第2話 あくまでお試し

 イケてるギャルとシケてるゾンビがバーガー屋にやって来た。


「いらっしゃいませ~♪」


 とびきりスマイルの店員に迎えられる。


 接客が良いことは素晴らしいけど、今の俺にはちょっと辛い……


「じゃあ、あたしはベジバーガーのセットで」


「はい♪」


加瀬かせは?」


 舞浜まいはまさんが振り向く。


「あ、えっと……」


 やば、しどろもどろになってしまう。


 さっさとしろよって、キレられるかも。


 ギャルっておっかないし……


「……焦らなくても良いよ」


「へっ?」


 意外なその一言に、思わずキョトンとしてしまう。


「じゃあ、じゃあ……このチーズバーガーのセットで」


「ありがとうございまーす♪」


 品物を受け取ると、店内の空いている席を探す。


「あそこにしよ」


「う、うん」


 またしても、舞浜さんにリードされてしまう。


 きっと、こういう所なんだよなぁ、モテないのは……トホホ。


「ふぅ~……暑いな」


 席に座るなり、舞浜さんはパタパタと、ブラウスの胸元をひらつかせる。


 そのせいで、ちょっと胸のライン……谷間が。


 今さらだけど、舞浜さん……良いモノ持っているなぁ。


「で、加瀬。どしたん?」


 また唐突に聞かれる。


「あ、えっと……」


 何から話して良いのか、分からない。


 ていうか、俺みたいな冴えないやつが、こんなイケているギャル子と話すなんて。


 全く、想定も想像もしていなかった。


「フラれた?」


「うっ……」


「図星か」


 ちゅー、とジュースを飲む舞浜さん。


 ずーん、とへこむ俺。


「まあ、辛いよな」


「うん……しかも、ちょっと……」


「どしたん?」


「いや、その……好きだった子が……友人と付き合うことになっちゃったんだ」


「マジで? ちなみに、誰と誰の話?」


「……隼士しゅんじ……大貫おおぬきと……佐伯さえきさん」


「あぁ~、あのチャラ男が清楚ちゃんを食べちゃったと」


「ま、まだ食べるとこまでは……行っていないと思いたい」


「願望かよ、ウケる」


「う、うるさいなぁ……どうせ、舞浜さんには分からないよ」


「んっ?」


「だって、こんなに可愛いギャルだから、恋愛も余裕でしょ?」


 つい、カッとなって、ケンカを売るような形になった。


 すぐ、サッと青ざめて後悔するけど、もう遅い……


「……あんたさぁ」


「ご、ごめんなさい。俺ごときダサ男が、調子に乗って……」


「……あまり照れること言うなし」


「へっ?」


 ふと、目の前の彼女を見ると、少しばかり頬が赤く染まっていた。


「ご、ごめん……」


「いや、別に謝ることじゃないから」


 舞浜さんは、またジュースを口にする。


 その姿を、ポカンとしながら俺は見ていた。


「……まあ、これも何かの縁だな」


 ジュースを置くと、舞浜さんは言う。


「縁……っすか?」


「あんた、男として自信が欲しい?」


「えっ? そ、それは、まあ……」


 ――お前が弱いのが悪いんだよ。


 ギリリ、と歯噛みをしそうになる。


「……欲しい、強くなりたい」


「そっか」


 舞浜さんは頷く。


「じゃあ、あたしと付き合うか?」


「……はい?」


「とりあえず、お試しでも良いよ」


「ちょっ、まっ……マジですか?」


「まあ、嫌なら無理にとは言わないけど。あんた、佐伯ちゃんみたいな清楚な子が好きなんでしょ? だったら、あたしみたいなギャルはタイプじゃないよね?」


「いや、その……」


 俺はモジモジとしつつ、


「さっきも言ったけど、舞浜さんは……か、可愛いから……付き合えたら、それは光栄だけど……」


「……ふーん」


 舞浜さんはそっぽを向きつつ、髪をクルクルといじる。


「あくまでもお試しだから、気楽に行こうか」


「う、うん……」


 何だか、なし崩し的にそういった流れになっている。


 ていうか、思ったよりも気さくで良い人だけど。


 絶対、遊びまくりだろうし。


 お試しって、むしろ俺の方が試されているだろ、これ?


『たまには、イケメンのヤリ◯ンじゃなくて、冴えない童貞でも食ってみるか~』


 みたいな。


 当然、男として、そんな屈辱的な誘いは避けるべきだ。


 けど、そんなギャル子に……メチャクチャにされても良いと思ってしまう、自分がいるのもまた事実だ。


 変態かよ、俺……


「ちなみにだけど、加瀬って童貞だよね?」


「ぶふっ……そ、そうです」


「オッケ」


 何のオッケだよ。


 やっぱり、気まぐれの童貞漁りじゃねえか!?


「……そ、そう言う舞浜さんは……経験済み……だよね?」


「ん? 言ったじゃん、処女じゃあるまいしって」


「で、ですよね~」


 うん、知っています。


 ていうか、こんなギャルが処女な訳ないし。


 はぁ~、これもう、絶対に遊びだわ。


 味見をして、飽きたらポイされるわ。


 屈辱的ぃ~……


 でも、むしろそうしてもらった方が、色々とあきらめがつくかもしれない。


 スッキリして、前に進めるかもしれない。


 あまりにも屈辱的で、辛いNTR(寝取られ)、いや、BSS(僕が先に好きだったのに)を味わった俺としては……




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