第11話「怒りのライト」
ガランガラ~ン!
遠くに転がっていく携帯魔力タンク。
その携帯魔力タンクを手放した今、
最後の最後の起死回生の一手としてありったけの魔力の注いでぶっ放したライトの魔力はほとんど空になっていた。
「は、ははは……」
失血と足の激痛で身動きの取れないライトに、アンデッドどもが群がりがゲラゲラと笑う。
魔力が好物のアンデッドだが、人肉が嫌いというわけでもないらしい。
出涸らしのようになったライトでも、早晩骨までしゃぶりつくされるだろう。
「畜生……。畜生ぉぉぉおおお……!」
し、死んでたまるか……。
こんなところで、こんなところで……!
「あんな奴らのために、死んでたまるか──!」
ライトの絶望交じりの叫びに、
『『『ケラケラケラケラ』』』
『『『キャハハハハハ』』』
笑うな……。
アンデッドどもの声が囃し立てる。
その癇に障る声が、アグニール達のそれと重なり何度も何度も脳内に反響する。
バーカバーカ!
こいつちょろいからさー
キャハハハハハハハハハ!
『『キャハハハハハハハハハハハハ!!』』
ブチ……!
笑うな……。
ふ、
「ふざけんなよ……ふざけんなよ……。俺は死なねえ……!」
まだだ。
まだ終わりじゃない……。
まだ、魔力が……。
魔力さえ回復すれば──……。
「ぐぅぅ、ぅぉぉぉおおおおお……!」
血だらけになりながらも、這って進み、壊れた携帯魔力タンクに触れるライト。
はぁ、はぁ、はぁ……。
「頼む……頼むから、壊れるなよ。壊れず、残っててくれよ」
さっきのリッチの魔法でひどく破損したようにみえる携帯魔力タンク。
仕組みはわからないが、これほど亀裂が入っていても大丈夫だろうか?
だけど──
がしッ……!
と、届いた──!
これで、まだ戦え──「…………ひぃッ!」……縋りついたタンクを見て思わず、しりもちをつくライト。
そして、見てしまった……。
「なん、っだ──これ……」
携帯魔力タンクの、中身、を………………。
……だらん。
表面が破壊されたタンクから零れ落ちたもの。
それは……。
それは────。
「に、人……間……?」
それに気づいた瞬間──ぶわりっ! と、肌が泡立つライト。
無造作に転がる携帯魔力タンクの中から……あぁ、中から。
そう。
その小さな樽のようなものから転がり出たのは紛れもなく────……人間の腕。
病的なまでに色素の白くなった少女の、
その腕であった。
「あ、あ、あ、」
『そうだね。しいて言うなら欠点は、
重いこと、でかいこと。
そして
アグニールのあの言葉……。
「あああ、ああ、あああ……あ、」
あっぁぁあ、
ぁぁあぁっぁぁぁ、
『重いし、
あははは
あははは
あははは──────
かさばる……。
「かさばる……??」
かさばるって、あ……あ……
あ、アグニール。
アグニーーール……。
ああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「ぁぁぁぁあああああアグニーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!」
この瞬間、すべて理解したライト。
う、
「……う、うげぇぇぇぇえええ──」
ベチャベチャベチャ……。
うぉぇぇえええ。
アグニールのセリフが脳内で何度も何度もリフレインし、すさまじい吐き気に襲われるライト。
アンデッドに囲まれるこの危機的状況をはるかに上回る気持ちの悪さ──。
「あ、あ、あの野郎…………」
何が世紀の発明だ。
何が魔力タンクだ……。
何が……何が────。
「何がぁぁぁああ…………! こんなの、」
これは、
これは────。
これはぁぁぁあああ────────!!
「人間じゃねーーーーーーーーーーかよぉぉおおお!!」
──メリメリメリッ!
最後の力を振り絞って、タンクの表面の、切れ目に力を込めてこじ開けると、そこには果たして──……。
「こひゅー……こひゅー……」
鼻を衝く、生臭いにおいとともに、
──タンクから、コロリと転がり出た小さな『
「……ぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
生きてる!
生きてる!
生きてる!
