第1章 第4話 その名はハート

「あれがログアウト用の装置…で合ってる?」


「うん。あそこからなら多少データが改竄されていても、ログアウトさせられる」


緊急用ログアウトエリアは、円環状の構造になっていた。入口はいくつかあり、その先に現実世界に帰す為の設備があるのだろう。


「エリアの中には…ユーザーの反応がある」


「アバター売りの部下が、待ち伏せしてるのかな?」


何者かに雇われたアバター売りは部下を連れて、朱音を取り返そうと襲い掛かって来た。道中の敵は全て撃破したが、まだ仕留め切れていなかったのかも知れない。


「どうする?正面から突っ込んで戦う…なんて事はしないでしょ」


「…巴サン、裏口はないの?」


「入るのは大変だけど、上の方にダクトがあるよ」


「分かった、ボクはそっちから潜入するね」


桃香は跳躍して壁をよじ登って、小柄な体格を活かして簡単にダクトに潜り込んだ。巴は彼女の身体能力を見ていて、かなり驚いて呆然としている様子だった。


「何あれ…アバター改造してるのかな?」


「ブラックエリアを根城にしてるからね、それぐらいあり得そう」


鼎も、桃香の身体能力を見て、自分よりも遥かに強い事を理解していた。彼女にはアバターを改造して強くなりたいという願望は無かった。


「それじゃ、私達は正面から入ろうか。戦いは鼎に任せるよ」


「はいはい…分かってますって」


鼎達はログアウトエリアの出入り口から内部に入った。戦えない、戦う気のない3人は鼎の陰に隠れていて、鼎はため息をついていた。


ーー


「思ったよりいるね…」


緊急ログアウト用の装置の周辺には8人の男がいた。彼らは、ログアウト用の装置に近づく者がいないか、眼を光らせていた。


「先に天井の方から桃香が奇襲を仕掛ける。私は混乱する敵に正面から攻撃する…」


「私たちは後ろから応援してるね」


鼎はデバイスをナイフ型に変形させて、戦闘態勢に入った。天井裏のダクトでも、桃香がデバイスを銃に変形させていた。


(おかしい…私たちの気配を感じて警戒するはずなのに…)


排気口から階下を覗いていた桃香は、見張り達の気配を怪しみ始めていた。普通のユーザーから感じられる気配が、ほとんど感じられないのだ。


(まぁいいか、先制攻撃を叩き込む!)


(桃香が動いた!)


桃香は追手の1人の頭上から攻撃を叩き込んだが、鼎が向かう先にいる男は桃香の方に振り向かずに、鼎の方に視線を向けていた。


「バレてた…くっ!」


鼎はすぐにナイフを構えて、男の脇腹に一撃を叩き込む体勢になった。男の動きは遅く、簡単にナイフによる一撃を喰らわせる事が出来た。


(動きが遅いな…)


「おりゃー!」


鼎が疑問に思っている間も桃香は暴れ回り、賭場からの追手と思われる男達を倒していった。あっという間に、追手達を全員気絶させる事に成功した。


「あの…この人たち、弱すぎませんか…?」


「そうだね。鼎、ちょっと調べて見て」


「はいはい…」


「私はログアウト装置を起動させるよ」


巴がログアウト装置を操作している間に、鼎は追手のアバターを調べた。アバターのデータを確認しても、ユーザー情報は閲覧出来なかった。


「こいつら抜け殻だよ」


「そんな…じゃあ誰かが遠隔操作を?」


その瞬間、ログアウト装置がある空間にノイズが走った。景色が元に戻ると、そこにはエルフの様な耳の、小柄な銀色の髪の少女が立っていた。


「な…あなたは誰?!」


「あなたがアバター売りを寄越して来た黒幕ね」


鼎が驚いている横で、巴は平然とした様子だった。銀色の髪の少女はデバイスを複数の砲身に変形させて、戦闘態勢に入った。


「私はハート…このアナザーアースを開発した者の娘です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る