午後4時の幻覚

レイジ

第1話 午後4時の幻覚

男は幻覚をみる。それは昼間でも真夜中でもない。午後4時ちょうどにきまっている。内容は、はっきりしないものの、思い出のような、何かの記憶めいたものだ。



白昼夢に近いのかもしれない。もやがかかったようにぼんやりしている。男は困惑していた。原因がわからなかったので怖かった。幻覚をみている時は意識を失っているようだったし、仕事にもさしつかえた。



ある幻覚ではバーベキューをしていて、暑くてぶっ倒れた内容だったり、あるときには、キャンプをしていた時にねぼけて、みんなに迷惑をかけたり、海水浴でみんなが引く位、ひたすら楽しんだという幻覚もあった。



とうとう職場で注意を受けた。幻覚によって意識を失うのも毎度毎度だとおこられるらしい。最近幻覚をみる頻度も増えた。というわけで病院を受診した。統合失調症や、てんかんなど、わるい病気をうたがったが


「わるいものではないですし、仕事に根をつめすぎでは」


とのことだった。拍子抜けした。さて病気ではないとすると、どういうことなのだろう。最近は午後4時が怖い。今は幻覚が見えるだけかも知れないが、知らずに人に危害を与えてしまったら?まさか殺人なんて。でもありえないことじゃない。なぜなら意識を失っているのだから。いやな考えを吐き出すように男は、あえていつもの行動をとろうと、日課のプールでの水泳を楽しもうとした。



そんな考えに一杯になっている時だった。横断歩道をフラフラと渡っていた。気づいた時には、ヘッドライトとブレーキ音。男の意識はそこで途切れた。初めて午後4時以外に意識を手放した瞬間だった。



「博士、どうでしたか?」



「うむ、やはり大脳辺縁系に問題があったようだ。記憶の障害が大分前からあったな」



「何が問題だったのでしょう?」



「耐水性のパッキンが劣化して、脳分野にプールの水がはいったんだよ」



「博士、やはり完全な脳のAI化は難しいのでしょうか?」



「そんなことはない。脳への耐水負荷試験と思えば良いデータがとれた。」



「水が脳分野に入ると、大脳辺縁系に影響を与え、被験者に幻覚をみせるということですね」



「そうだな。これを踏まえて、研究の完成は目前だ。現にこの患者は実生活で就職までしていた。ただそうだな、この個体は少し不良品だったというだけだよ。」



そう言って博士は近未来的な建物の中で、人工脳の入っている箱をそっと閉じた。

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午後4時の幻覚 レイジ @reiji520316

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