第2章 第8話 敦也との戦い そして…

『排除します』『排除します』


「くっ…」


先程とは違い研究施設の通路には、ロボットの姿をした防衛プログラムが、大量に配備されていた。それぞれが剣やビームライフル、盾を装備していて、戦闘能力は十分だった。


『排除しま…』


鼎は邪魔になりそうなロボットだけを撃破しながら、尋問室の近くの部屋を調べていた。桃香と加奈が捕らえられている可能性がある場所は、全て調べ上げるつもりだった。


「キリが無い…このままじゃ」


バンッ!ガンッ!


「えっ…桃香!加奈も!無事だったのね!」


「うん…」


「鼎サン、自力で脱出してたんだ。これから助けに行くつもりだったんだけどね」


鼎を囲んでいたロボット達を撃ち抜いたのは、加奈を連れた桃香だった。桃香の右手には、大型のリボルバー拳銃らしきものが握られている。


「両方無事で何よりだけど…その手に握られてるのは…」


「倉庫で拾ったんだ。強力なビームの弾丸を連射できて便利だよ」


そう言うと桃香は、銃を連射してビームの弾丸でロボットを殲滅した。先程桃香が使っていた拳銃と同じで、弾丸の補充は必要ないらしい。


「またすごい高火力…随分嬉しそうだけど、銃が好きなの?」


「特別好きって訳じゃないけど…リボルバー拳銃のフォルムは気に入ってるよ」


新しい武器を手にした桃香は、次々とロボットを撃退していく。鼎は加奈を守りながら、桃香の後を追って行った。


ーー


「さて、このまま脱出…って、うわぁ‼︎何だコレ?!」


「研究施設の壁にバグが発生している…?!マズい…何とかしないと上の階に行けない…」


階段付近の壁にグリッチが発生していて、触れるのも危険な状態になっていた。バグが発生している位置のせいで、階段を上る事が難しくなっていた。


「大丈夫。バグを修正するプログラムならあるよ」


「私も…!巴に作ってもらったやつがある」


桃香と鼎は協力して、バグが発生した場所にプログラムを使用した。グリッチが発生していた箇所は数秒間で元の壁に戻り、安定した状態になった。


「さて、今度こそこんなとこおさらば…誰だアイツ?」


「GuAaァ…」


「研究施設の管理人の部下で…敦也とか言ってた」


歩いて来た敦也は虚ろな表情で、彼の後方にはグリッチが発生していた。呻き声をあげている彼は、確かに視線を鼎の方に向けていた。


「…例のウイルスプログラム、使ったの?」


「うん、こうなるとは思わなかったけど…彼、治るよね?」


鼎の言葉を聞いた桃香は、肩をすくめて敦也の様子を確認した。敦也の移動スピードは遅く、走って逃げれば撒くことができそうだ。


「鼎サン、加奈チャンを連れて逃げて」


「…分かった」


鼎は迷う事なく、加奈を連れて上の階層へと走った。残された桃香はナックルダスター型にしたデバイスを構えて、敦也に向かって行った。


ーー


「あの…桃香ちゃん置いて行って大丈夫なんですか?」


「大丈夫だよ。今の敦也はさっきと比べて変だったけど、桃香を倒せるレベルじゃない」


桃香には謎が多いが、その強さに関しては間違いなく信頼が置ける人物だった。鼎は、自分が加奈を守りながら加勢するより、桃香に任せた方が良いと考えていた。


「今回は地下深くまで連れて来られたみたいね…脱出にはもう少し時間がかかりそう」


階段を上った先にあったのも、先程と似たような通路だった。今度は警備ロボットの数は少なかったので、安全に駆け抜けることが出来そうだった。


ーー


「あaA…」


「その手に触れたら致命傷になりそうだね…」


敦也の両手が触れた箇所から、グリッチが発生していた。アバターに触れたら、かなりのダメージが発生するだろう。


「まぁ、喰らわなければいいだけの話だね」


ナックルダスターを装備した桃香は、素早く敦也に近づいて接近戦を仕掛けた。凶暴化のせいで注意力が散漫になっていた敦也の体に、容赦の無い拳撃が叩き込まれた。


「GUあッ!」


「随分動きが遅くなってるな。このまま畳み掛けて…っと、危ない」


桃香は、敦也がいきなり放って来た両腕でのパンチを、体を反らして回避した。一旦後ろに退いて、桃香は敦也の接近に備えた。


「行動パターンに変化無し…か。じゃあ、慎重にやれば問題ないか」


再び桃香は突進を仕掛けて、そのまま猛撃を加えた。敦也には反撃する隙も与えられず、一方的な戦いになっていった。


ーー


「Aaアあぁ…」


数分後、敦也は地面に倒れて呻き声を上げる事しか出来なくなっていた。桃香は疲れていたが、一発も攻撃を喰らわずに済んだ。


「ウイルスプログラムの消去はやってあげるか…当分の間はまともにアバター動かせないだろうけど」


「うぅ…」


アバター内に存在したウイルスプログラムを削除された敦也は、気を失った状態になっていた。放って置いても大丈夫だと判断した桃香は、彼を置いて鼎との合流を目指した。


ーー


(だいぶ上の方まで上って来たけど…出口はまだね…)


鼎は加奈を連れて階段を見つけては上っていたが、出口にはまだ着いていなかった。この研究施設は、鼎達の予想以上に広大な空間だった。


「よいしょ…っと、鼎サーン」


「きゃっ?!」


研究施設の壁の一部が突然崩れて、穴から桃香が顔を出した。施設内の通路は使わずに、ショートカットをしたらしい。


「…巴にやり方を教えてもらったの?」


「やってみたくなったから、ボクもアナザーアースの壁に穴を開けられる様に練習したんだ」


「近道できるの?」


「うん。ほら、この穴をくぐって…」


桃香は加奈が頭をぶつけない様に見守っていて、そのまま鼎も後をついて行った。プログラムの隙間を通る近道なら、確実に最短ルートになるはずだ。


ーー


(さっきの通路も巴が作ったのかな…)


「あの…どうしたの?」


「大丈夫。さぁ、出口はもうすぐだから」


「ストップ。物陰に隠れて…誰か来る」


桃香は出口の横の通路から、素早くこちらへ向かってくる人物に気づいた。警備用ロボットではなく、ログインしているユーザーだった。


「はぁっ…はぁっ…」


「…?!…君は」


通路を走って来たのは紺色の髪を肩の辺りまで伸ばした穏やかそうな少女…現実世界で昏睡状態になっている水瀬愛莉だった。思わぬタイミングでの遭遇に桃香は驚いたが、事情を聞くのは後だ。


「アイリ…取り敢えずここを脱出するよ!」


「カナエさん…はいっ!」

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