息を切らしながら反論する。


「なら貴方10分も走れないんですのね」

「うぐ…」

「れいたくん…これ飲んで休んでていいよ」


 レータを心配したクロロンがレータに水を渡した。

 

「ああ、すまない」

「相変わらず緑風さんは優しいですわね」

「ゼェゼエ…息が…息が…」

「くさいの?」

「キレてるんだよ」

「ワタクシなら1時間は余裕で走れてよ?」

「えー!きのせさんすごいね!ぼくは20分ちょっとが限界だったな」

「そういえば緑風さんは4人の中では一番永く魔力を流していましたわね、大丈夫でしたか?」

「かなり疲れたけど最近やってることが役にたってよかったよ」

「何か始めたんですの?」

「うん、ぼく、もともと全然体力なかったんだけど最近すこしはしってて体力造りをがんばってるんだ」 

「お体は大丈夫でして?」

「クウタ、ムリするな」

「右に同意」

「うんうんクロロン気を付けてね」


 わたしたちがこんなに心配するのは理由があるんだ。 

 クロロンは昔カラダが弱くてよく入退院をくり返していたみたいなんだ。ここ数年は調子がいいみたいなんだけど、いつまた体調を崩してしまうかみんな心配しているんだ。

 特に幼馴染のシアンはなおのこと、いつも無表情だけどクロロンを一番心配している。


「みんな心配しすぎだよ~大丈夫、それにぼくのやっていることなんてきのせさんの努力に比べたら小さいものだよ」

「ピュルーン♪」


 クロロンは手をバタバタとさせて大丈夫だとアピールをする。

 その頭の上でクーもハネをパタパタとさせる。


「すみません、話はズレますが、やはり緑風さんの云う通りクーさんが大きくなっていますわね…」


 ふと、すこし異変に気付いたフラウムがいう。


「緑風さんの顔と同じ大きさになってません?」

「ホントだ!」


 フラウムにいわれわたしたちも気付いた。


「何でこんな違いに気付かなかったんだ?」


 レータが驚きを隠せずにいた。


「恐らくですが…可愛らしいお顔が二つもあるのでそれに見惚れて気付けなかったんですわ…」

「えぇ!?」


 突然、カワイイといわれたクロロンはすこし恥ずかしそうに驚いた。


「ならしかたない」

「みっくん!?」

「うん、そうだね」

「いろのさんまで!?」


 わたしたちは口久に納得する。


 なぜなら…フラウムのいう通りクロロンは赤ちゃんみたいな顔をしてカワイイのだ!そして、わたしは知っている…レータとフラウムが教室で居眠りをしているクロロンの寝顔をカメラで撮っていたことを…しかも、あの時はいつも仲の悪い二人が息ピッタリだったことを…

 

「やはり鳥類としての成長とは少し違うみたいだね」

「ちょーるいとしての?」

「確かに大きさもといサイズは成長しているけどクーの姿は成長してないだろ?」

「たしかに!」

「まあ、かといって今の僕達の知識じゃ何も解らないからね、調べてくれてるリュイさんの友人とやらの報告を待つとしようか」

「うん、そうだね」

「しかし、少し時間が経っていますが、どこまで解明出来たのかしら?」

「僕も詳しくは知らないけどわりと順調らしいよ…それに聞きたくてもあの鍵女がいるから会話もろくに出来ないからね」

 レータは一言吐き捨てる。


 えーとね、つまりこの会話をまとめるとね…レータは本当は隣町の学校に通えるんだけど、わたしがこの前あったスミレっていうちょっとコワイおんなのこに会いたくないからわざわざ隣町から通っていてね、クーのことをよく果物のおにいさんのところに報告っていうのかな?えーとうん、お話にいってくれてるみたいなんだ。


「取り敢えず、今日の所はこれくらいにして僕はリュイさんに報告しに行くよ」

「いつもありがとねれいたくん」

「僕が好きでやっていることだから別にいいよ」

「では、ワタクシも今日の所は失礼致しますわ」

「じゃあ、また明日ねバイバイ!」


 今日はみんなここでお別れすることになった。


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