宇宙の船乗り

鷹津楓

プロローグ

 時間が意味を失い、生命の痕跡ももうとっくに消え失せたがらんどうの宇宙空間。残された者たちは、ただ孤独にそれぞれに与えられた運命と対峙していた。星から星、銀河から銀河へと流浪を続ける一隻の小さな船も例外ではなかった。


 船の操縦席に座っている彼は、見たこともない外套がいとうを羽織り、帽子のようなものを目深にかぶって、船に身を任せ俯いていた。彼の船は一人で乗るには広すぎるが二人で乗るには少し狭すぎるものだった。

 各設備はお世辞にも整っているとはいえず、もう化石といっても差し支えない古いものばかりだ。機能の説明が書かれていたらしい文字は、かすれてもはや判読できない。時々、本来は聞こえてはいけないような、気味の悪い音も聞こえてくる。しかし、どんなにぼろくとも止まる気配はなく、宇宙の静寂の中を静かに航行していた。


 どれくらい進んだだろうか。遥か前方に黒い点が視認できるようになった。その点は少しずつ大きくなり、やがて小さな星だと分かった。船は速度を落としてそこへ着陸した。しばらくすると操縦席の彼が地上へ降りてきて、辺りざっとを見回し、おもむろに歩き出した。

 そこは寂しい星だった。生命などもちろん存在せず荒野が続いてるばかりだった。そして少し歩くだけで一周できてしまえそうなほど小さかった。じきに侵食されて跡形もなく消えてしまうのではないかとさえ思えた。

 

 取るに足らないちっぽけな星のようだが、彼は一歩一歩を踏みしめるように、星を全身で感じるようにして歩く。ひとしきり星を探索したあと、彼は唐突に地面に寝転んだ。ざらざらとした礫や砂が全身に当たる。ちりばめられた星々の鈍い光が目に飛び込んでくる。静かに目を閉じる。体が石のように動かない。まるで星に縛りつけられているかのようだ。時間の呪縛は、まだ彼を離してくれないようだった。

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