第23話 もじもじするんです

 嬉しすぎて今多分顔面崩壊しています、どうしましょう。


「もしよろしかったら、わたくしとララと一緒に外で昼食をしませんこと? ちょうど一人お休みで、料理が余ってしまいそうですの。お気を悪くなさらないでね、これまでも予定が合うなら約束して昼食ご一緒したいなと思っていましたのよ」


 私の挙動不審をものともせず、彼女はそう言って私を誘ってくれています。

 ……うれしいすき。


「食堂へ行こうと思っていたのでありがたいです、是非ご一緒させてくださいカシューリア様」

「カシューでいいですわ。わたくしも、ルルとお呼びしても?」

「はい! 好きによんでください」

「ではルル、一緒に参りましょう」


 私たちは途中でララジニア様と合流して、中広場へと向かいました。


 中広場はその名の通り三方を校舎に囲まれた中にあります。

 中央には噴水、校舎玄関向かって左奥側は木々が植えてあって木陰と遊歩道のある場所。

 左手前は芝生の広場、右手側は玄関までの通路と両脇に花壇、所々にベンチが置いてありその中の五つほどは小さな机と日除けがついています。

 なんとか早めにつけたのか、芝生広場にはまだちらほら場所の空きがありました。


 私達がそこへ腰を落ち着けてすぐ、反対側の日除けのついたベンチへと向かう二人組の方から悲鳴が聞こえました。

 ふと目をやると、ちょうどローゼリア様がけたところをレイドリークス様が支えたのが見えます。

 二人ともお互いの瞳を熱心に見つめ、なんだか仲が良さげな気もして。


 ツキン


 胸の奥、内臓ではないどこかの――軋んだ音が、しました。



「ルル? どうかしましたの」


 呼びかけられて、はっと現実に戻ります。

 そうです、今は楽しい楽しい友達とのお食事です!

 気を引き締めて向こう側を見ないようにし、カシューリア様の問いに答えます。


「すみません、ぼーっとしてしまいました。お友達とその、食事をするのが初めてなので嬉しくて、戸惑って、ます、はい」


 思わずもじもじしてしまいます、ぼっち宣言が恥ずかしいやら、友達っていう言葉に感激やらで感無量というか……。

 なんてしていたら、抱きつかれました。

 誰にって、カシューに、です。


「か、カシューリア様??」

「可愛いっ! なんて可愛らしいんですの! わたくし小動物が大好きですの。ルルはまるでうさぎのようでたまりませんわ」


 すりすりまでされています。

 かたわらのララジニア様に視線で助けを求めると……あ、ため息をついていらっしゃる。


「カシュー、ルルーシア様が戸惑ってらっしゃいましてよ? 自重なさいな」

「これでも我慢していましたのよ? 少しくらい良いのではなくって」

「その少しが今で、もう十分じゅうぶん経っていてよ? やるなら徐々に徐々に、慣らしていかなくては」

「それもそうですわね、うっかりしてましたわ。ありがとうララ」


 そういうと、カシューは私をとても名残惜しそうに離します。


「かまいませんわ、慣れていただければ私も触りやすくなりますもの」


 ララジニア様からもよくわからない発言がありました。

 ……もしかしてこの身長のせいで、私が弟を可愛く思うように、妹のように思われてしまってます?

 同級生として、とか、でも初めての、とか、考えがめぐりましたが……私は結局友達という単語の甘美な響きに負けて、されるがままを選択したのでした。


 ひとしきりもふもふ? されたあと、私達は食事にする事にしました。

 カシューのお家の料理も、皇宮に負けず劣らずの豪華さで目を見張ります。


「す、凄いです!」

「我が家の料理人は皆ライバルと、追いつけ追い越せぎ倒せといった風情ふぜいで、いつも競っていたものだから見た目も派手ですのよ」


 わたくしは素朴なものも好きなのですけれど、とはカシューのげんです。

 お野菜の色味をふんだんに使った色彩豊かなご飯、そんな経緯で出来上がったのですね。

 感慨深く、お料理をいただきます。


「それにしても、出会ってまだ日が浅いけれど、こうも噂にのぼり続けるのも難儀ですわね。ルルはその……しんどく思ったりはしていなくって? イヤーカフも、着けたままで……」


 カシューがご飯を食べる手を一旦止め、心配そうに聞いてきました。

 どうやらこの件について心配したのもあって、昼食に誘ってくれたようです。


「しんどくない、といえば嘘になるでしょうか……」


 内緒ですよ、と言って初めての、友達への内緒話を始めます。

 お二人なら吹聴ふいちょうするような真似はしない、なんとなくそう確信がありました。


「実は初恋の人だったんです。私は家を継ぐのが決まってまして……お婿さんになってほしいなって、思った時もありました」


 言葉にしたら、少し泣きたくなります。


「今はもう、難しいことはわかってるんです。ただ、この気持ちを伝えて、すっぱり諦めたいなって思ってて…… イヤーカフも、なんていうか決意証明みたいなものなんです」


 そう言いきると、カシューが頭を撫でてくれました。


「家柄っていうのは、やっかいなものね。わたくしも婚約者とは家格が上の家の子に何くれと横槍を入れられてしまって、それはもう苦労しましたのよ……あの当時は、どうして気持ち一つで相手と一緒にいられないのか、と憤慨ふんがいしていたわ。……昔も今も、貴族の女子は不自由なものですわね」

「そんなことがあったのですね。婚約者の方とのお話を聞いても?」


 今思うと、そんなにドラマチックでもなくてよ? と言いながら、カシューが自身の話をしてくれます。

 そこへララジニア様が自分の視点をまじえてくれ、しんみりした雰囲気から和気藹々わきあいあいとしたものへと変化しながら、楽しい昼食は終わったのでした。


 ちなみにカシューの話は、とてもロマンチックで素敵でした! 一冊本が書けそうな程、お二人の気持ちが素晴らしい中での横槍、手に汗握りました。

 また今度の機会に、ララジニア様のなれそめも聞いてみたいな、と思う私なのでした。

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