【140字小説】君の瞬きの音

天城らん

第1話




魔王が勇者のおとがいに手をかけその瞳を覗く。「勇者とて非力な人間。何故、魔王に逆らう?」その答えを勇者は持っていなかった。救国の旅に出なければ、妾腹の王子は国を揺るがす火種として命を狙われる。王宮で死すか魔王に殺されるか。どこで命を終えるか選んだまでのこと。剣が音を立てて落ちた。#twnovel

 



「ご主人様、おやつの時間です」

「もう、子供じゃないんだ。おやつなんて不要…」

メイドに好物のスコーンを無理やり口に詰め込まれる。

「むぐぐ」

「ご主人様は人間なんです。休憩もとらずに仕事を続けるなんてお体に悪いです」

僕が子供の頃から彼女の容姿は変わらない。

自動人形だから。#twnovel




「こんな美女の元にもどらないなんて、馬鹿な男」デスクで独りごちる女編集長。カメラマンが風来坊なのは当たり前。興味のある被写体があれば、戦場までも追いかけて行く。かつて自分が憧れた生き方をする彼の姿にほれ込んだ。#twnovel「お願い。生きて帰って…」それだけを祈り彼女は遠い空を見た。




世界で最後の朝はいつだったのだろうか? 降灰が空を覆い、磁気を乱し、光を遮り、文化と命を奪った。何年も何年も……あるのは夜の静寂と闇ばかり。日は沈んだっきり、昇ってきやしない。誰がこんなことをしたのか……。#twnovel 世界で最後の朝。その日を覚えている『人間』はもういない。




誰もいない村に、ぽつんとたたずむ赤い円柱。塗装は剥げぼろぼろのその赤い柱は、紛れもなくポスト。立ち入りが制限されている村だ。人は住んでいないのだから集荷には来ていないだろう。#twnovel だから、投函しようと思った。もういない”あの人”に届くような気がして……。




僕たちの出会いは、王子のたしなみ講座。メルヘンの世界じゃ王子はスマート且つ美しくないと。そのため習練が必要なのだ。なのに隣国の王子ときたら、規格外にでかくて武骨な王子らしくない王子で……きゅん。#twnovel

運命の王子様に出会ってしまった僕。王子と王子が幸せになって何が悪いっ!




「神は神だ、名乗る必要はない」

そう言う黒衣の男に、少女はそうねと微笑む。

男は清らかな少女の魂を見て、時がとまればいいと願う。

「お迎えがあなたでよかったわ。私の神様」

少女は、彼が”死神”だと知っていた。

けれど今、自分の魂を狩るのをためらうほどやさしい死神だということを。#twnovel




夕日が石畳の坂道を温かく照らし出す。

(戦火で多くを失ったが、この石畳だけは変わらないな)

ぼろぼろの軍服をまと長靴ちょうかの男が、片足を引きずりながら坂を上る。

彼は、期待はしてはいけないと自分に言い聞かせながらも同時に祈る。どうかこの向こうに、我が家の光る窓がありますようにと。#twnovel




見上げる夜空には、爪の先ほどの月もない。

「新月の夜に旅立つのは、虚しいものだな……」

胸に刀を突き立てられながら、血を吐き自嘲する男。

――― 彼の行き先は冥途めいど

光がなくなったうつろな瞳に、死出の旅の道案内が映る。

ひらひらと導くは、純銀じゅんぎん鱗粉りんぷんく幻の蝶。

#twnovel 




少年は血塗られた刃を握りしめる。

かつて純粋だった少年は、戦士となった。

巨悪が彼の大切な人たちを奪ったからだ。

少年の無垢むくだった魂は、今や黒であり赤である。

#twnovel

冷たい雨の中立ちつくす少年。ほほを伝う雫は雨なのか涙なのか…。彼の悲しみは、もう雨でも涙でも拭いさることはできない。




白昼夢を見そうな暑さの中、アイスをなめながら縁側でごろっ。木漏れ日もキラキラ。都会の喧騒けんそうを離れた田舎ぐらしがいつの間にかなじんできた。遠くで携帯が鳴る。最初は持ち歩いていた携帯ももう居間に置きっぱなし。重い腰を上げてメールを見れば宿題の誘い。そうか夏も終わりか…。#twnovel




小さなメモには、常人が見れは意味をな成さない言葉の羅列られつ。けれど、俺にはこの暗号の意味が分かる。要人暗殺の指令書だ。これで戦争が終わるかもしれない……。それでも、殺しは殺し。後輩のあいつにはこんな汚れ仕事はさせたくない。願わくば、清らかな手のまま新時代をつかんでくれ。#twnovel





私の人生はこの惑星で終えよう。長らく旅をして決めた。辺境の惑星だか母星のように海があり、緑があり、空が青い。文明化されていない生活が人情を育むのだろう。ここに移住してから皆よく笑うようになった。#twnovel 夜空に星が昇る。母星もあの銀砂ぎんさの一粒だというのになぜか晴れた気持ちになった。




華やかな衣装も、光り輝くステージも要らない。歌手に必要なのは聴衆だけ。一人でも私の歌を必要としてくれる人がいるならば、どこでだってどんな歌だって歌うわ。泣かないでと語りかける子守歌ララバイ。恋人を想う恋歌ラブソング。そして、あの人のための鎮魂歌レクイエム…。#twnovel




