第24話 瀬田さんの通信簿
「お、おはようございます……」
週が明け、右手をギプスで固定された私は赤面しながら
人生初の除霊で人生初の骨折をし、人生初の入院と手術を終えた。
ケガをしたのが利き手だからしばらくは不自由な生活になるけれど、こればっかりは自業自得だから仕方がない。
「うわぁ……思ったより酷いことになってますね」
私の手を見てぎゅっと顔を歪める
その横でワクワク顔の
「
みんな揃ったし、
そう言って
表面には大きな赤い文字で「重要書類在中」と書き付けられている。
瀬田さんの筆跡なのだろうか。
とても綺麗な字だ。
大きな封筒の中には私たち一人一人の名前が書かれた茶封筒と、数種類のお札が入っているクリアファイル、あとは表紙にでかでかと「機密文書」と書かれた冊子が一冊入っていた。
「これは……瀬田さん独自の怪異対処マニュアルね」
いかにも仰々しい雰囲気の機密文書をパラパラと流し読みしていた小津骨さんが呟く。
これが外部に流出することは絶対に許されないので、小津骨さんがきっちりと管理してくれるようだ。
次に、私たちはそれぞれ自分の名前が書かれた封筒を受け取って中身を確認することになった。
中に入っていたのは二枚の紙。
香塚
視認・D
接触・B
対話・E
除霊・SSS
総合・B+
一枚目に書かれていたのはそれだけ。
もう一枚はA4サイズの紙に細かい文字でぎっちりと書き込まれている。
個別評価
【視認・D】
これは怪異を視る能力の評価です。
全く見えていないというわけではないようですが、伏木分室の皆さんの中では見え方が弱いようです。
ご自身の目に映っているモノが怪異の本質ではないかもしれないということを常に頭の片隅に置き、同じチームの皆さんと情報を共有しながら正しい姿を見極める力を身に着けるためのトレーニングを行うことを推奨します。
【接触・B】
これは怪異に触れる能力の評価です。
先日の試験の様子を拝見していた限り、素手での接触は難しいものの
このタイプの方には呪符や破魔矢など道具を使った除霊や、怪異に触れるための特殊な手袋の着用による対応を推奨しています。
先日の一件のように
【対話・E】
これは怪異と意思疎通を取る能力の評価です。
香塚さんの様子を拝見したところ、怪異の声が聞こえていないようでした。
怪異の中にも言葉が通じず人間に害をなすモノと、会話の可能で友好的なモノが存在しています。
人間同士でのコミュニケーションでも同じことが言えますが、いきなり殴りかかることは良いことではありません。
とはいえ、香塚さんには声が聞こえないようですので聞き取りの能力の高い結城さんや小津骨さんから教えてもらいつつ対応を検討してください。
【除霊・SSS】
これは怪異を浄化または消滅させる能力の評価です。
これほどまでに強い
私と同等、もしかするとそれ以上かもしれません。
香塚さんご自身は気付いておられないかもしれませんが、試験の日、香塚さんの放った手刀の余波で半径五十メートルほどの範囲に存在していた低級霊や雑多な怪異たちが綺麗に消滅していました。
あまりに強すぎる力を、ご自身が理解されないまま使用することはかえって危険です。
能力のコントロール方法を学ぶため、然るべき場所へ行き指導を受けてください。
そうすれば稀代の除霊師となることも可能だと思います。
【総合・B+】
以上の能力の評価を踏まえた全体評価です。
香塚さんはまだご自身の真の能力を把握されておらず、その引き出し方も十分ではありません。
欠けている部分を補い、長けている部分の上手な扱い方を学ぶことによりこの評価は飛躍的に向上する可能性があります。
今後の活躍を期待しています。
読んでいたら瀬田さんにお説教されているような気分になってきた。
言っていることはどれも正しいんだけどさ……。
「香塚先輩、どうでした?」
ひょいとこちらを覗き込んできた結城ちゃんは、良い評価をもらったのかニコニコ顔だ。
「ん……、まあまあ、かな?」
テストの答案用紙が返ってきた時のような気恥ずかしさを覚えながら、評価だけが書かれた方の紙を見せる。
「わっ! すごい! SSSがある」
「マジっスか!!?」
「すごいじゃない!」
結城ちゃんの歓声に引き寄せられるように小津骨さんと真藤くんまで評価表を見にやってきてしまった。
「と、ところで皆さんの方はどうなんですか?」
苦し紛れに聞いてみると、小津骨さんは自身が貰った評価表を見せてくれた。
すごい……。全項目Sランクだ。
結城ちゃんもそれに倣って用紙を見せてくれたのだけれど……――
「視認・SS、接触・E、対話・SS、除霊・Bの総合がA+?」
私より高いじゃん。
小津骨さんより上のSSが二個もあるし。
触れられないことを除けばめちゃくちゃすごい子なんだ。
「それじゃあ真藤くんも……」
「俺は『運転お疲れさまでした』だけだったっス!」
ニカッと笑った真藤くんの首根っこを小津骨さんが捕まえる。
「怜太ったら文字が読めないみたいだから代わりに読んであげるわね」
ひょいと紙を取り上げて、小津骨さんは咳ばらいをした。
「怪異に対する過剰な反応は、怪異を助長する恐れがあります。堂々とした態度で向き合うようにしてください。
……ですって」
要はビビるなってことかな?
言われてみれば、真藤くんは一番腰が引けてたかも。
視認・B、接触・A、対話・C、除霊・Dで総合評価はB-。
妥当ってところ?
とりあえず私より下の評価がいてくれてちょっと気が楽になった。
全員が瀬田さんの通信簿に目を通し終えた頃合いを見計らって、小津骨さんが小包みを持ってきた。
そして、それぞれにひとつずつ道具を配っていく。
「これは瀬田さんが私たち一人一人のために用意してくださった道具です。
香塚さんには怪異を視る力を助けるメガネ、結城さんには怪異に触れるための手袋。私には強力な怪異が現れた時に結解を張るための御札。怜太には……――」
「うわぁぁぁぁぁっ」
小津骨さんが言い終える前に大きな声を上げて真藤くんが椅子から転げ落ちた。
「怜太には……ふふっ、度胸を鍛えるためのビックリ箱」
「……ぷっ」
半笑いで説明する小津骨さんに釣られて結城ちゃんも笑う。
寄木細工で作られた小箱には、瀬田さんが封じ込めた数体の無害な霊が入っているらしい。
裸眼ではわからなかったので、瀬田さんがくれたメガネをかけてみる。
「わぁ」
本当のビックリ箱のように上半身だけが箱から飛び出したお化けが両手を大きく広げて威嚇している。
けど、全然怖くない!
むしろ感動ものだ。
「中に入ってる霊には何種類かあるみたいだから、慣れるまで使いなさいって書いてあるわよ」
「は、はいっス……」
こうして、ささやかな笑いと共に怪奇現象対策課の本当の仕事が始まったのでした。
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