第4話 童貞を殺すギャル

 休日はだいたい、家でゴロゴロしている。


 全く友達がいない訳じゃないから、たまに遊びに出掛けるけど。


 ここしばらくは、何だかんだ、ごぶさただった。


 だから、今こうして、久しぶりに休日の街中に出て。


 少し人酔いしそうだ。


 うぅ、冴えない陰キャ寄りのくせして、おまけに虚弱とか。


 全く、こんな俺と付き合ってくれる女子なんて、この世に存在するのだろうか……


「ショータ」


 淀んでいた空気が、一瞬にして清涼されるようだった。


 現れたのは、別に清楚系でもない。


 何なら、その真逆。


 ギャル子さんがいた。


 決して、ケバケバしくない、白ギャルだけど。


「あ、舞浜さん……」


「よっ」


 ていうか、改めて見ると……ぎゃるーん。


 じゃなくて。


 めっちゃ、オシャレだなぁ。


 それに比べて、俺ってば……


 そこまで、ダサくないと思うけど。


 平凡すぎやしないか……


「何でボケッとしてんの?」


 言われて、俺は少し焦る。


「あ、いや、その……」


 俺はまた、モジモジとしてしまう。


 けど、舞浜さんはイラだった様子を見せることなく、黙ってジッと俺を見つめている。


 何だか、異様なプレッシャーが……


「……か、可愛いなって」


 やばい、ちょっと、キモい感じになってないか?


 これがイケメンなら、もっとサッと言えるだろうに……


「……ありがと」


 舞浜さんは、礼を言いつつ、軽くそっぽを向く。


 こ、これは、どっちだ?


 一応、ありがとうって言ってくれたから、そこまで嫌な感じではなかったのか?


 でも、そっぽを向かれちゃったし……


「ていうか、ショータこそさ……」


「うっ……ご、ごめん。俺、舞浜さんほど、オシャレじゃなくて」


「そんなことないよ。そのパーカー、可愛いね」


「えっ? そ、そうかな? ちょっと、パーカーはチャラいかなって、心配だったけど……」


 言った直後、なぜか舞浜さんの頬が、プクッとふくれる。


「……ぶはッ!」


「へっ?」


「あ、あんた、のっけから、笑わせないでよ……」


 舞浜さんは腹を抱えて笑う。


「そ、そんなつもりは……」


 と、さすがに少し抗議しようと思ったけど。


 その際、舞浜さんが、前かがみになっていたせいで。


 推定Fカップの巨乳の谷間が……ちらーん、と。


「んっ、どした?」


 指先で涙目をこすりながら、舞浜さんは言う。


「あ、いや……何でもないよ」


 俺は自分の鼻の下が伸びていないのか、慌てて確認する。


 たぶん、ギリセーフ……だと思いたい。


「じゃあ、時間がもったいないし、行こうか」


「う、うん」


 こうして、アンバランスなカップル(お試し期間中)が並んで歩き出す。


 それにしても……横からのアングルも、見事だな。


 ぷるん、ぷるんって。


 歩くたびに、F乳が揺れている。


 本当にでっか……けど。


 この魅力的な胸はもう、他の男に揉まれまくりなんだよなぁ……


 ていうか、他の男にいっぱい揉まれたから、ここまで育って……


「ねえ、ちょっとおやつ食べない?」


「お、おやつ?」


「うん。まあ、食べるっていうか、舐めるだけど」


 そう言いつつ、舞浜さんは指を差す。


 その先には、一見の可愛らしい店があった。


 若者がずらりと並ぶ、人気のお店みたいだけど……


「……ここは?」


「ここのイチゴ飴が美味しいの」


「へ、へぇ~。さすが、ギャルは流行に敏感だね」


「流行っていうか、もう定番だけど」


「そ、そうですか」


 ダメだ、俺みたいなアホたれは、もう余計なことは言わずに頷いておこう。


 けっこう並んでいたけど、回転率が良いのか、あっという間に俺たちの順番が来た。


「イチゴ飴2つ下さい」


 舞浜さんが慣れた様子で注文してくれる。


 笑顔のお姉さんが、すぐに2つ渡してくれた。


 それは、長くて棒状である。


「あ、お金……」


「良いよ、ここはあたしのおごり」


「えっ、でも、この前もハンバーガーおごってもらったし……」


「それも、これも、また貯金だよ」


「あっ」


「楽しみだなぁ、後でどんなお返しをしてくれるのか」


 な、何てプレッシャーだ。


 ていうか、俺って何だか、上手いこと騙されちゃっている。


 だとしたら、今すぐにこの関係性を断ち切らねばならぬ……


「ほれ」


 にゅぽっ、と差し込まれる。


 ファーストコンタクトの時みたく。


 一気に、甘いフレーバーに脳内を支配された。


 俺はしばし、呆然としたまま、飴を舐める。


「じゃあ、あたしも」


 舞浜さんは、髪を耳にかけて、イチゴ飴を舐め始める。


「んっ……ふっ……はっ」


 き、気のせいだろうか?


 何だか、ちょっと舐め方が、エロいような……


「……ショータの、すっご」


「ちょ、ちょっとストップ!」


 さすがに、焦って止めた。


「んっ?」


「いや、あの……どうしたの?」


「これ、やっぱり、美味しいよ」


「あ、うん、確かに……」


「ほら、早く舐めないと。人混みの熱気で溶けちゃうよ?」


 と、笑顔の舞浜さんに言われて、俺は半ば府に落ちないまま、再び飴を舐め始める。


 舞浜さんも、同じく……


「……ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ」


 ……やっぱり、クソエロくね?


 しかも、俺の方を見つめながら……


「……早く、本物が欲しい」


「おい」


 思わず、ギャルに『おい』と言ってしまう。


 でも、今回ばかりは仕方がない。


 いくら、人種的に俺の方がザコくても。


 さすがに、今回は言わねばならぬ。


「ま、舞浜さん。こんな往来で、そんな下品なことを……」


「ああ、ごめん。今までずっと、女日照りだった童貞くんに、サービスしたくなっちゃって」


 とか上手いこと言われるけど、ただ遊ばれているだけのような気が……


「で、興奮した?」


「こ、興奮は……しました」


「ぶはっ」


「け、けど……やっぱり、恥ずかしいから、人前ではやめて」


「じゃあ、人前じゃなければ良いの?」


 舞浜さんが、挑発的な目を俺に向けて来る。


 長い棒を持ったまま。


「……君のことを、童貞を殺すギャルと呼びたい」


「ぶっは! ショ、ショータ! し、死ぬ! 面白すぎて、死ぬぅ~!」


「だから、声の出し方が嫌らしいんだよ!」


 デート序盤から、この調子とか。


 やっぱり、俺にギャルは無理だったか?


 でも……


 むにゅっ、と。


 強調される谷間に、ついつい目が行ってしまう。


 ま、まあ、もう少しだけ、様子を見てみよう。


 元気な舞浜さんだって、いつまでもこのテンションじゃあるまいし……




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