アカシックコミック

物部がたり

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 第四次世界大戦はクラッキングによるデジタル戦争が激化。核兵器の撃ち合いに発展し、地球規模の電磁パルス爆弾の使用により幕を閉じた。電子機器はすべて使用不能になり、文明は有史以前まで後退させた。

 人類の遺産データは電磁パルス爆弾により消失され、過去の歴史を知る方法はデジタル化をわずかに免れていたアナログの遺物だけとなる。第四次世界大戦以前を旧世界、以後を新世界と区別し新西暦二千年、人類は再び旧20世紀の文明まで復興していた。

 

 そのような世界にあって、旧世界の遺物を求めて世界中を飛び回るトレジャーハンターたちが存在した。トレジャーハンターのれいは、発掘調査の末に旧世界の核シェルターを発見した。

「れい! やったな! 諦めなくてよかったな!」

 れいは発掘調査のためだけに一財産を築き上げ、築いた財産をすべて投じて発掘調査を決行した。その古代への情熱はトロイア戦争に魅せられ、古代トロイアの都を発掘したシュリーマンにも劣ってはいなかった。

「ああ、やっぱりここに核シェルターはあったんだ」

 地下千五百メートル地点にある旧世界の有力者たちが避難した核シェルターで、その存在は伝説として語られていたものの、誰も信じる者はいなかった。


 その伝説上の古代核シェルターに魅せられ、数千年の時を越えれいはとうとう発見したのだ。

 核シェルターは小さな町くらいの大きさがあり、数千人の人々が生活していた形跡を後に遺している。

 れいたち発掘隊は核シェルターの中の探索を始めた。時間の経過によって原型をとどめなくなっているものもあるが、磁器などの食器類、家具などはほとんど当時のままの状態で残っていた。

 だが、ほとんどの物は戦争終了と共に持ち出されたのか、処分されたのかして消失してしまっているため、旧世界の遺産は発見できなかった。

 宝箱だけが立派で中身が空というオチで終わるのか、と思われたとき、ある部屋で思いもよらなかった旧世界の遺物を発見した。


「こ、これは……。旧世界の漫画じゃないか!」

 その部屋は書庫になっていて、何十万冊もの漫画が収納されていた。

「でも、どうして漫画がこんなに沢山……」

「核シェルターでの避難生活は退屈だから、漫画好きの有力者が運び込んだんだよ。きっと」

「でも、それにしては多すぎないか」

 発掘隊員がいう通り、そこには余りに多くの漫画が収められている。

 それに第四次世界大戦が起こった当時はすでにデジタル化の波に飲まれて、アナログの書物類は余程のマニアでない限り所有していなかったはずである。

 そのため電磁パルス爆弾による攻撃の代償はあまりに大きくなり過ぎた。


「俺は思うんだよ。きっと旧世界の漫画好きの人が、この素晴らしい文化を戦争から護ったんだって」

 それはまるでナチスドイツによる美術品破壊から美術品を護った名前のない英雄たちのようであった。

「これで失われた漫画が読めるぞ」

 その後、数十万冊の漫画は旧世界を知るための文献となり、新世界の人々に漫画の失われた技術の復興運動ルネサンスへと発展することになる――。

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