第9話 お風呂


「ふぅー、疲れた……」


 湯船に浸かりながら、トバリは息を吐いた。


 今日は久しぶりに外に出たせいか、疲労の色が濃い。

 刹那の胸の先端を弄りながら、トバリは幸福感に包まれていた。


 刹那も、トバリと一緒に湯船の中に入っている。

 元が人間だからか、ゾンビは多少の水にさらされても問題ないようだった。

 身体の腐敗が始まっていないところから見ても、何か他の生き物に生まれ変わったというほうが、トバリにとってはしっくりくる。


 刹那の胸に顔を埋めながら、トバリは思案する。


「食料はなんとでもなるな……あとは、情報が必要だ」


 今のところトバリが持っている情報は、ネットで知った今の世界の現実と、実際に外を歩いて見てきたものと、葛城から聞いた登校日の件ぐらいだ。

 特にトバリは、登校日の件について考えを巡らせていた。


「刹那が制服を着ていたのは、多分それが理由だったってのはわかった」


 ちなみに、刹那には既に清潔な服を与えてある。

 刹那の制服のポケットに家の鍵が入っていたので、刹那に自分用の衣類を取って来させたのだ。

 さすがに何日も着ていたらしい制服をずっと着させ続けるのは抵抗があった。


 そもそも、部活動に所属していなかった刹那が、夏休みにもかかわらず制服を身に着けていた時点でおかしかったのだ。

 つまり刹那は、一度学校に行っていたということ。


 そこでトバリの頭の中に、嫌な想像が浮かんだ。

 トバリのことをいじめていたクラスメイトたち。

 彼らが高校を制圧し、暴虐の限りを尽くしているのではないかと。


「あいつらなら平然とレ◯プでも殺人でもやりそうだな……。とりあえず血は出てたから、刹那に関してはそういうことをされたりはしなかったみたいだけど」


 奴らなら平然と人を傷つけることができるという確信が、トバリの中にはあった。


 とにかく、刹那がこちらまで逃れてきたということは、高校で何かしらの緊急事態が起きていると見て間違いない。

 そこで何があったのか、知る必要がある。


「とにかく、情報を集めるべきだな。あとは、武器」


 武器には、思い当たることがある。

 ゾンビだ。


 トバリはゾンビを操ることができる。

 これを使わない手はなかった。


 普通の武器として、サバイバルナイフや拳銃なども入手したいところだ。

 ナイフはともかく、拳銃となるとなかなか難しい。こちらはできればでいいし、トバリはあまり本気で入手しようとは考えていなかった。


 クラスメイトたちに復讐するのは、こちらの体制を整えてからでも遅くはない。

 しばらくは高校以外の場所に篭城している生存者の集団と接触して、情報の交換を行いたい。

 まあ、そんなものがどこにあるのかはトバリにも見当がついていないが、それはおいおい見つけていこうと、トバリは考えていた。


「ふー……」


 今後の方針はとりあえず決まった。

 そう判断したトバリは脱力して、刹那の身体の柔らかい感触を楽しむ。


「……刹那」


 胸に埋めていた顔を上げて、トバリは正面に座っている刹那の唇に口づけした。

 すべて壊れてしまった世界の中で、彼女だけがいまだに美しい。

 

「ん?」


 頭に、何か重いものが置かれた感触があった。

 見ると、刹那がトバリの頭を撫でているのがわかった。


 慈しむように。


「刹那……」




 欲情したトバリは、風呂の中でそのまま行為に及ぶことにした。

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