いないいないばぁ

とらまる

いないいないばぁ

「ねぇ、知ってる?

 赤ちゃんに、いないいないばぁを3回してあげると何でも願いが叶うんだって」


「何それ?嘘でしょ」


「嘘じゃないよ。隣のクラスの明子ちゃん、親戚の赤ちゃんにいないいないばぁを3回してあげたら、ずっと好きだった野球部の天野君に告白されたんだって!」


「偶然じゃないの?」


「私もそう思ったんだけどさ、昨日隣に住んでいるご夫婦に子供が産まれたことを知って丁度廊下で会ったからさ、赤ちゃんにいないいないばぁ3回してあげたの。そうしたらさぁ・・・」


「うん」


「ずっと行きたかったスーパージャーニーの武道館チケットが抽選で当たったのよ!もう信じられない!」


「えっ、そうなの?」


「だからさ、変な都市伝説とかじゃないよ。清美もさ、叶えたいことがあるならば、赤ちゃんにいないいないばぁ3回してあげると、実現するって!」


「ふ~ん」



そうなんだ。そんな魔法の呪文みたいなもの、あるんだ。

でも本当に叶うのかな?

叶ったら嬉しいんだけど・・・




その週末の日曜日

清美は部活動に使う新しいテニスシューズを買うために駅前へ向かった。

その道すがら、小さなすべり台とベンチが置いてある公園に近所の奥さん達がお喋りしている光景が目に入った。

4組くらいの奥さん達。そして皆足元にはベビーカーが。


「あっ、ベビーカー・・・赤ちゃん、いるのかな」


清美のマンションの部屋の周りで子供が産まれた、という話は聞いたことがない。


いないいないばぁ、してみたいな。

でも、いきなり現れて、いないいないばぁさせてください、なんて言えないよな。

変人か?と思われちゃうよな。

知らない人達ばかりだし。


しばらく公園前をウロウロしていた清美だったが、声を掛ける勇気が出ず、結局諦めて駅前のシューズショップへと足を向けた。


安価で有名なシューズショップに入り、テニスシューズを選んでると、ベビーカーを引いた若い女性が入店してきた。

どうやら入り口の通路が狭くて入りにくそうにしている。


「あっ、ベビーカー・・・」


もうこんなチャンスは無いかもしれない。

今度は勇気を振り絞ってドキドキしながら声を掛けることにした。


「大丈夫ですか?」

「あっ、すみません。ちょっと引っかかっちゃって」

「ちょっと狭いですもんね。あっ、可愛い!女の子ですか?」

「えぇ、そうなんですよ」

「私、子供大好きなんですよ。可愛い!・・・あの、いないいないばぁしてもいいですか?

「えっ。えぇ、いいですよ」

「ありがとうございます。私、赤ちゃんにいないいないばぁするの、好きなんです」


よし、準備は整った。

願いが叶いますように・・・


清美は緊張から来る胸の高まりを必死に抑えつつ、心を込めて赤ちゃんに向き合う。


「いないいないばぁ」

「・・・」

「いないいないばぁ」

「きゃっきゃっ」


よし、最後だ。


「いないいないばぁ・・・」



その瞬間、清美の視界は真っ暗になった。


清美の自殺願望が叶えられたのだ。








「おい、お前。どうしてあの女子高生をバットで殴り殺したんだ?」

「刑事さん、俺ずっと人を殺したい願望があってさ。それがいないいないばぁを3回やると叶えられるって友達から話し聞いてさ・・・」


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