第3話

「結婚、かぁ……」


 ついスマホでマッチングアプリを検索してしまう。たしか五十嵐さんは、彼氏とはマッチングアプリで出会ったと言っていた。

 さまざまなアプリが出てくる。恋活、婚活、遊び目的……それぞれ特色があるみたいだ。試しにアプリの公式サイトを見てみると、イメージ画像が掲載されていた。


 まるでネットショップみたいに、人の写真が並んでいる。イメージ画像だからか、どの男性もフツメンと言われるような、嫌悪感を抱きにくい顔と笑い方をしている。


 だけどもし、顔を近づけられたら。

 身体に手を伸ばしてこられたら。


「いやいやいや。無理でしょ……」


 想像だけでも鳥肌が立つ。

 異性との出会いも恋人も結婚も、本当はまったく羨ましくない。羨ましく思いたいとは思っている。宇宙の果てに思いを馳せるような気分と同じだ。


 ただ、ひとりで世界からはじき出されるのが怖かった。

 誰にも理解されないことが寂しかった。


 マッチングアプリのサイトから離れ、「セクシャルマイノリティ」と検索窓に打ち込む。

 そして、ほんの出来心で「出会い」と付け加えてみる。


 誰にも理解してもらえないわたしを理解してくれる人に出会ってみたい。

 たったひとりでいい。そのたったひとりの誰かにとっても、わたしが唯一の理解者に――味方なりたい。


 友情でも恋愛でもなく、理解しあえる関係を築くことは難しいことだろうか。


 検索結果をスクロールしていくと「LGBTQ当事者向けのおすすめマッチングアプリ」というページが出てきた。


「セクマイ向けのマッチングアプリなんてあったんだ……」


 もし、恋人を探すように、理解しあえるたったひとりを探せたら。


 藁にもすがる思いでサイトを読み進めていく。

 目を引かれたのは『flower』というアプリだ。他のアプリはマッチングをメインに置いているものの、このアプリはSNS感覚でゆるく繋がることができるというコンセプトらしい。

 深い関係になることを前提に出会うよりも、好きなことや日常的な話題から交流していく方が性格に合っている。


 寝不足で判断力が鈍っているうちでないと行動に移せない気がして、すぐにダウンロードしてみることにする。なぜか心臓がバクバクと高鳴っている。

 緊張もあると思う。

 だけど、新しい扉を開くときの高揚感の方が大きかった。

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