スタート

「据え置きゲーム、何それ?」

「ゲームはスマホでしかやんない」

「テレビの前に座ってゲームすんの?ありえないっしょ!」


今までに何度これらの言葉を聞いただろうか。

三上軍平みかみぐんぺいは悔しさのあまり歯ぎしりを抑えきれなかった。

彼の人生における歯ぎしりの回数は他のホモサピエンスと比較しても多過ぎた。

マウスピースを装着しなければならないと思い詰めるほど歯が消耗してしまっている。


かつて日本は世界一のゲーム大国と呼ばれていた。

だが今やその栄光はすっかり影を潜めている。


ビデオゲームをめぐる世界的な動向は依然据え置きゲーム機全盛ではあったが日本はその流れとは大きくかけ離れていた。


原因はわかりきっていた。そう、スマホゲーである。

特に基本無料のスマホゲーがまるで新型ウイルスのように猛威を振るっていた。

人間は無料のものに弱い。結局は高くつくことになり、失う物も多いのだがそれがわからない。


ゲームメーカーはまず無料という餌でユーザーを釣り、一旦ハマると課金しなければ楽しめない状況に追い込む。


その先に待つものは?そう、がっつりと搾取される哀れなゲーマーの末路だ。

そういった事を織り込み済みなスマホゲーのビジネスモデルに軍平はほとほと嫌気がさしていた。


好きなものにはきちんと対価を支払うべきだというのが軍平の考えであったが、ゲームをただの暇つぶしとしか捉えていない一般ピープルは目先の利益にしか気持ちがいかなかった。


ただより高い物はないという立派な格言があるというのにもかかわらずだ。


今現在世界には三つの据え置きゲーム機が現役稼働している。

ニンテンドースイッチ、プレイステーション5、ⅩBOXシリーズX。

その内なんと日本のゲーム機が2台を占めている。これは凄いことだ。

快挙、いや偉業といってもいい。


だが誰もその事に対し声を挙げて賞賛しない。

メディアは勿論ゲーマーたちですら。


何故だ?軍平のやり場のない怒りは頂点に達しようとしていた。

もはや自分が立ち上がるしかあるまい。そういう気持ちになるのは自然なことだっただろう。


”軍平、大地に立つ”

機動戦士ガンダムTV版のタイトルテーマが軍平の脳内で鳴り響く。

そう、もはや彼自身がやるしかないのだ。


軍平は据え置きゲームの復興を目指す為、特化した組織を結成する事を決めた。

組織名はカッコいいものにしよう。そう思って熟考した、、、がすぐに音を上げた。

元々考える事が得意ではないのだ。

組織名は結局とっさに思いついた”据え置きゲーム推進委員会”にすることにした。


「さ~て、何からやるべきか、、、」

軍平がまず最初に行った活動はゲーム好きに対するプロモーションだ。

当然インターネットを活用する事になる。


まずはブログやツイッターで啓蒙活動を開始した。

だが彼が一番力を入れているのが動画配信だ。


今はネットを介した動画配信が非常に盛んであり、誰でも気軽に動画を撮影し投稿する事が出来る。

だが逆に言えば投稿者の数がもりもりと膨らんでおり、動画業界はいわゆる飽和状態にあるともいえる。とにかく競争が激しいのだ。


苦心して作成した動画を誰にも見られずそのまま創作意欲を無くしフェードアウトしていく投稿者たち。


成功する為にはそういった多くの屍を乗り越える覚悟が必要だ。軍平にその覚悟は、、、、ない。というか考えもしなかった。


ある程度名の売れた有名人でも手を抜いた動画をアップすれば途端に再生回数は伸びなくなる。

軍平もご多分にもれず苦戦していた。再生回数、チャンネル登録者数ともに中々伸びない。


わかってはいた事だったが、、、元々軍平は喋る事が得意ではない。なんとか背伸びをしてトークしているだけなのだ。


だが彼には他の動画投稿者と明らかに違う面があった。

多くの動画投稿者は金、つまり再生回数による利益追求を目的としている。自身の承認欲求を満たすという面もあるだろう。


だが軍平は違う。彼を突き動かしている原動力は大いなる使命感だった。据え置きゲーム及びゲーム機の人気をかつてのように取り戻す。

その強い決意は時空を超え遂に神にまで届いた、、、わけもないが。


実際ここは世知辛い現実世界である。自分が思った通りに事が運ぶわけはない。

だが強い意志の力があれば新たなる者を引き寄せる事は可能だ。それは真実であった。今はまだその時期ではなかっただけである。


軍平はコツコツとまるでスペランカーが怪しげな洞窟をおっかなびっくり調査探検するが如く、地道にプロモーション活動を続けた。


基本今のゲーム業界に対しての問題提起が動画のメインだがそれだけでは当然視聴者は食いついてこない。


実況プレイ動画を配信する事も考えたが、人気のジャンルだけに競争相手も多く、既に飽和状態ともいえる。


それに軍平はゲームが下手であった。そう、いわゆるヌルゲーマーだったのだ。これは致命的であった。致命の一撃ともいえる。


軍平は心中に浮かんだ思いをつい口にした。いや、してしまった。

「動画ってば作んのにメッチャ手間がかかるんだよなぁ、、、、」

とある有名俳優が言っていた言葉が心に浮かぶ。


「役者としてやっていくにはかなりの覚悟がなければいけないんです。アルバイトしながらだとその覚悟が養えない。だから僕はバイトをやめました」

バイトしていれば役者の仕事がなくてもとりあえずは食っていける。そんな状況がかえって夢の実現を妨げるのだろう。


敢えて自分を追い込む手法でもあるのだろう。

軍平には頷けるものがあった。

俺も据え置きゲーム推進委員会に注力しなければいけないのかもしれん。


それぐらいの覚悟がなければこのスマホゲーが席巻するこの世界で再び据え置きゲームの覇権を取り戻す事など叶わないのではないだろうか。


軍平はケツイ、いや決意を新たに気を引き締めた。

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