第17話「いざ、地上へ」
そうして、BOSS部屋での用事を、全て済ませたライト。
幸いまだリポップはない。
冒険者間の噂では、ダンジョン内でリポップが行われるときは、人がいないときに限られるらしい。
本当かどうかは知らないが、リポップの瞬間を見た者はいないというのだから、案外本当なのかもしれない。
つまり、ライト達があそこにいる限り、モンスターはわかないということだが……噂は噂だ。
そんな噂を信用して命を預けるには、少々以上にリスキーだ。
ま、少しの時間なら大丈夫だろう。
多少のアンデッドが湧いたところで、今のライトに勝てる奴はここにはいないはず。
なにせ、リッチすら一撃で倒したんだからな。
「……さて、結構集まったな」
背嚢は一つだけ持っていく。
もともとライトが持っていた奴が大きかったので、それを使う。
その中に、アグニール達が使っていた小袋を再利用しながら、ドロップ品等を小分けしていく。
デカいの、細かいの、原型のないもの──そして、高そうなもの、ッと。
慣れた様子で分けつつ、それ以外にも回収した物をまとめる。
食糧と水は、街に帰る分まででいいが、少し余分に持っていく。
もちろん他の消耗品もだ。
…………うーむ、持てるか??
「よっと!!」
ズシッ……。
※ ドロップ品 ※
・リッチの核
・リッチのローブ(そのまま)
・リッチの魔導書
・リッチの短刀
・リッチの灰
・グレーターファントムの核×129
・グレーターファントムの灰×355
・グレーターファントムの骨片×43
・マナグールの核×201
・マナグールの骨×55
・マナグールの装備×12
「お、重い……けど、持てないほどではないな」
その他にも、
ライトが加工した『リッチ印の子供(?)用ローブ』、『リッチ印のライト専用ローブ』などなど。
あとは、アグニール達の残していった武器などの装備品だが、ほとんどは価値の少なそうなものばかりだったので、煙幕やポーション等の消耗品をいくつかと、高そうなナイフだけ回収しておいた。
……ちなみに、お金は銅貨一枚すらなかった。
はっ! 徹底してやがるぜ。
「さぁ、乗れよ」
山のような荷物をもったライト。
いつも以上に荷物が増えたせいで、かなりの重さだが、Lvがあがったせいか、そこまで苦には感じない。
もともと、ポーターまがいのことをしていたし、慣れたものだ。
それに、アグニール達の使っていた、魔法の道具袋のおかげもあるだろう、重量軽減の効果があるらしい。
たしか、かなり高価なもの……。
「の、る?」
「あぁ、歩くのはキツイだろ?」
キョトンとしたヤミー。
ライトの差し出した手と、顔を交互にみて首をかしげる。
「えと」
「おぶってやるぞ?」
いつまでも背負うわけにはいかないが、このダンジョンを出る間くらいはいいだろう。
子供ひとりくらい、どうってことない。
……なにより、足手まといになられても困る。
アグニール達を追うには、スピード感も大事だしね。
そも、ライトには、彼女を置き去りにする考えなどつゆほども浮かんではいなかった。
「……え、と」
ん?
困った(ようにもみえる)ヤミーの顔。
「あ──」
そ、そうだった。
山のような荷物のせいでヤミーを背負うと言ってもそんな余積はどこにもなかった。
というわけで────。
「……おも、い?」
「い、いや。そうでもないが──」
ぶっちゃけ、背嚢に比べれば羽みないなもんだ。
それ以上に、ヤミーは悲しいくらいに軽い。
これが同じ人間とは……。
孤児院の少年たちでも、ここまでは軽くないはずだ。
(そういや……)
アグニールが言っていたっけな。
重いし、かさばる──と。
「あの野郎……!」
ぎりり
なるほど、そのために徹底して軽量化とコンパクト化を追求して────今のヤミーがあるのか。
「……ん?」
「なんでもない……」
人知れず、拳を握りしめ、奥歯をかみしめるライト。
「ある、く」
「ん?──いやいや! そうじゃない、君のせいじゃないよ」
ライトは、背負うのではなく、お姫様抱っこのようにして、ヤミーを抱えていた。
これでは、戦闘に支障が出るが、
その時はヤミーを首に掻き抱くようにして、手をフリーにするのだ。
ライトの『レーザー』なら、片手さえ使えれば無敵だった。
「まかせとけって、」
そうだ。子供ガ気にすることじゃァない。
「へへ、こう見えて力はあるんだぜ」
戦士系のそれとは違い、純粋な筋力と体力。
ライトのそれは、常人よりも遥かに頑強だろう。
なんせ、そればっかやってたからな!!