森の奥の闇の中で、何かがうごめいておりました。「私は、アトリ。道に迷ったの。あなた、帰り道を知らない?」闇に問います。『カエル、ユルサナイ』アトリは困りました。おばあさんが薬草を待っているのです。『ヒカルモノ、ワタセバオシエル』闇が、少女の輝く金髪をツンと引きました。#twnovel




ゆらり、と青白いろうそくの炎が闇に灯る。百年もの間、誰も開けることのなかった古城の舞踏室ぶとうしつの空気は、ただ重く深いだけでない。そこに渦巻いていた人々の心をも閉じこめているようだった。#twnovel 華やかだった在りし日を思い出し、演奏者のないピアノが、ぽろんと泣いた。




「茜ちゃん、本読んでるの? えらいねぇ~」

と、私は雑誌の表紙を飾る文字を見て凍り付く。

☆眠そうなあなたを救う決定版、朝ストレッチ!

☆有名トレーナーが教える健康法

☆私に続け、ダイエット成功者の格言 

ませてるのか、老成してるのか……。

我が妹ながら、末恐ろしい小学4年生だ。

#twnovel




夏の森は暗く深い。空を仰ぎ見ても、木々の傘が覆い尽くし影を落とすばかり。緑の迷宮に閉じ込められ、私は途方に暮れた。偉大な魔法使いがこの森に住むと聞き、力を借りるためにここへ来た。「誰かいませんかーっ!!」#twnovel「……いないよ」やまびこが返事をした!?




「ぎゃふん!! 何をする!? 灰になるだどろうが!」私が純銀の弾で頬をつんつんすると、彼は棺桶かんおけベッドから飛び上った。「てへ。でもあなたならどうする? 私がすやすや眠てたら、ちょっとは悪戯いたずらするでしょ?」「まあ、キスくらいはするだろうな…」#twnovel 吸血鬼の彼氏とそんな関係です♪




コロニーの朝はあまり愉快なものではない。低重力で血圧が上がらず、寝起きが最悪なのだ。「頭がぼ~っとする、誰か助けて」「ジンくん、お気の毒さま。早く慣れるといいね」コロニー育ちのオリエは、宙返りしながら鼻で笑った。「もう嫌だ。地球に帰りたい……」僕は溜息だけが自由自在。#twnovel



螺鈿細工らでんざいくのように虹色が宿る宝石箱は、鍵穴さえ花のレリーフで彩られ美しかった。私の『至高しこうの物』を入れるのにふさわしい……。と、その時は思った。#twnovel

「ああん。鍵つきの箱に『愛用の耳かき』を入れるなんて、なんてお馬鹿なの~。耳かゆいぃ~」




宝物のように取り出された薬瓶。「これはね、みにくくなれる薬なのよ!!」「はあ? 姫さま、何をお戯れを」「私は、本気よ。皆私の容姿ばかりをほめるけれど、それより中身を見てほしいの、縁談の相手には特にね。それで破談になるならそれまでよ」美しい姫君は、怪しげな薬を一気に飲み干した。#twnovel



みんな行ってしまった。地球を、この街を置き去りにして。

捨てられたのは地球だ。俺じゃない! そう自分に言い聞かせた。移民船に乗れなかっただけ。まだまだだ……俺は負けない。生きてやる。#twnovel 耳の痛くなるような静寂も、今は酸の雨音がき消してくれた。




私が花嫁衣裳で冷凍睡眠に入ったのは、もう200年も前のこと。不治の病におかされた私を救う手立てはその時代になかった。それは起きる約束のない無期限の眠り、自分で選んだ『死』だった。#twnovel 私は、夢を見る。見続ける。私を目覚めさせる王子様はどこにいるの? と。




「死者の魂は何処どこに行くのですか?」博士は、少年に純粋な目で問われ、回答に困る。事実を実証によって証明することを生業にしている彼にとって、魂などと言う目に見えないもの存在など説明しようもない。群青色ぐんじょういろの空を見上げ、どう誤魔化ごまかそうか、もとい説明しようか博士は悩んだ。#twnovel




曇天どんてんの空をあおぎ思う。鈍色にびいろうごめく雲が生き物のようだと。新しい世を開くため刀を振るい血塗られた道を歩き続けた。気付けば体だけでなく、心までもむしばまれた気がする。誰か俺を止めてくれ……。#twnovel ぽつりと雨が降り始め、頬を濡らした。



禁じられた呪文とか召喚なんてしてないのに、なんで突然目の前に大物悪魔が現れたの?

「我はメフィスト。汝の強い願いに呼ばれてきた。さあ願いを聞こう!」

いやあの、かっこよくバサァとマントをひるがえされても…。

言えないよぉぉ。みつば屋の塩豆大福を両手食いしたいと強く思ってたなんて! #twnovel




「残念だったね。お前の出番などない」と藩医はんいに軽く肩を叩かれた。町医者風情ふぜいと馬鹿にされているのはわかっている。けれど、そんなことで傷つくことはない。私が傷つくのは命を救えなかった時だけだ。「何卒なにとぞ、私に治療をさせて下さい!」振り向く藩医は乾いた目で私を見た。#twnovel




「秋ー、しっかりしろ!」幼馴染の夏樹が俺の腕を引くが、くじいた足は腫れあがりもう動くことはできなかった。「俺を置いて行け。あの怪物にお前まで殺られる」違う、られるじゃない『喰われる』んだ。けれど、それを言えば夏樹は行けない。#twnovel「俺のことは忘れて、生きのびろ!」



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