第9話 それは些細な違和感から始まった 9

「結局何もわからなかったな」


 母親の話からは手か掛が掴めなかった。ただ杉江には少し光心当たりがあるよヴたった。


「そうでもない。東海岸ってことだけでも想定できることは多少はあるんだ。」


「どんな?」


 インスマスと言うのは東海岸の小さな港町だ、父親はそこから来たのかも知れない。となると父親はインスマス面(づら)と同族なのか。そして僕もその血を引いているというのか。


「血を引く者として生贄候補にされた、という事かも知れない」


「それはおかしいんじゃないか。クトゥルーの復活を画策している者が同族を生贄にするのか?」


「それは判らない。生贄に理由が必要だとしたら、多分そういうことなんだろう」


 いずれにしても溜まったものではない。クトゥルーの復活なんて望まないのに生贄にされる訳には行かない。


「とりあえず、あいつ、魚男はなんとかしてみるよ」


「なんかと、ってどうするんだ?」


「聞かない方がいい」


 そう言うと杉江は帰っていった。少し思いつめた様子だったので声を掛けられなかった。





 父親の故郷がアメリカ東海岸。悪い予感しかしなかった。杉江は何も言わないが、父親がインスマスの生まれだと確信しているようだ。


「俺がインスマス面(づら)たちと同じ血を引いているから狙われた、ということかな」


「容易に想像できるな」


 杉江は否定しなかった。


「で、もしそれが事実だとして、俺は唯々諾々と従う義理もないと思うんだが、どうすればいい?」


「あいつ一人なら俺だけでも対処できるんだが」


「対処って?」


「聞かない方がいいよ」


 杉江は少し真剣に顔で言った。俺はそれ以上何も聞けなかった。





「私もいつか魚男みたいになってしまうのだろうか」


「無い、とは言えない。元々インスマス面(づら)は後天的に発症する病気のようなもので段々酷くなっていくはずだから。今は何事もなくても」


「それは、脅しかい?」


「いや、事実だよ」


「否定してくれないんだな。で、私に残された選択肢は?」


「あなたが選ぶ必要はないと思いますよ。向こうの選択肢を無くす、ということでどうでしょう」


「どうやって?」


「聞かない方がいいと思います」


 珍しく神明剣な眼をしている杉江に、それ以上何も聞けなかった。





「違和感はもうないんじゃない?」


 杉江に言われて気が付いた。確かに違和感が無い。


「何?どうした?」


「聞かない方がいい、って言ったろ」


 あれ以来魚男は見てない。杉江は不敵に笑った。何か好からぬことを仕出かした時の顔だ。僕のために、と思うと申し訳なかったが、何か法に触れるようなことをしたとしたら、それは過剰防衛にならないかとも思う。血生臭いことじゃなければいいのだが。


「気にすることじゃないよ、詳しくは言えないけど入れ替えさせてもらった。それで相手に君と言う存在を把握出来なくした、っていうことだよ」

意味が全然解らなかったが杉江はそれ以上の説明はしてくれなかった。


「魚男も来ないし違和感もない。それ以上は何も望んではいけない、ということか」


「そのとおり」


 とりあえず何かの決着がついたらしいことは確かだった。





「もう違和感はないんじゃないか?」


 杉江に言われて気が付いた。確かに違和感が無い。


「何だ?どうした?」


「聞かない方がいい、って言っただろ」


 あれ以来魚男は見てない。杉江は不敵に笑った。何か好からぬことを仕出かした時の顔だ。俺のために、と思うと申し訳なかったが、何か法に触れるようなことをしたとしたら、それは過剰防衛にならないかとも思う。血生臭いことじゃなければいいのだが。


「気にすることじゃないさ、詳しくは言えないけど入れ替えさせてもらった。それで相手にお前の存在を把握出来なくした、っていうことだよ」

意味が全然分からなかった。


「魚男も来ないし違和感もない。それ以上は何も望んではいけない、ということか」


「そのとおり。少し付け加えるとしたら違和感は入れ替えた時のバグのようなもので改善したら無くなった、ということだ」


 とりあえず何かの決着がついたらしいことは確かだった。





「もう違和感はありませんよね?」


 杉江に言われて気が付いた。確かに違和感が無い。


「何?どうかしました?」


「聞かない方がいい、と言いましたよね」


 あれ以来魚男は見てない。杉江は不敵に笑った。何か好からぬことを仕出かした時の顔だ。私のために、と思うと申し訳なかったが、何か法に触れるようなことをしたとしたら、それは過剰防衛にならないかとも思う。血生臭いことじゃなければいいのだが。


「気にすることじゃないと思います。あまり詳しくは言えないけど入れ替えさせてもらいました。それで相手にあなたの存在を把握出来なくした、っていうことです」


 意味が全然分からなかった。


「魚男も来ないし違和感もない。それ以上は何も望んではいけない、ということかな」


「そのとおりです。ただ少しだけ言わせていただきますと相をずらせた、ということです」


 更に何も判らない。


「もうちょっと説明してはくれないだろうか」


「そうですね、なかなか難しいのですが、あなたの中身を別のあなたに入れ替えた、ということなのです」


「な、なんだって?」


 杉江によると今私が居る次元とは違う次元の私と入れ替えたのだそうだ。私本人には全く自覚はない。


「出来るだけ年齢が近い同志で入れ替えたつもりなのですが、どうしても何人かは少しズレてしまいました。それが違和感になって表れたのだと思います。急いでやったので色々と齟齬が出てしまい申し訳ありませんでした。私自身の記憶も少し混乱していて自分がやってことを自覚していなかった時があるのです。あなたのリアクションでやっと自分がやったことに気が付いた、という為体で」

結局最後まで杉江の言っていることは理解できなかったがクトゥルーの復活が阻止出来たのなら問題もないのだろう。


「それで、クトゥルーの封印は解けない、ってことでいいんですよね」


「とりあえずは、ということです」


 とりあえず、ということは、またいつか、ということか。何も解決したわけではない、ということなのだろう。


 但し、杉江がどうにかした魚男はもう来ないだろうと思うが、別の魚男が来るかも知れない。


 それよりも私自身があのような悍ましい存在になってしまう可能性もある。そういえばなんだか最近、雨の日が好きになってきている自分に気が付く。私に安寧の日々が戻ることは二度とないのかも知れない。

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それは些細な違和感から始まった 綾野祐介 @yusuke_ayano

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