わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~
藤村灯
第1話 グーで殴っただけなのに追放ですか?
「第666代聖女ソーニャ! お前は追放だ!」
「えっ、そんないきなり」
派手に鼻血を
「やっぱりグーはマズかったかも……」
§
アスタリア王国西方都市トラーシャ。
誇るべき聖女認定式の場で追放宣告を受けてしまったソーニャだったが、彼女にも言い分はある。
西方地区を取り仕切るベゼル司祭は、聖女の証しであるロザリオを授ける際、当たり前のようにソーニャの胸を
自分の胸の大きさが、男性の視線だけでなく手指をも誘うものであることを、ソーニャは嫌というほど理解している。
そこまでは
だが、第667代聖女に認定されたシリルが、司祭にお尻をまさぐられ
「なんかさ、自分がされるより、他人がやられてる場面を見せれらるほうが、ずっと頭にこない?」
『ひゃははははッ! 知らねーよ。ソーニャがお人好しってだけで、普通は逆なんじゃないか?』
純白の衣服に白い翼。
ソーニャの頭上に浮かんでいる、
フテネルの姿は祝福され、奇跡を起こせる者にしか見ることができない。
胸を
『そんなお前だからあたしは近くにいるんだけどね』
「うん?」
地上で繰り広げられた聖魔大戦終結から100年。
女神フェルシアの教団は、アスタリアの国教と認められ勢力を広げた反面、組織として硬直化し
落ちこぼれ天界での役職を与えられず、地上の観察任務に
女神フェルシアの
結果、ソーニャは王都の大聖堂に仕える出世コースから外れ、聖女の
故郷の村から王都に来た時も、見るもの全てが新鮮で刺激的な毎日だった。
辺境にはまだ見たことも無い景色が広がっているに違いない。
ソーニャの胸は膨らむ好奇心でいっぱいで、
「王都で
『ちょ、お前何やって――』
ソーニャは複雑に
「毎朝
『前髪面白いことになってんぞ? せめて後で
ぷククと笑いをこらえながらフテネル。
トラーシャの修道院に
育ち過ぎた胸をのぞけば、その頃の少年めいた姿に戻ったようだ。
「ソーニャ、貴女その髪」
式典後の
「シリル。だいじょうぶだった?」
「な……?」
掛けるつもりの台詞を先んじて掛けられ、再び言葉を無くすシリルだったが、すぐに司祭から受けたセクハラを思い出し、首筋まで真っ赤になった。
「わ、私は! あんな事ぐらいで動じたりはしません! 全くもって余計なお世話です!!」
「そうだねぇ。ごめんね」
シリルの
修道院で過ごした6年間、繰り返してきたお決まりのルーチンだ。
「いつもシリルの言ってたとおり、田舎者のわたしに大聖堂でのお
「貴女はッ――」
さらに怒りを募らせて何かを言い掛けたシリルだったが、うつむき大きく一つ息を吐いて気を落ち着かせると、ソーニャの瞳を真っ直ぐ見つめ宣言した。
「私も一緒に行きます。今のままでは、貴女に勝ち逃げされるようなものですから!」
貴族の
教会の
(そもそも奇跡の力以外で聖女を決めるってことのほうが茶番だけどな)
にやにやと人の悪い笑みを浮かべたフテネルが見下ろすなか、ソーニャは困った表情で首を
「でも、辺境は危険だよ?」
「
「ベッドに虫が出るよ?」
「む、虫ッ!?」
「草むらにはカエルとかヘビとかいるし」
「ヘッ……!?」
足が無いのも多いのも。シリルはとにかく虫のたぐいが大の苦手だ。
ソーニャの言葉から想像しただけで、青ざめ
「でっ、でも! それでも! それでは貴女だけが!」
「シリルは大聖堂でお
「そ、それは――」
泣き出しそうな表情で言葉を探すシリルだったが、ソーニャの言葉に
「しかるべき発言力を持つまで時を待ち、教団の
「うん?」
ソーニャはそこまで考えてはいない。
虫に
『ま、
「貴女はけしかける
へらへらと笑うフテネルに、シリルは
それでも、ソーニャが本当の意味で危険な目には合わないのは事実だろう。
なんせ、
「それじゃあシリルも元気でね。落ち着いたらお手紙書くね」
聖女であるにもかかわらず、
わずかな荷物を手に去り行くソーニャを、シリルは泣き出すのを必死にこらえた表情のまま、見えなくなるまでずっと見送った。
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