幸せを掴んだ僕らは
伊富魚
第1話
朝起きて、あくびと一緒に軽く伸びをしたら、くすんだベージュ色のカーテンを開ける。
奥にあるガラス窓を開けると、十二月の冷たい風が肌に当たり、寝起きのぼんやりとした頭を持ち上げさせた。
ある哲学者が言っていた。人間の幸福というのは、本人の内的な要因によって決まると。
それって、今の僕がどんな状況にあったとしても、心の中でそれを楽しんだり満足してさえいれば、誰でも、どんな人でも、幸せになれるってことだろうか。
ちょっと待ってくれよ。もしそうだとしたら、今僕が何をしていたとしても、
将来”偉大な”何者かになったとしても、幸せには直接は関係ないってことになるじゃないか。
みんな幸せになるために、何かを頑張ってたんじゃなかったの。
何かを得るために必死に戦ってきたんじゃなかったの。
何かを守るためにじっと踏ん張っていたんじゃないの。
なら僕は、一体何をして生きたらいいの。
「普通に楽しいことなんかいっぱいあるじゃない」
大学で同じ学科の真希は興味なさげにそう言った。
「インスタもTiktokもぼーっと観てても面白いじゃん。カフェ巡ったり、友達と買い物したりさ。まあ私の場合だけど」
幸せになりたい。けど、その為に必要なものなんて実はもうないみたい。
インスタもTikTokも、YoutubeもVRも、吐いては捨てられる時代の産物も。
一人で中古の本を読んだり、安く買った野菜を蒸して食べて美味しかったり、たまに観るアニメに感動したり。
こんなことを幸せって呼んじゃダメですか。ナマケモノって言われるのかなあ。
みんなが当たり前にやってることがひどく遠いことのように感じて、ほんの少しだけ、寂しい。
幸せを目の前に見つけてしまったら、その先はもう何もなくなってしまうのかな。
僕にはまだ、みんながぼんやり見てるものが見えていないみたいだ。
あ、そろそろ朝のコーヒーを淹れにいこう。こだわりは特にない。
幸せを掴んだ僕らは 伊富魚 @itohajime
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