安倍晴明、摩訶不思議な星に行く

いちのさつき

第1話 安倍晴明@異なる星の都

 天さえ届く高層ビルの群がり。星空が見えない程の明るさ。その下に生命を感じさせない金属の人型……ロボットが歩き、緑色の肌をした人のようなものが現代に近い恰好で行き交う。その中で奴が目立っていた。黒い髪と切れ目で白い狩衣を着ている青年。このように周りと異なった装いが原因で注目を浴びていた。


「はて。ここは何処か。摩訶不思議よなぁ」


 奴はマイペースな性格だからか、気にしていなかった。否。別のことを考えていた。彼は安倍晴明、かの有名な陰陽師の一人である。


「清潔感溢れる都。高い塔。眩い灯りの数々。魂のない人形。緑の肌の住人。なるほど」


 一つ一つ言葉を出し、くくっと楽しそうに笑う。小さい和紙を懐から取り出した。他人が聞こえない程度の声量で祝詞を使う。


「ほほぉ。こういう形態になるのか」


 即席の式神が出来た。若葉のような色をしたトンボに近いもの。精霊や自然に合わせて勝手に作られる仕組みなので、使う度に彼は感嘆の声を出す。


「異なる世界の都の見回りをしておくれ」


 一つの命令を出し、式神は飛んでいった。


「ああ。これだから外の仕事は退屈せぬ」


 彼は暫く建物内で仕事をしていた。占いや陰陽道の儀式をずっとしていたが、久しぶりに妖退治で都の外に出る事となった。大抵の陰陽師はさっさと終わらせて帰る。しかし彼は違っていた。


 世界と世界の線の歪みを探していた。これは神々の仕事なので、普通なら見つけられない。しかし彼は最強と謳われているほどで、全てを見通す目を有していた。朝飯前だ。未知なる世界を歩く事が出来ると気付いた数年前から、歪みを見つけては異なる世界にお邪魔している。


「異なる世界の旅は飽きぬからな」


 彼は悪用をしようとは思っていない。旅行先の一つの手段としか見ていない。今回はどういったものが見られるのだろうか。顔には出ていないが、ワクワクの気持ちが抑えられない安倍晴明であった。

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