第9話報酬といちゃもん

こうして依頼を終えた俺たちは冒険者ギルドへと帰還することとなった。

もちろん俺もついて行く。誤魔化されるのを疑っているわけではなく、ギルド職員に顔を覚えて貰う為だ。

折角出来た繋がりなのだし、大事にしなければな。その為にわざわざ名刺だって作ってきたのだ。ふふふふふ。


「とりあえず帰ったら一杯だよなぁ!」

「あははー、いいですねー。私お酒飲めないけど」

「冒険者なら酒くらい飲めるようにしておけよリオネ。付き合いってのは大事だぜ」

「はい! じゃあ、ジュースで付き合わせて貰いますっ!」

「だはは! 可愛らしいこった!」


大笑いしながらリオネの背中を叩くガラハド。

割と馬鹿にされがちだが上司との付き合いってのは非常に重要だ。

幾ら平等公平を謡っていても、どうしたって人間同士。平等に見ようと思っても好き嫌いで判断してしまうものだ。

周りには気の合う人間(イエスマンという意味ではない)を置きたいのが人情である。

それは出世の関係ない個人事業主でも同じ……いや、それ以上に大事だ。

美味い仕事を回して貰うには実力や信頼と同時に、コネ作りも大切なのである。


ズルいとか面倒とか思うのはわかるが、気の合わない相手との仕事はパフォーマンスが落ちるものだからな。

誰だって気に入らない相手と仕事しても楽しくないし、頑張りたいとも思わないだろう。少なくとも俺には無理だ。

ブラック企業時代で働いてた時は上司がムカつきすぎて頑張る気など微塵も起きなかったからな。

そうなればどうしてたって上司の評価は下がるし、俺も更に頑張らなくなり、まさにマイナスのスパイラルが生まれるのだ。

こうなったらお互い不幸なことにしかならないのでさっさと辞めるのが利口である。


リオネは俺と違ってその辺りいい感じだ。素直で明るく上司に可愛がられるタイプだからな。

実力自体も申し分ないが、皆に溶け込む能力の方も十分評価対象である。

おかげで俺のようなどこぞの馬の骨でも、冒険者ギルドお墨付きの仕事に入り込めたのだからな。

リオネは俺の実力だ、とか言ってたが完全に彼女のおかげである。いやー、早くも俺の役に立ってくれているな。うんうん。


そうこうしているうちに街に辿り着く。

正門から入ると道行く人は貧民街と違って綺麗な格好をしており、道にもごみが散乱していない。

治療院を開く手続きで何度か来たことはあるが、やはり活気が違うな。感心しながら表通りを進んでいくと大きな建物が見えてくる。


「へぇ、ここが冒険者ギルドってやつか」


中々立派じゃないか。冒険者ギルドは国の認めた組織の一つ、公的基金などでさぞ儲かっているに違いない。

ふふふ、俺も早く美味い仕事にいっちょ噛み出来るようになりたいところだ。


「おーう、戻ったぜー!」


扉を開けると真っ直ぐカウンターに進むガラハドに受付嬢が笑顔で応対する。


「おかえりなさいませガラハドさん。例のダンジョン調査の件でしたね。如何でしたか?」

「おう、結構な数のゴブリン共が住み着いてたぜ。数は35、一応全滅させたが隠れてたやつがいるかもな。多分逃げただろうがよ。形状から言ってひと月ほど前に自然発生したもので間違いなさそうだ。穴自体はそこまで大きくねぇから大型の魔物が住み着くことはないだろうが、小型の魔物はいつ住み着いてもおかしくねぇし、さっさと埋めちまった方がいいと思うぜ。あとは――」


