決戦! ドラゴン…ドラゴン?③

 あんまり、良い雰囲気じゃないなぁ。

 軍の雰囲気ね。まぁ、予想ができないわけじゃ無いのだけれど。アタシらってほら、傭兵じゃない? 正規軍から目の敵、お荷物、下賤な者、扱いされるのは慣れているのだけれど。今回はちょっと違うと言うか…アリア軍自体が慣れていないんだよね、アタシらみたいな立場の人にさ。

「新入社員みたいな扱いだな」

 アイツはそう言うのよ。

「新入…丁稚のこと?」

「丁稚とは違うんだが…なんて言えば良いのかな。お客さんのような部下のような中途半端さ、と言うか…」

 うーん、と新調した槍を握りしめながら考え込んで。分からなくもないけれど。お客さんのような部下のような。要するに指揮系統が明確じゃ無いのよね。なんかさ、祭り上げられてアタシがギルドのトップ、みたいな立ち位置だけれど、アタシは別にレオナードの部下ではないし、誓約書の類も出してないからね。シルバだとキチンと、と言うべきなのか、〇〇の配下に加わること、みたいな誓約書があるのよね。アーノルドのやつ、もしかしてわざと渡さなかったのかしら、なんて邪推をしつつ。

 初日の夕方。兵らは野営場の設営にてんてこ舞いだ。天幕だけは先に建てられて、軍議をやることになった。アタシらはジャックにレベッカ、それにもう一つのCランクリーダーのジョージ。正規兵からはレオナードと参謀、将軍が数名。合計で十名に満たないくらい。全軍で一大隊くらいしかいないし、こんなものだけれど。アタシらなんて、一小隊がいいとこだし。

「改めて状況を説明致します」

 片眼鏡の参謀はいかにも慇懃、と言う様子。貴族なんだろうな。眼鏡なんて、そんじゃそこらの庶民には手が届かないし。大方貴族のご子息、って所だろう。レオナードもだけれど、列席者は皆若い。

「例のドラゴンもどきはコトレ村を襲撃、その後の消息は不明です」

 アタシが治療した村人たち。全員コトレの出身らしいよ。

「詳細な行動範囲は不明ではありますが、およそ十キナヤルク周辺を捜索すべきと考えます」

「その理由は?」

「は、通常のドラゴンであれば飛翔致しますので、いずれかで目撃情報が寄せられるはずですが、あやつめは歩行のみです。野生動物の行動範囲はその大きさにより変動致しまして、狐などは二キナから三キナ、熊であると十キナ四方と推論されております。一般的に体格が大きければ行動範囲も広がると推測される訳でして、十キナは最低範囲と考えております」

「それ以上は?」

「は、順次捜索範囲を広げてまいります。幸いにキナ村より南方、海岸付近には漁村がございまして、念のため斥候を放っておりますが現時点では奴の報告は上がっておりません」

「南には向かっていない、という事か」

「は、或いは、コトレ村に留まっていることも」

「何ゆえに」

「は、申上げにくいのですが、エサが…死体がございます」

 レオナードが目を閉じて嘆息した。

「むごいことだ」

「レオナード少佐!」

 将の一人が拳を上げた。少佐なんだ。あの若さで。どうやら優秀みたい。或いは家柄の影響かしら。

「これ以上奴をのさばらす訳には行きませぬ!」

 そうだそうだ、と幹部らがはやし立てる。なんか興ざめ。結論が最初っから決まっているみたい。

「諸君らの気概、誠に心強い。我も早急な駆除が必要と考える。キーファー、具体的な策を」

 片眼鏡はキーファー、と言うらしい。碌に自己紹介もしてないや。

「まず、隊を四分致します。カーライル、グレイグ、メルヴィルの三名にそれぞれ百をお与えください。傭兵どもは総勢で一部隊と成し、捜索に当たらせます。レオナード様の旗下には残りの二百をば」

 む。傭兵ども、とはいかに。何となく分かってたけど、キーファーとかいう奴、アタシ嫌いだ。

「うむ、それで行こう…ペルル殿、折角の機会だ、ぜひエルフの知見を我らに教示して欲しい」

 それより片眼鏡の無礼を正していただけませんかね? ほら、レベッカが魔法打ちそう。あの子魔導士なのよ。割と喧嘩っ早いらしいのはジャックから聞いた。

「捜索はいいけれど、どうやって倒すのよ?」

「貴様、レオナード少佐の前で無礼だぞ!」

 血管が短そうなのはカーライル、とか言ったっけ。腰巾着に改名すれば?

「よい、カーライル。ペルル殿、良いご質問だ。我もそれを懸念していた。キーファー、良い案はあるか?」

「は、攻撃の主体はレオナード様にお願いいたします」

「我が?」

「はい。レオナード様の火焔魔法であれば、奴を撃滅できるものと」

「ふむ…」

「前回はやつめの奇襲でありました。早期に捜索し、将兵らの連携で追い込み、レオナード様の攻撃で仕留められるものと確信します」

「ならば、我が責任を持とう。ペルル殿、如何だろうか?」

「よろしいんじゃないですか?」

「あのさー」

 あ、ダメダメレベッカ、こういう時はさっさと話を切り上げて、帰って裏で愚痴とか文句を言うもんだよ。

「アンタら、私ら舐めてるの?」

 あー、知らない、アタシしーらない。ほら、ジャックとか戦争経験豊富だからちゃんとわきまえて…笑い堪えるなー!

「貴様!」

 カーライルちゃん、脳梗塞で倒れてもアタシの責任じゃないからね?

 アタシじゃないからね?

「私ら、別にアンタらの部下じゃないんだけど」

「それ以上の無礼、許さんぞ!」

 あ、飛び火した。グレイグちゃんね、覚えた。お勉強だけできそうな顔してる。お目めがくりくりで一番可愛らしいメルヴィルちゃんはちゃんと堪えて…楽しんでない?

「わたくしの作戦に文句でも?」

 片眼鏡くいっ、と。片眼鏡は一人だけね。名前を言うのも面倒だからね。

「作戦も糞も、お前らお仲間クラブかってんだ! こちとら本気で来てんだよ!」

「あー、あー、レオナード様! 他に何かありますか!」

 呆然としてんじゃないよ、これだから貴族のお坊ちゃまは!

「あ、ああ…特に、ないぞ」

「それじゃ、アタシらはこれで! ジャック!」

「へいへーい」

「ちょっと、何すんのよ! この変態親父!」

「はいはい、文句は後でな」

 ジャックって割と大柄だからね? ほいっ、と軽々しくレベッカを小脇に抱えてさ。両手両足をバタバタさせてるのがまるで泳いでる見たいだったけど。パンツ見えるよレベッカ。ついでに、ジョージが天幕を上げてくれたから、その間から頭を少し下げて出て行ってくれたの。ばか、変態、ハゲ、アホ、離せー! とまぁ、よくもそんな思いつくな、という罵詈雑言はご愛敬で。

 ご愛敬で!

「ではでは、また明日もよろしくお願いします~」

 アタシもそそくさと去った訳ですよ。カーライルちゃんの怒髪天が見えたけれど、無視無視…。どうなる事やら知らないけれど、頑張れ、明日のアタシ!

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