白い髪、白い肌──……小さな白い唇から漏れる吐息に、うつろに開かれた白い瞳。
こじ開けた樽の中から、浅い呼吸を繰り返す、小さな女の子が確かに────……。
「い、生きてる……。生きてる──」
生きてるけど──……。
「──ぐがぁぁぁぁああああああああああ!!」
思わず抱きかかえた少女の体の軽いこと──。
そりゃぁ、そうだ。
だから……
だからこそ、
だからって──……
「──────────だからぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッッッッ!」
だからってさぁぁぁあああああああああ
「ぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああああアグニーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!」
尋常ではない嫌悪感に、胸の中のそれを吐き出すライト。
ライトだって散々馬鹿にされてきた。
歩く松明だとか、魔力タンク要員呼ばわりされたこともあるけどさぁぁぁあ!
それでも、
それでも、それでも、それでも──
アグニーーーーーーーーーーーール!!
「だ、だめだ……」
アイツだけは、だめだ。
アイツだけは許すわけにはいかねぇぇ……!
ライトを囮にして、
少女をタンクにして、
そ
死霊王の杖を持ち帰ったアグニールは戦力と名声を手にして、かつてライトが愛した可愛い可愛い幼馴染のサーヤとの間に、可愛い可愛い可愛い子供をおぉぉぉぉぁぁぁぁああああ────「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
許さん……!!
絶対に許さんし、
許さねぇぇぇぇええ!!
「──絶対に許さねぇぇぇぇええええええぞ、アグニーーーーーーーーーーール!」
光属性で悪かったな……!
孤児で悪かったな──!!
だまされた馬鹿で悪かったな……!
「重くて、」
かさばって、
「生きていて悪かったなぁぁぁぁああああああああはあああああああああああ!」
だが!!!
「だが、生きているぞ。……俺も、この子も!!」
だからぁぁぁぁああ、
「………………………………出る」
何をしても、
何を捨てても、
絶対に出てやる……! 絶対に────!! 絶対にぃぃぃぃぃいいい!!
「絶対に、生きて出てやる! 出てやる────! 出てやるぞ、アグニーーーーーーーーーーーーーール!」
ライト一人の命だけだったら、とっくに諦めていたかもしれない。
少なくとも、脱出の意志なんて霧散していただろう。せいぜい、生き汚く魔力つくりまで粘って、みじめに死んでいただろう……。
だけど!!
「だけど、
少女、
そして、ネトーリ神父。孤児院との関係……。
嫌な予想がまるでパズルのピースのように嵌まっていく。
ああああああ……!
奴はだめだ!
奴はだめだ! このまま奴がのさばれば、この子だけの犠牲で済むはずがない!!
そして、
「……
待ってろよ、アグニーーーーーーーーーーーーーール!!
魂から叫ぶライト!
その叫びにこたえるようにゲラゲラと笑うアンデッドが群がるも、ライトの心はもはや決まっていた。
絶望など生ぬるい。
死など、くそくらえ!
あるのは怒り。
ただ、ただ、怒り。
胸を焦がさんばかりの怒りと怒りと怒りだけ!!……だけ!!!
──だけが!!!!!
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
だから!!!
力を貸してくれ……!
君の、君の魔力を俺に貸してくれ────!
身じろぎ一つしない少女を掻き抱き、ライトは少女から魔力を譲渡してもらい、尽き欠けた魔力を回復させていく。
そして、ぐんぐん回復していく魔力に驚きを感じながらも、自信が持てる最大の魔力を注ぎ込みアンデッドを封殺していかんとする!!
魔法は注ぎ込んだ魔力の総量に比例する!
ならば。
アンデッドが忌避するホーリーライトに最大かつ過剰な魔力を注ぎ込み放てばどうなるか!
……きっと、いくらダメージが0でも、無事ではいられないだろうぉぉぉぉおおおおおおお────!
だからぁぁぁああああ!
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
バチバチバチッ!
膨大な量の魔力譲渡に紫電が走る。
白い少女から魔力がライトに流れ込んでいくが、あまりにも膨大なそれに、ライトが染まっていく。
ワインと水を混ぜたように、
あるいは、少女との魔力譲渡の影響か、白さが少女に奪われたかのように、ライトの髪と瞳のの色素がメリメリと濃く、黒くなり────。
黒く黒く、染まっていく!
そして魔力の完全回復を超えて、過剰に摂取したライトが、クワッ!! と目を見開くと、
ついに最大かつ過剰なまでの魔力を乗せたアンデッドに唯一対抗できるそれを放つ!!
Lv10熟練度MAXの威力にのせてぇぇぇええ!
「おおおおおおおおおおおおホぉぉぉお──リィィライトーーーーーー!!」
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