第25話 ぶつかられるんです
何故と考えたって相手ではないのでわかるわけがないけれど、どう対処していくかの
どんな事でもいい、レイドリークス様の力になりたい。
微力でもしなかった後悔よりする後悔を選びたい、そう心が訴えています。
――心の決めるままにいよう、せめて安全とわかるまでは。
体を起こして気持ちを固めると、ちょうどお茶の用意を調えてメリーアンが入室してきました。
ありがたく入れてもらったお茶をいただきながら、私はすっきりとした思いで
次の日から私は休憩時間はなるべく教室から出て、ひっそりと影ながらレイドリークス様に張り付くことにしました。
付かず離れず、決して対象には気づかれないよう。
時折先生に頼まれた用事で移動する際も、極力見当たるようにします。
そんな時です。
授業で使う教材を教室へと運んでいる最中に、ぶつかられてしまいました。
バササササーっと教材であるテキストが手から離れてしまい、廊下へと広がってゆきます。
「あっ」
私の非難の声を聞き、相手はこちらを振り向くとテキストを拾い始めました。
「すまない。ぼーっとしていてぶつかってしまった。怪我はないか?」
拾った物を手渡してくれながら、相手が言います。
……厄介な相手にぶつかられてしまいました……。
「いえこちらも不注意でしたから。ありがとうございます」
お近づきになるのは不味いので、やり過ごそうとそのまま立ち去りかけたところで腕を掴まれます。
振り
けれど顔には出さすに相手の方を見ました。
「ああ、これは失礼した。その、君は――綺麗だな」
つ…と掴まれた手の甲に指を
動きたい、動いてはダメ、その葛藤の中でどうにか動かずにいると、やっと相手が名乗りを上げました。
「俺はフェルナンテス=カルマンという。君の名前は?」
そう尋ねてくると同時に手を離したこの方は、茶髪に濃紺の一重の瞳は切れ長でひょろりと背が高く、物静かな真面目……場合によっては暗いと評されている、この国の第三皇子です。
今年確か十六になるので、私より一つ下の第五学年所属のはず。
「…………ルルーシア=ジュラルタと申します第三皇子殿下」
「ルルーシア……そうか、君があの。弟が迷惑をかけた、何かあれば俺を頼るといい」
「もったいなきお言葉にございます」
「では、また」
別れの挨拶に
正直、
それを特に気にも留めず、殿下は去っていきます。
私は自分の身に何が起こっているのか全くわからず少し薄気味悪さすら感じながら、テキストを早く用意しなくては、と本来の目的に気持ちを切り替えるのでした。
その後数日は、第三皇子を避ける手間以外は平和な日々を過ごしました。
あ、
影見習いなめんなよ? なのです。
……言葉が悪くてごめんなさい。
けど少しでいいんです、たまには、やさぐれさせてください!!
だってですよ?
そりゃ私だって決意を胸にしたわけで、自分で決めた自己責任ですとも!
だけど、レイドリークス様のだけならまだしも、なんで今は関係のない私にまで刺客が来るんですか? お金持ちですか? そんなに恨んでるんです?!
お陰でせっかくのお友達とご飯を一緒にする隙間時間が、ちっとも、ないです!
泣いていいですか。
そんなこんなで、今日も今日とて私は家の料理長に作っていただいた携帯食料を、物陰で
美味しいんですけどね。
携帯できるようにするため、色々と
美味しいんですけどね!
一人でご飯を食べている私とは対照的に、レイドリークス様は今日も外広場で優雅にいちゃこらローゼリア様と昼食中です。
あ、ご飯のついた口元を指で
ローゼリア様ったら照れ笑顔で応対しています。
……護衛騎士も、恐らくお父様が手配してくれた影もついているのに、私何してるんだろうって、こんな時ちょっとだけ思います。
何よりはたから見るレイドリークス様とローゼリア様はとても楽しそうで。
時折香るあの子の残り香のような面影が、私の心を、ぎゅぅっと締め付けるんです。
顔に出しかねないと思った時には、申し訳ないのですがカシュー達のことを思い浮かべて
次一緒におしゃべりしたら話したい事、お勧めしたい本の事、お聞きしたいあれこれ。
考えるうちに、楽しい気持ちを思い出します。
そうしてなんとか、その日一日をやり過ごすのでした。
今日は誰も来なかったので、いつもよりは忙しくなくていい日です!
だなんて思っていたら、帰宅後お父様に呼ばれました。
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