第127話 量産型ゴーレムタブレット

「レイ、起きなさい。」


 お母さん?


「レイ、目を覚ませ。家に帰るぞ。」


 ロジャーの声だ。帰って来たんだ。


「あっ、只今。あれ?ここはどこ?」


「「「「アッハハハハハ…。」」」」


 何故、爆笑してるんだ?


「ロジャー、そっくりすぎる。」


「私は…、ハハハ…、レイさんの反応があまりに、いつものレイさんで…。ハハハハ。」


 シエンナまで、大笑いしている。


「いやあ、やっぱり、さっきまでのレイは、違うレイだったんだなってな。いつものレイだ。」


「ここですね。ここは、正式名称は、多足ゴーレム戦車でしたっけ?の中ですよ。さっきまでいたレイさんが作ったものですけどね。」


 シエンナが説明してくれた。ベッドやテーブルまである。どうして戦車なんだろう。どちらかと言うと、向こうの世界ので見たキャンピングカーみたいだ。


「じゃあ、村へ帰りましょう。出発しますよ。椅子に掛けて下さい。」


 シエンナのアナウンスでゴーレム戦車は出発した。村まで20分もかからず到着した。


 7時30分。僕たちの家に明かりがついている。エリックさんたちは、家の中にいるようだ。


「一応、お食事の準備はしておりますが、もうお済みですか?」


「いえ、みんな、まだです。食事、頂いて良いですか?」


「はい。では、配膳が済み次第お呼びいたしますので、お部屋の方でお休みください。」


 5分と待たず、食事の準備が出来ましたと呼びに来られ、台所に行くとおいしそうな食事が湯気を立てていた。


「皆様、どうぞお召し上がりください。」


 エリックさんに勧められて、ご飯を食べ始めた。美味しい。この家で作ったとは思えないくらい美味しい料理だ。エリックさんの横には、シャルとアリアちゃんが並んで立っていた。


「レイ様、アメリア様、お気に召して頂けましたか?今宵の調理は、ドナとアリアが担当させていただきました。」


 エリックさんから調理人の紹介があった。


「すごくおいしいわ。ドナさん、アリアちゃんありがとう。」


 ミラ姉が二人にお礼を言った。僕も全く同じだ。美味しい。うんうんと頷いて二人を見た。


「食事中ではありますが、皆さんに相談があるのですが、宜しいでしょうか?」


「なに?俺たちにできることならOKだぜ。」


 ロジャーはいつも通り調子が良い。


「皆さんは、様々な不思議な道具をお持ちですが、皆様がいらっしゃらないときに連絡を取ることができる道具をお持ちでしたら私たちにもお与えいただきたいのですが…、そのような道具は、お持ちではないでしょうか?」


「ちょうど、そんな道具ができたところよ。これから私たちの留守を任せるのだから、連絡が取れる道具はあった方が良いかもしれないわね。」


「そうなのです。食事の準備をどの時間にしたらよいのか、本日の食事が必要なのかなど些細なことではありますが、常日頃から連絡いただいていれば済むことなのですが、みなさん、予定は未定の所がおありのようですから…。」


「ごめんなさい。確かにエリックさんが言う通りだわ。私たちは、フットワークが軽いことが強みなのよね。だから、予定は未定のことが多いの。明日の昼には王都に行っているかもしれないですからね。」


「お判りいただけますか。ありがとうございます。では、そのような魔道具があるのでございますね。シャル、お主の言う通りだったぞ。御主人様方には、相談してみるに限る。」


「じゃあ、明日、家をでる前までに準備しておくわ。何台準備したらいいかしら。」


「ここにいる者一人に一台と言いたいところですが、1台あれば事足りると存じます。」


「レイ、後、10台以上分の材料があるって言ってたよな。」


「?」

 何のことやらです。


「それと…。もう一つ、ご相談がございまして。」


「何かしら。」

 ミラ姉が間髪入れず応えてくれた。


「昨日、今日とフォレストメロウの町で、屋敷を見て回ったのですが、差し当たり妥協できる物件がございまして、一月だけですが、借り受けております。レイ様とアンディー様にその物件を見ていただき、それ以上の屋敷をパーティー拠点の敷地にお建て頂きたいのですが、明日にでも、ご一緒頂いて宜しいでしょうか?」


「分かったわ。レイ、アンディー。明日は、屋敷の視察と拠点への建築よ。エリックさんがびっくりするくらい立派な屋敷を建てて御覧なさい。」


 ミラ姉が少し焦っている。勘の良いエリックさんに、僕の様子が少しへんちくりんなのを悟らせないためだろう。でも、ミラ姉がへんちくりんだ。


 僕たちの食事が終わって、片付けか済んだ後、エリックさんたちは、それぞれの家へ戻って行った。僕たちは、一旦それぞれの部屋に戻ったが、エリックさんたちが家を出た後、僕の部屋に集まって来た。


「レイが、向こうに行っている間、色々なことがありすぎてしっかり伝えきれてなかったわ。今から、情報を共有しないといけないことを確認するから、みんなも一緒に確認してね。」


「まず、さっき、エリックさんたちに渡す約束をしていたのは、それ。ゴーレムタブレットよ。」


 僕の腰ベルトについているホルダーの中の魔道具をミラ姉が指さした。


「それを精錬コピーして、エリックさんたちに渡してちょうだい。4台で良いと思うわ。材料のゴーレムコアは入っているはずよ。さっきロジャーが言ってたけど、後10台は作れるっていてたから。あんたじゃないレイがね。」


