第8話 ミノタウロス襲撃

 ドレイクたちの前を通る傭兵たちの一人が言っていた。


「あの犬だ! あの馬鹿犬が雌のミノタウロスの腰巻を奪いやがったから、奴らは本気で追いかけて来やがった! それまでは、そんなに本気じゃなかったのに!」


 ドレイクとヨードは顔を見合わせてから項垂れた。

 ドレイクは白髪をかき上げると、仕方なし気に剣を抜いた。


「やむを得ん。ここで倒すしかないようだ。ヨード、町の人々を安全な場所に誘導するのだ。化け物どもは私が食い止める」


 頷いたヨードは通りを奥へと走っていった。


 ドレイクは風に舞う木の葉のように軽く剣を振り回すと、肩の高さで剣を止めて構え、腰を落とした。


 すると、さっきの兵士が剣を振り上げて一体のミノタウロスの方に走っていった。


「おのれ魔物ごときが、アウドムラの兵士に勝てると思うな! 行くぞ!」


 ドレイクはその兵士を呼び止めた。


「待て、焦るな! 敵は他にも……」


 その兵士はミノタウロスの巨大な斧を剣で叩いていた。横からやさぐれドワーフがハンマーを振りかざして飛び掛かってくる。それを剣でいなした兵士は、後ろからちょい悪エルフに飛び掛かられた。ちょい悪エルフは兵士の鎧の隙間に短剣を突き刺す。悲鳴をあげてひるんだ兵士に、やさぐれドワーフがハンマーで一撃を加えた。だらりと両腕を降ろした兵士にミノタウロスが巨大斧でとどめを刺す。

 それを見ていたドレイクは、唇を強く噛んだ。


「おのれ、卑劣な!」


 ドレイクは白髪を振り乱して走っていくと、近くで傭兵の遺体をハンマーで潰していたやさぐれドワーフを真っ二つに斬り捨て、続いてちょい悪エルフを遠くに斬り飛ばした。襲ってきたミノタウロスの巨大斧をするりとかわしたドレイクは、ミノタウロスの心臓にスミハルコンの剣を突きさした。ミノタウロスは動きを止めてその場に倒れた。それを見た他のミノタウロスたちが一斉にドレイクめがけて駆けてくる。ドレイクは剣を八の字に振り回すと、近づいてくる魔物たちを次々と斬り倒していった。



 夜の町に魔物たちの悲鳴が響いていた。




 ◇◇◇◇◇




 戦いは終わった。


 視察隊と称する防衛軍の幹部たちが実際に町の中を視察して回ったのは、夜が明けてからだった。幹部たちの一行が馬に跨ったまま、横たわる遺体を避けながら進んでいると、おびただしい数の魔物の死体に遭遇する。その真ん中には、魔物の血で汚れた銀の鎧に朝日の光を返しながら独り立つ白髪の美しき青年がいた。デュラハン・アルコン・ドレイクだった。


 一行の中に白馬に跨った筋骨隆々の男がいた。日に焼けた肌に金色の髪、目は深く黒い。アウドムラ正規軍師団長のニクスである。彼はその目の中に美しいドレイクを捉えていた。師団長ニクスは、鍛え抜かれたたくましい腕で手綱を握ったまま、しばらくその美青年を見つめていた。




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