第5話 きな臭い話
ヨードは溜め息を吐いてから言う。
「そうなんですかね。それにしても、その『特別な夜』っていうのは、どうもきな臭いですね」
「というと?」
「さっき小耳に挟んだのですがね、視察隊が来るって話、あれはどうも実質的には駐留軍のようですね。完全武装の師団がやってくるみたいですよ。それに、気付いていますか」
「うむ。店の中や通りの連中だな」
「ええ。浪人風の猛者ばかり目立ちます。たぶん、この国の政府から雇われた民間の騎士たちでしょう」
「つまり傭兵か」
「たぶんね。さっき、ひろしを門の外に引っ張っていった時も、えらく門周りの警備が厳しくなっていましたよ。俺たちが入ってくる時よりも」
「何らかの外敵に備えているということか……」
「かもしれやせんね。この町そのものが王都防衛の前哨基地にされているのかもしれません。町の人間には知らせずに。つまり、この町は捨て駒ってことですよ」
ドレイクはマクニ婦人とその家族のことが心配になったが、そのまま話しを続けた。
「ひろしは大丈夫なのか」
「ああ、大丈夫ですって。犬なんですから。町の娘からふんだくった下の肌着を咥えたまま、走っていきました。当分、町に入れないでしょうが、その方がここの住人には迷惑にならずに済みます。特に若い女には」
溜息を吐いたドレイクの前に、運ばれてきた料理が並べられた。
「本日はジビエ料理とイノシシの煮込みでございます」
皿の上に盛られた料理からは食欲を更にそそられる匂いを包んだ湯気が立ちのぼっていて、それを嗅いだ二人はそれまでの厳しい表情を一変させた。幸せそうな顔でナイフとフォークを手にしたドレイクの隣で、鼻をヒクヒクと動かしたミカドロス青年が目を覚ます。
「ああ、美味しそうな匂いですねえ。すみませーん。僕にも同じものをお願いしまー……スやあ」
ミカドロスは手を上げたまま机の上に倒れ込むと、そのまま再び眠りについた。
隣の席のドレイクは仕方なさそうに笑ってから、猪肉の煮込みを食べ始めた。
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