BMP187

@87349

BMPヴァンガード

第1話 計測結果「BMP187」

「なんどやっても『187』だ! なんてことだ!!」


軽くヒステリーを起こしたように、白衣を着た年配の男が縦長の機械を蹴り倒す。

テレビとかで見覚えのある顔だ。

確かBMP研究の世界的な権威で、名前は……。

思い出せん。


「上条博士、この測定器でもう15台目です。さすがに、機械の故障という可能性は低いかと」

「分かっておるわ!」

床に転がった測定器を踏みつけながら怒鳴る、上条博士(やっと思い出した)。

似たような機械が、他にもいくつも転がっている。

この『BMP測定器』ってやつ、安いものでも一千万はするって聞いたことがあるんだが……。


「187という数値が間違いないのなら、彼、拘束しないで大丈夫なんでしょうか……?」

「む、それは……」

少し気弱そうな白衣の女性に言われて、考え込む上条博士。

確かに、俺は拘束されていない。

すわり心地のいいリラックスチェアに腰かけて、BMP測定器に触れていただけだ。

というか、未だに、自分の状況が分かっていないんだが。



「下手に彼を刺激するのはやめてください、上条博士」

と、俺の後ろに立っている長身の男が声を出した。

こっちは全く見覚えのない男だ。年の頃は20代後半から30代前半だと思うのだが、やたらと顔がいい。

俳優か何かだろうか? 眼鏡をかけた理知的なハンサムだ。

「BMP187の能力者に暴れられれば、この程度の人員ではどうしようもありません。ただでさえ人手不足なんですから、あまり物騒なことを言わないでください」

自分の方がもっと物騒なことを言っているハンサム。

と、同時に10人ほどの黒服たちが、まるで化け物をみるかのような目でこっちを見てきた。

どの黒服も、俺が10人いても片手で払われるような体格をしてるんだけど。



「と、とりあえず、検査を始めよう。い、いいかな、悠斗君。痛くはしないから、いきなり私を粉々にしたり、溶かしたりはしないでくれよ」

「できません」

足を震わせながら、それでもプロ意識でこちらに寄ってくる上条博士。

「あの、その前にバイト先に連絡入れてもいいですか。今日シフト入ってるんで」

バイトの時間まで、あと3時間くらいはあるが、この調子だと間に合わない可能性がある。

「ああ、バイトなら」

と、眼鏡ハンサムが携帯電話を渡してくる。


『も、もしもし』

「ん? 店長ですか? 実は、今日のバイト……」

『ああ! 分かっている! 今日は来なくても大丈夫だ! というか、明日からも来なくても大丈夫だ! 悠斗、い、いや、悠斗君! 今までありがとう! 今月の分の給料はちゃんと政府の人に渡しておいたから! それじゃあ!』

言いたいことだけを言って、電話は切れた。

というか、これってクビってことか。

「良かったね、悠斗君」

ハンサムメガネがにこやかに話しかけてくる。

この中で、俺にびびってないのは、この人だけみたいだけど、まるで俺のことをライオンか何かのように警戒しているのが分かる。

全く、心あたりがないんだが。



ああ、なんで、こんなことになったんだろうか。



派手な音を立てて、重そうな機械が地面に落ちる。

「こらぁ! 何をやっとるか! 悠斗君を刺激するな! 飛ばされるぞ、首が!」

そして、上条博士がどなる。飛ばさないけど。


若い研究員が、慌てたのか、聴診器のようなものをお手玉している。

「もたもたするな! 悠斗君が飽きたら、壊されるぞ、研究所が!」

そして、また博士がどなる。もちろん壊さないよ。俺は。


白衣の女性が、やたらと太い注射器のようなものを、なぜか嬉しそうな顔で持ってくる。

「馬鹿モン! いきなり、硫酸なんぞ持ってくる奴があるか! 何に使うつもりだ!」

いや、ほんとに何に使うつもりだ?



みんな真剣にやっているのは分かるが、検査の準備とやらは全く進んでいない。

正直、もう帰りたいんだが。

「彼を責めないでやってください」

と、突然、眼鏡の青年が俺に話しかけてきた。

「この国には、彼の他にまともなBMP研究者はいないんですよ。毎回、危険な能力者を押し付けられて、ちょっとナーバスになっているんです」

今日一日で、10回くらい『危険』と言われた俺も、なかなかナーバスになってますが。


「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

と振り返ったとたん、2,3人の黒服から銃を向けられた。

「こらこら、過剰反応し過ぎだ。別に取って喰われたりしないから、銃をしまいなさい」

眼鏡の青年に言われて、ぺこぺこしながら銃をしまう黒服たち。……普通に傷つくな。

「で、なんですか? 聞きたいこととは」

「なんで、今日、突然、俺を連れてきたんですか? 確か、BMP120以上の人間は、小さい頃から訓練しないと精神に異常をきたすから、国が保護してるって聞いたことがありますけど」

