死んでしまった好きな子にそっくりな、鬼可愛メスゴブリンを拾った。

あおき りゅうま

プロローグ ゴブリンを拾う。ひげは剃らないが飯は食わせてやる。



 ゴブリンとは悪戯好きな家付きの妖精である。(wikipediaより引用)



「ガッガッガッ……!」


 つまりは俺の目の前にいるゴブリンはゲームやアニメで見るような、男を見たら殺し、女を見ると犯す。そういった存在ものでは必ずしもないらしい。


 作品によって扱いが変わり、現代のファンタジー作品はゲームの世界観をベースにしているため、倒すべき敵モンスターとしての側面が強く強調され、暴力的な存在として描かれているが、ゴブリンとは本来、中世では妖精として言い伝えられており、邪悪な存在ではなく悪戯をして人を困らせるだけの、そんな日本で言う妖怪のような存在であったようだ。


 ゴブリン=危険というのは現代のゲームをベースにしたアニメ作品がメジャーになったがゆえに植え付けられたイメージであり、元々はそんなものではなく、小憎こにくらしくも愛らしい、そんな存在であったということだ。


「コーイチ‼ コーイチ‼ クレ! クレ‼」

「はいはい……」


 だから、俺に茶碗を差し出す———どう見ても女の子にしか見えないコイツ———は、決して暴力的で、邪悪で、危険な存在ではない。


 俺は茶碗に白飯を注ぎ、二本の角を持つ赤い大きな瞳の幼女に差し出す。


「今度から欲しくなったときは『お代わり』って言うんだぞ?」

「オカワリ……? ワカッタッ‼ オカワリイウ‼」


 満面の笑みを浮かべて、手を伸ばす少女。

 小麦色に焼けたような褐色の肌。

 その手に茶碗を乗せてやる。


「アリ……アリ……」

「ありがとう、な」

「あーがと‼」


 大きな声でお礼を言って、また「ガッガッガッ……!」と掘削機のような音を立てて白飯を腹に掻き込んでいく。


「はぁ……何やってんだかなぁ……俺……本当にこんなことしていいのかなぁ……」


 段々と冷静になって来て、頭を抱える。

 ここは異世界でも何でもない。

 日本だ。


 日本の中でも九州で、一番都会と言われる福岡県福岡市。その割と中心部に近い立地のアパート「リリス高宮」の一室。六畳一間、ロフト付きの広いとも狭いともいえない普通の部屋だ。


 そこに今、ゴブリンがいます。


 メスゴブリンが、女の子の姿をした小鬼がいます。そんなことをいって誰が信じるのか。

 頭がおかしくなったと思われて病院にぶち込まれること間違いなしだ。


「はぁ~…………」とデカいため息を吐いててのひらで顔を覆う。


 チロルチョコのような円錐の形をした小さな二本の角。ボサボサで毛を全く刈らなかった羊のような伸ばしっぱなしの白い髪、ルビーのように真っ赤な瞳。そして褐色の肌に肉付きのない、幼い体つき。


 小鬼。


「どう見ても……鬼だよなぁ……」


 正直、初めてこの子を見た時、鬼だと、鬼の幼女だと思った。


 だが、ゴブリンらしい。


 まぁそれも西洋と東洋の言語の違いで、日本の桃太郎に退治されているアレも西洋ではゴブリンと訳しているのかもしれない。


 目の前の腹を空かせているだけの少女が、素直に餌付けされる存在であり、現代日本のオタク業界で植え付けられたゴブリンのイメージと全く違う存在であるように……所詮しょせんそれだけの違いでしかないのかもしれない。


「コーイチ! オカワリ‼」

「早いな⁉」


 二重の意味だ。

 飯を食べることと、言葉を覚えること。


「えへへ……」


 にへらぁ~と笑っている。

 褒められたとでも思っているのだろうか。


「……しようがねぇなぁ」


 つられて俺も笑って、茶碗に飯を注ぐ。

 こんなことになるとは思ってもみなかった。


 久遠光一くどうこういち25歳。職業———システムエンジニア。


 プログラミングを生業にする人間の例にもれず、当然のように勤めている会社はブラックだ。

 現在、日曜夜の8時半。なのに俺はスーツを着ている。

 今日で20連勤目だ。

 毎日が辛くて異世界転生したいとすら思っていた。気が付けばそんな小説を読みながら眠りにつく毎日を送っていた。


 そんな俺の目の前に、まさか異世界からゴブリンがやって来て、その子を拾う羽目になるとは夢にも思っていなかった。


 こんなことになった経緯は、一時間ほど時間を遡らなければならない……、

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