第4話 まさかの俺が犯人扱い

 脇道に入って距離を詰める。


 小さい頃からここに住んでいる俺だ、地の利なら俺にあるはず。

 犯人も地元の奴なら、どっこいになるけど。

 でも俺、自慢じゃないけど足もまぁまぁ速かったりするんだな。


 ぐんぐんと、犯人との距離を詰めた俺は、手を伸ばしてそいつの腕を掴み。


「捕まえ…ぎゃっ!イテテ…」


 気づけばそいつにねじ伏せられ、上からのしかかられていた。


 ちょうどその時。


 パチパチバチ。

 という乾いた音とともに、いきなり人が現れた気がした。

 続いて、男にしては少し高めの、でも聞きやすくてよく通る声が響く。


「やぁやぁ少年。お手柄だね」


 この人はいつからここにいたんだ?

 犯人を捕まえることに気を取られていて気づかなかったのか…?

 って今俺、犯人扱いで逆に取り押さえられてるけどっ!


「ちがっ、俺じゃ」

「ひったくりの犯人は、黒いパーカーを着た若い男…おや?まんまの人がここにいるねぇ」

「それはこいつだって同じ…へっ?!」


 なんとか顔を上げて、俺を押さえつけているヤツを見てみると。

 いつの間にかそいつの着ているパーカーの色は、紫色になっている。


「なっ…」


 絶句した俺の前に、綺麗に磨き上げられた男物の革靴が立ち止まった。

 おそらく、さっき拍手をしていた男だろう。


 もしかしてこの人、刑事か何かかっ?!

 やばいっ、このままじゃ俺、誤解されたまま捕まっちまうっ!


 慌てる俺に構わず、犯人が俺を革靴の男に引き渡そうと俺を力任せに引き上げる。

 と。

 直ぐ側に、三つ揃いのスーツをビシッと着こなした、若めの男が立っていた。

 それほど背は高くはないが、スーツ越しでもわかる引き締まった体のラインに、よく時代劇で見るような呉服問屋の若旦那のような、和風イケメン。


 背中で両腕を捻りあげられ、


「ぐぅっ…」


 なんていう情けない声しか出せない俺を、犯人は和風イケメンの方に向かって押し出す。


 違うっ、俺じゃないっ!


 そう抗議しようとした俺だったが。

 和風イケメンの目は俺を素通りして犯人に向けられ、笑顔を形作るように細められた。


 …その目は決して笑っているようには見えなかったけれど。


「キミ、今すぐ彼を離したまえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る