事細かく報告していく。

ダンジョンは魔物が作り出すものだ。ゴブリンなどの魔物はアリの様に穴を掘り、地面に巣を作る。

地割れなどが生まれたらそこを起点にかなり大きなダンジョンが発生することもあるらしい。

そういえばひと月ほど前に地鳴りがあった気がするな。その時のものだろうか。

あの短い間に色々見ていたようで、ガラハドは受付嬢に詳細な報告を行っている。

リオネたちもそれを後ろで聞いているようだ。先輩の仕事を見て覚えろってところだな。


「――ってとこか。おっと言い忘れたがエリアスのおかげで全滅を免れたんだ。色付けておいてくれや!」


ばしっと俺の背中を叩くガラハド。――あの時、彼らは俺の『治癒』を見ていない。

だったら知らない方がいいだろうと何も伝えなかったのだ。俺の力がバレたら面倒だしな。

ちなみにリオネは普通に気づいてないようで触れてこない。いやー、鈍感で助かる。


「なるほど……素晴らしい働きだったようですねエリアスさん」

「いえいえ、今後とも御贔屓にしてくれれば幸いです」


速攻で握手を交わし、ついでに名刺も渡しておく。

ナイスだガラハド、よく俺を評価してくれた。グッジョブ。


「つーわけだ。報告以上」

「はい。いつも細かいところまで気配りして下さってありがとうございます。それでは報酬を持って参りますね。少々お待ちください」


ぺこりと頭を下げて奥に行く受付嬢。おっ、ようやく報酬か。

俺の報酬が銀貨20枚くらいだっけ。色を付けてくれるっていってたし、二枚くらい多く貰えるかもしれないな。

事前にダンジョン調査の依頼相場を調べたが、大体銀貨500枚程度だった。あの規模なら700以上でもおかしくはない。

ガラハドたちの取り分は手数料を差し引いて銀貨300枚ってところかな。五人だから一人60枚、リーダーのガラハドは少し多めって感じか。

……っと、人の給料を気にするのは俺の悪い癖だな。いかんいかん。


「お待たせしました。ご確認ください。こっちはエリアスさんの分です」

「ありがとう」


俺の分の袋を見ると、銀貨25枚も入っていた。うは、太っ腹だな。

これもガラハドが言ってくれたおかげである。ありがたい。


「で、こっちはガラハドさんたち。お受け取り下さい」

「おう、ありがとよ。てめぇら分け前だ! 前もって言った通り、リーダー役の俺が多めに貰ってあとは人数分で割ることにする」

「おおーっす!」


受付嬢がガラハドに渡す時、チラッと袋の中が見えた。

……え? 思わず声が漏れる。中に入っていたのはせいぜい銀貨100枚前後だったからだ。

おいおいちょっと少なすぎやしないか。一人ずつで割ると俺より少ないじゃないかよ。


「ふーむ、まぁ貢献度を考えたら……こんなもんか」


俺がショックを受けている間にもガラハドは銀貨を分配していく。

自分に24枚、あとは仲間たちに19枚ずつ、更にその中から各々が俺へ一枚ずつ渡してきた。


「えーと、これは……?」

「心付けってやつだ。慣例として治癒師にはいつも払ってるから気にするな。……こいつは内緒だが、お前は非常に優秀だった。特別に俺からもう一枚、受け取ってくれ」


ぱちんとウインクをしながら更に銀貨を渡そうとするガラハド。いやいや、いやいやいやいや、おかしいだろ。


「……安すぎるだろ。幾ら何でも」

「え、エリオス?」

「何だよ。一枚じゃ足りないってか? ならもう一枚だけ……」

「そうじゃない。ガラハドたちに払われる報酬が安すぎるって言ったんだ。なぁ受付さんよ!」

「ぴゃっ!? わ、私ですか!?」


飛び上がる受付嬢。おっと、声を荒らげすぎたか。驚かせてしまったようである。いかんいかん。

俺は咳払いをして声を抑えながら言葉を続ける。


「……支払の明細を見せて貰えるか?」

「え? で、でもいつもは用意してなくて……慣例で……」

「じゃあいつもはどういう計算で出したんだ?」

「えぇとその……上の者に言われた通りに出しておりまして、細かい計算までは私も……」

「ではその上の者と話をさせてくれ」

「し、少々お待ちくださいませっ!」


逃げるようにその場を後にする受付嬢。

この手の計算作業を上司が行うのはともかく、下の者が全く理解してないのは問題だな。

この世界では識字率が低いし計算は難しいのかもしれないが……まさか上から下へ流しているだけだったとは。


「び、びっくりしたぁ……エリアスってば、何をそんなに怒ってるの?」

「仕事を担う人たちが無知なのをいいことに、結構な搾取をしてやがると思っただけさ」


ったく、どこの世界でも似たようなことやってるもんだな。

前世でも中間業者が何やらかんやらと理屈を捏ねて下から金を巻き上げ私腹を肥やしていたが、ここでも似たようなことが起きているのだ。

勿論、仕事を広く集めて分配する中間業者も世の中には必要だが、世の中には限度というものがある。

そして冒険者ギルドは税金が投入されている、いわば警察や学校などの公益法人。

こちとらあんなボロい街に治療院を出してるにも関わらず、ガッツリ税金取られているんだから文句を言う権利くらいはあるはずだ。

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