「ん。いい質問ですね。まあ、まだ色々と調査中なんですけどね。君を見つけたのは単純な話です。情報提供をしてくれた人がいるんですよ」

誰だ。そんな余計な事をした人は。

「私の口からは言いにくいんですが。まあ、近いうちに会えますよ。彼女も君に興味を持ってたみたいですから。…………………会わないほうがいいかもしれないですけどね……」

ちょっと待て。今、最後に小声で物騒なセリフを言いましたね。



問い詰めようとしたところで、

「よし、ようやく準備が整ったぞ!」

腕いっぱいにわけのわからない器具を持った上条博士が迫ってきていた。

「さあ! 『属性分析』を始めようじゃないか!」

興奮で息を荒げながら宣言してくる。


……お腹減って来たな。



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「ついに、ついに! 悠斗君の『属性』が判明したぞ!」

白髪を振り乱しながら、上条博士が叫ぶ。

意外に手入れが行き届いている白髪だ。研究で忙しいだろうに、しっかりケアしてるんだな。感心だ。


と、どうでもいいことを考えているのは俺だけみたいで、みんな上条博士の次の言葉を聞き逃すまいと息を殺している。

「悠斗君の『クラス』は……」

上条博士が、一瞬声を止める。

その場にいるすべての人たちが息を呑む。

俺は、腹の虫が鳴りそうになるのを我慢する。


「『ウェポンテイマー』だ!」

…………へえ。

と、とりあえず頷く俺の耳に、


「「「うおおおおおお!」」」


と、怒号のような歓声が響いてきた。

「BMP187のウェポンテイマーだって! そんなことがあっていいのか!?」

「無敵じゃないか!」

「確か、麗華さんはテイマーがいなかったわね!」

「じゃあ、彼女と組めば!」

「「世界最強のコンビじゃないか!」」

「すごいぞ、悠斗君!」

「悠斗君、万歳!!」



「あ、ど、ども、です」

あまりの迫力に圧倒される、俺。

一体何がどう凄いのか、誰も説明してくれないことの方が、俺的には脅威だ。


「城守君!」

上条博士が、美形の眼鏡の人を呼ぶ。『城守』っていうのか。

「なんでしょう、博士」

「さっそく、悠斗君のBMP登録を政府に申請してくれたまえ! もちろん所属は、うちの研究所だ。あと、『新月』への編入手続きも頼む。ああ、それから予算だ。世界最強のテイマーを養成するんだからな。たっぷりと頼む!」

「お任せください。そういうのは、得意分野です。使いきれないくらい、引っ張ってきて見せますよ」

いや、その予算は、もうちょっと世の中のためになることに使ったほうがいいんじゃないかな?


「思えば、大学でどのゼミにも入れてくれなくて、仕方なくBMP研究の道に進んで数十年……」

上条博士が、語り始めてしまった……。

「いつの間にやら、世界的な権威、などと持ち上げられるようにはなったものの、いつもいつも問題の多いBMP能力者を押し付けられてばかり……」

確かにいるよね、能力が高いせいで仕事押しつけられる人って。

「だが、ついに今日! BMP能力が高いのにまともな逸材に出会えた!」

ガッツポーズをする上条博士。


と、そのまわりに白衣の人たちが集まってきた。

「そのとおりですよね、博士!」

「一時間も検査をしたのに、どこも壊されてないんですよ!」

「他の連中なら、この辺の機材は全滅でしたね!」

「それどころか、麗華さんなら、この研究所が全滅でしたね……」

「それは、言い過ぎだ。半壊くらいで我慢してくれるはずだ」

抱き合って喜ぶ研究員の方々。

BMP能力者っていうのは、怪獣なのか?

おかしいな。小学校の教科書には、そんなこと書いてなかったぞ。


「わしゃあ、テンションあがってきたぞぉ!」

年寄りが、テンションとか言うなよ……。



「悠斗君、私も嬉しいですよ」

理知的な眼鏡の人、いや、城守さんが話しかけてきた。

「君は……いや、君たちはきっと人類の希望になります。この歴史的な瞬間に立ち会えたことを、私は誇りに思いますよ」

端正な顔に最大級の敬意を込めて、城守さんが微笑む。

いや、どう考えても、俺はそんなたいした人物じゃないんですが。



ひょっとして、そろそろドッキリカメラとか、出てこないかな。

……来ないよね。

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