第4話
わたしたちに年末年始休暇などない。
大晦日も元日も忙しく働き、世間が仕事始めだと騒ぎはじめるころにようやく工場は平常に戻った。
セクマイのマッチングアプリ「flower」は一応毎日覗いていた。だけど、隣のクラスを出入口からこっそり眺めているような、そんな気分だった。
「flower」にいるのは、ほとんどがレズビアンの女性だった。ネコの人はタチを求め、見た目の好みの傾向をフェム、中性、ボイと表記し、遠距離ダメとか喫煙者ダメとか、男性と付き合った経験がある人はダメとか……。
正直、肩身が狭かった。わたしはたしかに可愛い女の子のキャラやアイドルはすきだけど、レズビアンであるとは言いきれない。
自分がネコかタチかなんて想像もつかないし、そもそも異性に対してはノンセクシャルだったのだから、同性とだってそういう行為に及べるのか分からない。
年齢が近いとか、住んでいる県が近いとか、趣味が似ているとか、話しかけてみたい人はいるものの、どうしても及び腰になってしまう。
ゆるく繋がれるSNSとはいえ、基本的には恋人を探す人が多い場所だ。
そんなところで、恋愛対象も性的対象も曖昧な人間から声をかけられたら迷惑なんじゃないか。
そんなふうに考えたら、コメントもチャットも送ることができなかった。
だけどひとりだけ、本当に気になる人がいる。
同じ県、同い年の女性。名前は真桜さん。
プロフィールにはアニメ、ゲーム、カフェ巡りなど、わたしと似たような趣味が並んでいる。
『県内で友達や恋人ができたらいいな
最近自分の恋愛指向が分からなくなってきました
男性とも付き合ったけど違和感があり、たぶんビアン寄りのバイだと思います』
わたしとすごく似ている。話してみたい。だけど、この人も恋人を欲しがっている。わたしなんかが話しかけていいのだろうか。
そんな葛藤を抱えながら、真桜さんのプロフィールや投稿を眺めることしかできなかった。
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