第2章 第6話 管理人の実力

「そんな…全然効いてない?!」


桃香は自身の攻撃が研究施設の管理人に通用しなかった事に驚愕していた。ブラックエリアでの改造を重ねたアバターなので、打撃力は十分なはずだった。


「貴方のアバターは普通に強いですよ。普通以上ではないですが」


「くそっ…単なる打撃が駄目なら…」


桃香はデバイスを操作して、2つの拳銃を召喚した。2つとも昔製造されていた"S&WM500"に酷似した形状になっていた。


「往生せいやぁっ!」


桃香は管理人に二丁拳銃を向けて、ビームを連射した。管理人に直撃したビームは爆発し、普通のユーザーなら一瞬で再起不能になる威力である事は明らかだった。


「何その銃…ビーム連射できるの…?」


「うん。大抵の場合はこれで相手のアバターは粉微塵になるけど…そうはいかないかぁ…」


管理人はスーツがボロボロになっただけで、本体は無傷だった。特に痛そうにしている様子も無く、桃香の戦闘能力を冷静に分析している様子だった。


「それでは…こっちの番ですね」


(速いけど…)ガンッ!「ぐっ…一撃が…重いっ…!」


管理人の攻撃スピードは確かに速かったが、それでも見切れない程ではなかった。しかし威力は高く、ギリギリ受け止められる限界の重さだった。


「おや、反撃はしないのですか?でしたらこのままトドメといきましょう」


管理人は乱暴に腕を振り回しているだけなのに、威力は凄まじかった。桃香は両腕を使って受け止めているだけだったので、突破されるのは時間の問題に見えた。


「桃香!」


「鼎サンはその子を守って!」


桃香は、ナイフ型に変えたデバイスを構えて管理人に立ち向かおうとする鼎を制止した。鼎は加奈を連れて安全な場所まで急いで移動する事にした。


「やれやれ…貴方を倒してから追いかけるとしますか」


「そう簡単にやられる訳ないでしょ!」


管理人は相変わらず乱暴なパンチによる攻撃しかしなかったが、威力はかなり高かった。桃香は耐えて避けつつ、反撃の機会を待っていた。


(もう少し…もう少しこっちまで誘き寄せられれば…)


桃香は後退しながら、攻撃を受け止め続けていた。管理人に気づかれないように罠の準備をしながら、後ろに下がり続けていた。


(…今だ!)


桃香は後ろに飛び退いて転がりながらデバイスを操作して、雷撃網を起動した。気づかぬうちに網を踏んでいた管理人に、凄まじい電撃が走った。


(物理的な打撃が駄目なら…!)


物理攻撃が通用しないのであれば、電撃を使ってアバターの神経を攻撃しようという考えだった。神経系統を破壊してしまえば、仮想現実のアバターだろうと修理が必要になる。


「なるほど…よく考えましたね。元のアバターで来なくて良かった…ですけどね」


「なにっ…!」


「現実世界の死体と同じですよ。抜け殻使っていれば、今さら神経壊されてもどうと言う事は無いんです」


「がはっ…」


動揺していた桃香は隙を突かれて、腹部に強烈な一撃を喰らった。受け止める事が出来なかった桃香は、そのまま倒れ込んでしまった。


「さてと…今頃加奈は敦也が回収しているでしょうか…」


管理人は素早くその場を立ち去って、鼎達が逃げた方向へ向かった。桃香はダメージが大きく、その場から動けない状態になっていた。


ーー


「もうすぐブラックエリアの出口…!ここから出れば安全だから…!」


鼎と加奈は、ブラックエリアの出入口の間近まで来ていた。ブラックエリアを脱出してしまえば、無関係のユーザーがたくさんいる中で、堂々と攻撃を仕掛けられる事はなくなるはずだ。


「待て!その少女を連れてここを出る事は許さない!」


鼎達の前に立ちはだかったのは、中世の騎士の姿をしたアバターの男だった。少なくとも、管理人の男の様な異質さは感じられないが…


(こいつ一人なら…私一人で何とかできる!)


「お前の同行者は拘束させてもらった!」


同行者…桃香が拘束されたと聞いて、鼎は一瞬だが動きを止めてしまった。その隙に腹部に強烈な一撃を喰らい、鼎は蹲ってしまった。


「はい、侵入者は気絶させました…分かりました、彼女も拘束して…」


薄れゆく意識の中、敦也の電話の声を聞いた鼎は、


(加奈だけでも逃がさないと…)


そう思っていたが、それが叶わないまま、意識を手放した…

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