09.結論じゃなくて途中経過もお願い
「いいわ、簡単な話なのよ」
ママがそう切り出して、簡単な話で終わったことはない。何より、現状を把握しただけでも「簡単」な部分が見当たらなかった。
私は婚約破棄の現場で殺された。もちろん冤罪だし、裁判もなしで貴族の首を落とすのは問題だ。直後、赤子に生まれ変わった。なぜか仇である元婚約者と聖女の子らしい。乳母は危険を感じたようで、私を連れて逃走。誘拐された現場に、偶然を装った兄が乱入して救出からの、今に至る。時系列で整理すると、謎がより一層深まった。
絡まり過ぎて理解が追いつかない。
「グロリア、いいえ……今はキャロラインだったわね。あなたは私達の娘グロリアなのよ」
「ママ、結論じゃなくて途中経過もお願い」
頭の上のお胸が重い。あと、温かくて眠りそう。どきどきしながら手を伸ばそうとする父と、目を輝かせてお菓子を差し出す兄。どちらも問題ありだけど、まずは説明優先だ。
にぃにからお菓子を受け取ろうとするが、すっと離された。意地悪か? そう思うが、また差し出される。唇の近くなので、そのまま齧ったら嬉しそうに笑った。
「っ、ずるいぞ」
慌ててパパも真似をする。侍女が持たせてくれた紅茶を飲みながら、差し出されるお菓子を交互に食べた。これは前世も同じだけど、片方だけ食べるともう片方が泣くの。いい年した男が、しくしくと泣く姿は見てて疲れる。
「あまり食べさせたら眠っちゃうわよ」
頬をぷにぷに突くママは、再びというか……改めて説明を始めた。
「私が隣国の王女なのは知っているでしょう? 実家の力を借りたの。代償を支払って、あなたを呼び戻したら……なぜか聖女の子に生まれちゃったのよね。私が産むつもりだったのに」
え? ママが産む……年齢的に無理、でもないかな。全然老けてないから、産めちゃうかも。重力に逆らうお胸と、皺のない若い肌をじろじろと確認した。
「代償って何?」
笑顔のママと対照的に、パパやにぃにの顔色が悪い。やばい物を対価に支払ったのかな。首を傾げた私の耳元で、ママは「あなたは知らなくていいの」と囁いた。嫌な予感がびしばしするので、私はそれ以上問わなかった。たぶん、聞いてはいけないやつだ。
「どうしてママが産めなかったの?」
「パパが失敗したのよ」
ぷんと唇を尖らせたママは、ぐいぐいと胸で私を圧迫する。本気で産もうとして、身籠り損ねたらしい。私としてもママの子に……あ!
「乳母!! 今のお母さんなの。きっと心配してる」
一緒に誘拐されたのにアビーだけ戻れば、すごく心配させているはず。実の母親じゃないし、血縁関係はないけど。彼女は私を連れて逃げて、育ててくれた。愛情豊かに、腹を痛めた我が子のように愛されている。このまま一方的に終わりにしたら、後悔するわ。
「乳母……ああ、サムソン準男爵家のエイミーね」
ママは思い出したように名を口にした。するとパパが大きく頷く。
「安心していいぞ。ちゃんと処理した」
……処理が、処分の意味に聞こえて私は青ざめた。
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