……そうして、こうして、全ての準備を終えたライトは一歩を踏み出す。
地上へ。
そして、アグニールを断罪するために。
──光属性を馬鹿にしてきた、あの世界に帰るために!!
「俺は……生きてここをでるんだ」
自分を人生のドン底に突き落とし、心を闇の染めさせるほどに憎しみを抱いたその部屋を、最後に一度振り返る──。
そこには、漆黒の闇が広がるばかり。
「…………二度とごめんだよ」
ライトはもう騙されない。
もう、誰も信じない。
もう──。
軽く
トリプルA級ダンジョンを踏破し──、
地上に戻り…………、
そして、
そして、
「アグニーーーーーーーーーーーーーーーーール! 首を洗って、待ってろよ、このクソがぁぁぁあああああああ!」
そう。
アグニールに復讐の一撃をぶち込むその瞬間に立ち会うために!!
ライトは行く。
その歩みを止めることはない。
ハズレ属性と馬鹿にされてきた人生に終始をうち、もう一度やり直すのだ!
──だが、
「その前に落とし前をつけないとなッ!」
アグニーーーーール!!
最強クラスの攻撃力を手に入れたライトに、もはや敵なし。
しかも、もともとライトの魔力は高いのだ!
『レーザー』を乱射できるライトはまさに無敵!
……これを無敵と言わずに、何という!!
「さぁ! かかってこいや、雑魚どもがぁぁあ!」
荷物を抱え、
ヤミーを掻き抱き、
指先にレーザーの光にを宿したライトは、そう叫ぶと一気に駆けるッ!
BOSS部屋をでたライト。
その瞬間、無数の殺気がライトを指向する!!
BOSS部屋の外で待ち構えていたアンデッドどもが、ライトを食らわんと殺到するが──。
どけぇぇぇぇえ!!
「うーーらぁぁぁぁああああ!!」
ジャキン!!!!
指先からぁぁぁあ─────レーザーぁぁあ!!
ズキューーーーーーーーーーン♪
ズキューーーーーーーーーーン♪
ズキューーーーーーーーーーン♪
「どこからでも、かかっこいやぁぁぁあ!!」
ズキューーーーーーーーーーン♪
ズキューーーーーーーーーーン♪
ズキューーーーーーーーーーン♪
そうして、ライトはレーザーを乱射しながら、アンデッドを蹴散らし、蒸発させつつ、ときには溶かして──ダンジョンをあっさりと脱出していくのだった。
そうして、
最後の階層を抜け、ところどころにアグニール達の痕跡を見つけながら、暗い笑みを浮かべるライト。
「くくくく……。生きてる。生きてるなぁ!」
あの時あっさりと死んでくれなくてよかったぜ。
アンデッドどもにやられてなくてよかったぜ!!
だってテメェをぶっ飛ばすのは俺なんだからなぁぁぁああ!!
「一緒にぶっとばしてやろうぜ!」
ヤミーーーー!
「ん? うん」
ヤミーの素性は知らないが、彼女とてアグニールに被害者のようなものだ。
人を人と扱わないようなクズ野郎には思い知らせてやる。
だけど、まずはその前に────……。
そう、まずはその前に──。
ザァァ……。
風。
……風だ。
埃と黴と死臭にあふれたダンジョンに空気に、緑の香りが混ざってくる。
あぁ、
水と大地の匂いも……。
「あぁ……」
あぁ、
帰って来た。
帰って来たんだ────!
あのトリプルAダンジョンの最奥に置き去りにされたDランクの冒険者が生還したのだ!
この感動を胸いっぱいに味わおうじゃないか!!
あ、あはは!!
