第39話 ポーション分析
「海か~。潮風の匂いは今はしない。朝の海から風は吹いてこない。でも海岸に出れば潮の匂いがしてさわやかな風が吹いている。」
今日も始まる。そしてもうすぐ終わる。実験三昧の夏休み。
(楽しかったなぁ。でも、まだ、何もなしていない。今日は、まず釣りに行こう!)
僕は、散歩を終えて巡検施設に帰ることにした。父さんと母さんが待っている。今日の実験はなんだったっけ。
「今日は、釣りに行こうと思う。そしてその釣りでは、釣りたいものを釣る!どうだ、このテーマ。やれると思うか?」
と父さん。
「サーチの応用だね。ただ、それだけで釣りたいものを釣れるのかな?」
「仕掛けを工夫すれば大丈夫。レッツトライ。とにかく、釣り道具屋に行ってみよう。」
僕たちは、一番近い釣り道具に屋にやってきている。
釣りたい魚は、タイ。または、石鯛。タイも石鯛も磯で釣ることができる。
でも仕掛けは違う。だから、二つの仕掛けを作ってもらう。釣具屋さんに。
だって、自分で作れるようになるって練習しないと無理だから。仕掛けと餌。二種類準備してもらう。
餌は生餌だからアイテムボックスの中には入らない。クーラーボックスの中に入れて持って行く。
磯にいって仕掛けを仕上げる。テグスや錘そのほかの仕掛けは、釣具屋さんに作って貰って、アイテムボックスの中に入れてあるから、取り出すだけだ。一瞬で仕掛けが出来て、後は餌を付けるだけだ。
「サーチ。魚はいるよ。大き目の魚もいる。それが石鯛か鯛かと言われれば分からない。でも、試してみないとわからない。連れる時とつれない時の見え方も使い方も。」
「まず、父さんからね。餌を付けて…、魚がいるのは、水面から4.8m-身長×3。」
僕の身長で浮きから下の距離を作る。
「あの辺りに仕掛けを入れてみて。「サーチ」うまい具合に対象がいる辺りに餌が着いた。」
「そのまま、潮の流れに乗せて…。魚の方に餌は流れて言っている。」
サーチは便利だ。後は、結果がついてくるかどうか。魚の前を餌が流れて言っている。魚は、反応しない。何故?
「お~い。御飯だよ~。」
やっぱり反応しない。
潮の流れは大体わかった。同じ場所に落として少し動かしてもらう。
ブラス撒き餌をしてみる。どうだ。
「動き出した。撒き餌につられて動き始めた。そうだ。直ぐ近くに大きな餌があるぞ。食いついてみろ。」
食いついて、吐き出した。そして、生餌に止めをかけようとする。口に入れ、噛んだ。
「父さん、合わせて!」
父さんはその声に反応して竿を上げてくれた。掛った。
竿が曲がり引かれて、大きくしなる。
「頑張れ。」
針は、しっかり掛かっている。テグスの強度には余裕がある。根がかりさえしなければ上げられるはず。
「しっかり巻いて。負けるな。」
10分くらいかかって魚は上がった。立派な鯛だった。氷で締める。硬直するが新鮮なままだ。
「次は僕が釣って見て良い?」
まずは、「サーチ」
さっき釣れた場所から沖に向かって2m程の場所の深度5.2m程度の場所にいる。
5.2mは、かなり深い。身長160cm × 3 + 40cm。潮の流れを考えて10m前から餌を落とし撒き餌を撒く。
餌をしゃくって動かす。撒き餌で動き出した魚は、大きな餌にアタックして来る。
一回目、餌を攻撃して弱らせようとしている。二回目、弱らせて嚙み千切ろうとしている。生餌の先は千切れ弱っている。大きな口を開けて噛み千切ろうとしてくる。
タイミングを合わせて竿を引く。針がガッツリかかり、魚は、根に逃げようと竿を引いた。
根に入られるとテグスはたまったものではない。直ぐに切れてしまう。だから行かせない。頑張った。
竿が折れそうになること何てかまわない。力比べだ。父さんよりも少し時間がかかったがもう一匹上げることができた。
二匹あれば親子三人分には十分すぎる量だ。釣りはいったん終わろう。サーチは便利すぎることが分かった。この鯛も氷で締める。そして帰る。十分すぎる釣果だ。
鯛の料理は、母さんが引き受けてくれると張り切っている。かなりの大物なのだ。
しかも二匹。どんな料理になるのか楽しみだ。
僕と父さんは、実験室に入っている。
「石英ガラスと海藻を収納していただろう?」
「うん。海岸で色々試したからずいぶんたくさん収納することができたよ。」
「じゃあ、海藻から炭酸ナトリウム―ソーダ灰を精製してその後、ビーカーなんかのガラス器具を作ってみないか。」
「炭酸ナトリウムってここにあるなら少し収納させて。モデルがあると精錬しやすいんだ。」
「ちょっと待て。炭酸ナトリウムは薬品庫に入っていたと思う。」