「で、これってどうやって使うの?イメージできなゃ精錬コピーってできないんだよね。」


「こうやって使うの。選択送信:レイ」


『ブルブルブル』


 腰のゴーレムタブレットが震えて着信を知らせてきた。


『ミラ:こうやって使うの』


「凄い。みんながシエンナになれたんだ。」


「まあ、シエンナになれたわけじゃないけど、離れた場所にいても、誰とでも連絡が取れるのは便利よね。」


「これを4台コピーすればいいんだね。」


「ちょっと待って下さい。私たちと常に連絡を取らないといけない人ってエリックさんたちだけでしょうか?」


「私たちと連絡を取りたい人もいれば、レイとだけ連絡を取りたい人もいる。これから、ロックリザード討伐をするようになれば、色々な人と色々なパターンで連絡を取る必要があるかもしれないわね。」


「それに、俺たちのパーティー通信が全てエリックさんたちにも届くのはまずいんじゃないか?」


「そうだな。今日のドローンでの通信も全て届くことになるからな。」


「それじゃあ、私たち5人のゴーレムタブレット以外は、選択送信だけにしましょう。」


「俺たちの送信ボタンもパーティー送信という名前にしよう。俺たちだけは、送信と言えばパーティー送信になるように設定してもらえると便利なんだけどな。」


「そうしたら、もう少し作ることができる台数を増やすことできないか?」


「ゴーレムコアは、まだたくさんあるようだからできると思うよ。どうせ、全部のタブレットを変更するんだからさ。設定情報を送信するための一台だけ残して、もう一度コアから作り直そう。」


「どうせだから1000台分くらい作っておいたらどう。コアが足りるならだけどね。魔石は、捨てるほどあるから足りると思うけどさ。」


「今残っているのが10台分なら、何とか500台かな。今の所、そんなにたくさん連絡を取らないといけない人はいないから、500台分で良いかな…?」


「じゃあ、500台分ね。あっ、中継基地の分も考えてる?」


「今、中継基地用に残してる分位と思っていたけど足りない?」


「あれって、王都とフォレストメロウとロックバレーを結ぶ分と思って残した量なんだよね。他の町もつなぐなら足りないかな…。」


「他の町は、考えなくていいわ。他の町を結ぶのは、他のコアで作っても何とかなるでしょう。うちには、ゴーレムコマンダーのシエンナが居るんだからさ。」


「無理ですー。そんな何百台ものゴーレムタブレットを使役するなんて頭がどうにかなってしまいます。」


「いやいや、使役する必要なんてないわ。管理させるだけ、ゴーレムにね。レイとシエンナが居ればなんとかなるって。」


「とにかく、先のことは、後で考えるとして、今できることをやっちゃおう。じゃあ、念のため、中継基地の分を2倍にしてタブレットは250台ということでどうだ?」


「そうだね。250台でも僕たちとしては、多すぎる位だと思う。欲しい人はもっとたくさんいるかもしれないけどね。」


 それから、コアを合成したり、魔石を粉末にして、タブレット用のコアと合成したりして、タブレット250台用のコアを作った。


 ひな型になるタブレットの親機のボタンデザインを変えて、僕たちのパーティー用のタブレットを6台作った。6台目タブレットのボタンデザインを一般用に変更して、大量生産の準備が完了した。


「アルケミー・コピー・ゴーレムタブレット250」


 魔力がくぐっと持って行かれたが、魔力枯渇を起こす前にコピーが終わった。精錬コピーには3時間かかった。相当きつかった。一般用のゴーレム・タブレットを250台並べて、一般用ゴーレムタブレットの親機から設定情報をコピーする。


 ここまで設定しておけば、持ち主が魔力登録をして、認識名を決めてお互いのタブレットに登録することで送信が可能になる。一般親機の認識名をマザーにした。250台は、今の所マザーとだけは連絡ができる。マザーは、認識名がない250台にも送信できる。これが、初期設定だ。


 また、認識名を同じにすることができない設定にした。登録時に他の人と同じ認識名を登録しようとすれば、拒否され、違う認識名にするように「その認識名は、使用できません。他の認識名にしてください。」という文章が届く仕組みにした。これで、僕がいちいち設定する必要はなくなるはずだ。


 このうちの4台をエリックさんたちに渡して設定してもらう。僕たちのタブレットの認識名を知らせておけば選択送信の時に指定できる。僕たちにも設定名を教えてもらわないといけない。まあ、マザー経由で教えてもらうことはできるのだけどね。


 明日は、ミラ姉に王室への献上品としてゴーレムタブレットを持って行ってもらおう。王室用に家族分 7台、アンディーに特別デザインにしてもらおう。シエンナとロジャーには、中継基地の設置をしてもらって、僕とアンディーは、エリックさんたちとフォレストメロウに行った後、パーティー拠点の建築を行う。


 全部終わったら、冒険者ギルドに行って、ギルド依頼の進捗状況を聞かないといけない。明日も忙しくなりそうだ。


「アンディー。」


「ん?何だ?」


「お願いがあるんだけど…。」


「ん?」


「明日、王室に7台ゴーレムタブレットを献上してもらおうと思うんだよね。ミラ姉に持って行ってもらってさ。」


「ん?だから?」


「王室用デザインをお願い。素材加工は手伝うから。」


「レイ…。お前、眠くないだけじゃないか?俺は、少し眠くなってきているぞ。」


「まだ、11時じゃない。お願いします。」


 なんか忘れているような気がするけど、まあいいか。忘れる位なんだから大したことないんだと思う。

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