「はは、ははははは!」
「ははは?」
不思議そうな顔をしたヤミー。
へへ、わかってないな。
だったら、見せてやろうじゃないか──!
聞かせてやろうじゃないか。
嗅がせてやろうじゃないか!
感じて、味わって、触れて────。
「…………わかるか、ヤミー」
すぅぅ……。
胸いっぱいに吸い込め。
「すぅ」
そうだ。
この匂いだ。
「そして、見ろ!!」
この色、この明るさ!
「世界はなぁ……」
世界はなぁぁあ……!
世界は闇になんか閉ざされちゃいない!
世界はあんな小さなタンクの中じゃない──!
「世界は広くて明るくて、もっともっと、もっと──」
ザンッ!!
最後の一歩を駆け抜けるライト。
薄暗いダンジョンが終わりを迎え──そして、
ぶわぁぁぁぁああ! と風を受け止めるようにして、両手を広げて、ヤミーとともにすべてを感じようとする!!!
なぁ!!
「広いだろう!! ヤミー!!」
ライトを出迎える陽光。
「明るいだろう! ヤミー!!」
遺跡のようなダンジョン入り口に差し込む、眩いばかりの陽光!
「美しくだろう! ヤミー!!」
そうだ。
そうだ!!
世界はこんなにも広くて、明るくて、美しい!!
「わぁ、ぁあ」
ヤミーの静かな声。
感動? 歓喜? 戸惑い??
なんでもいいさ!!
「あぁ!!」
あぁ、帰って来た!
あぁ、戻って来た!!
あぁ、あぁ、あぁ!!
「太陽よ!! 陽光よ!! 光よ──!!」
俺は……。
「俺は帰って来たぞぉぉぉぉぉぉおおお!!」
ライトの叫びを不思議そうに見上げながらも、
「ひか、り──」
ヤミーも、眩しそうに手をかざし、太陽を眺める。
そうだ。
それが太陽だ。
それが光だ!
本物の光だ!
そして、
「……ここが世界だ!!」
ここ、こそが世界だ!!
だから、
「…………こんな世界でよぉぉぉおおおお!」
ギリリリ……。
テメェを、ノウノウと生かしておくと思うのか、
「アグニーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!」
はぁはぁはぁ。
ガックリと膝をついたライトの目の前。
──そこにある、ハッキリとした痕跡を見つけると、
「フッ……」
と、口角を上げる。
「一目散に街へ、ってか……?」
ライトの眼前には、馬車のわだちの痕が映っていた。
向かう先はあの街、か……。
──どうやら、一歩遅かったらしい。
だがそれでもいい。
どうせ奴らの向かう先は決まっているし、ライトの向かう先も同じだ。
「腐っても冒険者だもんな、アグニール」
そうとも、
クエストとして発注した以上、奴等はライトの死をギルドに報告する義務がある。
そして、ここから近いのは、あの町しかない。
──だから、のんきにあの町へ帰ろうとする!
「わざわざほかに街に行くとも思えないから、向かう先は一緒だな!」
アグニール!!
……そうとも、奴らはライトが生き残っていることすら知らない。
まさか、ライトが追ってきてるなんて夢にも思わないだろう──!
「ふふふふ……!」
あははははははははははは!
再開したときの顔が合間から楽しみでしょうがないぜ!!
どんな顔をする? アグニール!
どんな言い訳をする? サーヤ!
どんな屁理屈を並べたてる? ネトーリ!
「お前らが見捨てた冒険者と、タンク扱いした少女は今も生きてここにいるんだぞぉぉおおおおおおおああああああああああああああ!!」
地面に残った痕跡をジャリリと掴み上げると、慟哭するライト。
さぁ、行こうか。
ライトには、いくらでも時間がある……。
証拠がある。
復讐する権利がある!!
「く、くくくく! くはははははははは!」
──しかし、復讐心に捕らわれたライトはまだ気づいていない。
アグニールというのは確かに個人ではあるが、奴らの悪意というのは個人では収まらないということに──。
ライトが踏み入れようとしている、復讐の道には、とてつもない大きな陰謀がひしめいていることをまだ知らない……。
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