父さんは薬品庫の中から炭酸ナトリウムを出してきた。薬包紙に一匙分取って収納。
精錬。
薬包紙の上の炭酸ナトリウムは、二つになっていた。
「できたみたい。次は、ビーカーかな。」
「そうだな。まずよく使う100mlビーカーを10個くらい作ってみて。モデルは、これね。」
「アルケミー・ビーカー」
まずは、1個。
「これでどうかな?」
僕は、父さんにビーカーを見せた。ガラスの均一さと形は合格をもらった。
「じゃあ、アルケミー・ビーカー100」
この後、各サイズのビーカーや試験管。試験管立て。試験管ばさみ。アルコールランプ。
ガスバーナーは、巡検施設の中にあったのでプロパン用だったが、作ってみた。上出来だ。
「実験器具は、大体できたな。で、何の実験をするかなんだけど…。」
「まず、ポーションとやらの分析をしてみないか?」
「その効果も調べたい。」
後ろから母さんが入って来た。
「試験管にポーションを入れて。5本分くらい。」
「まずは、ろ過しましょう。」
「注射器型のロート作ってみて。」
「注射器型のロートって何?」
「実験室にない?加圧ろ過できる簡易装置。」
「注射器みたいにピストンで加圧できるロートみたいなもの。」
「ろ紙の代わりに脱脂綿を入れて加圧するとね。ろ過されたポーションが下から出てくる。」
「色は変わらないわね。ということは、コバルトブルーは、完全に溶けた成分なのね。」
「ろ過した物を一滴スライドガラスの上に落として、アルコールランプで加熱してみる。」
「水分が蒸発して、個体成分が残…らないわね。」
「このポーションの成分ってすべて気体になってしまうの?」
「エタノールでDNA抽出できないか?ポーションは薬用成分を持つ植物から作ったのならエタノールを使ったらDNAが抽出できるかもしれない。」
父さんが言ってきたが、僕には何のことだかわからない。
「玲がやってみるか?DNAの抽出。割と簡単だぞ。」
「100mlビーカーにポーションを3分の1くらい入れて出しておいて。」
「100mℓの精製水に6gの食塩を溶かす。じゃあ、200mℓのビーカーにポーション移して、25mℓの食塩水これが分離液ね。-と混ぜる。優しくね。液体洗剤をスプーン1杯程度いれて軽くかき混ぜる。液が落ち着くのをしばらく待つ。」
「ゆっくりエタノールをガラス棒に沿わせて注ぐ。そう、ゆっくりだぞ。」
父さんに言われた通りエタノールを注いでいった。
「透明なエタノールの層がエメラルドグリーンのポーション層の上にできた。」
「何も起こらないね。」
「そうだな。変化しないな…。」
「つまり、ポーションの中に薬草のDNAは含まれていない。という実験結果と考察を得た。」
植物の持つ薬効成分はDNAには由来しない。植物の種類には関係するがDNAには由来しない。
矛盾しているようだがあれからいくつかの実験をしてもDNAの抽出はされなかった。
回復ポーションというのは、医学と科学だけでは解明できない、新しい知識ということを証明する第一歩が始まった。
「ねえ、玲。回復ポーション以外に魔力を物質化した物って何かある?まあ、回復ポーションも純粋に魔力だけでできているものではない。植物の成分から精錬されているのだから原料は植物。では、どうして傷を治したり、病気を治したりできるの?そこに、多分魔力がかかわっているのだと思うのよね。だから、「回復ポーションは、魔力が物質化されている。」と予測ができる。」
「回復ポーション以外に魔力がかかわって物質化されていると思いつくものはないよ。」
「そう。じゃあ、私たちの研究対象はしばらくは回復ポーションね。その解明と性能を上げる方法を見つけることを目指しましょう。誰にでも回復ポーションを作ることができるようになれば、新しい学問体系が作られることになるかもよ。」
「じゃあ、夕食にしましょう。玲とお父さんが釣って来た鯛でご馳走を作ったわ。」
アイテムボックスの中を確認してみる。手帳に向こうから情報が書き込まれた様子はない。
僕は、今日分かったことやサーチの使い方なんかを手帳に記録し、精錬して手帳に加えた。向こうのレイが早く気が付いてくれると良いのだけど。
今日は、釣りと分析。初めてのことが二つもできた。
でも、これから、何を目指して何を探せばいいのだろう。母さんが言ったように、回復ポーションについて調べることで何かが分かるのかな…。
目的と行先の見当が皆目つかない。
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