混沌とかした酒場
チェーン店の個室居酒屋に着いた時には既に日は暮れており、夜の帳が薄らと空を覆う。
「私、お酒飲んだことないんですよ。ちょっと楽しみです」
声をはずませ楽しげに語る恋ヶ崎さんに、僕たち3人は三者三様の反応を返すが、どれも好意的で、場を盛り上げるには充分だった。
入店の際に、恋ヶ崎さんが年齢確認されるものの、大した問題もなく障子を店員さんに開けてもらい、掘りごたつの個室へと通される。
席に着くとそうそうに教授が口を開く。
「とりあえず飲み放題でいいかね? せっかくだ、私が全てだそう。好きなものを頼むといいよ」
なんて気前よく、教授が厳格そうな顔に笑みを携える。
「「「ありがとうございます!」」」
現金なもので、僕ら3人全員で頭を下げて敬う、即店員さんを呼び出しボタンで呼び出して、飲み放題と、各々の好きな物を注文し出す。
パッと概算だけでも2万は優に超えそうで。
教授が笑いながら血を吐きそうな顔をしていたが、男に二言は無い! と開き直って本人もたくさんの注文をする。
せっかくだ、料理が来るまで、僕と恋ヶ崎さんの出会いをふたりへ話すことにしよう。
話の話題には幸い尽きることは無いのだし、2人も研究室にいた時から気になっていたようで、僕に車でも何度か聞いてきていたのだ。
「出会った経緯なんですけど――」
――気がつけばみんなお酒は進み、学は寝落ちしていて教授は、うむうむと頷くだけの機械と化した。
初めてお酒を飲むという恋ヶ崎さんもドロドロに酔っ払って、愛沢さぁん、呼びずらいから恋君って呼ぶ! 恋くんも愛ちゃんって呼んで! なんてすごい勢いで甘えてきて、機械と化した教授も、うむうむそれがいい。と他人事だからと頷くだけ。
恋ヶ崎さんもとい、愛ちゃんの可愛さに少しノックアウトされそうになりながら、助けてくれと上を仰ぐ。
「恋くん、誰にでも優しいんでしょ!私だけじゃないと、や!」
こんな風にとっても可愛い女の子に、ずっとベタベタ甘えられて恋を自覚しないほど、愛を自覚しない程。
僕も鈍感じゃなかった。
酔っ払った愛ちゃんは覚えてるのかな……忘れてたら恋ヶ崎さん呼びに戻さなくちゃ、なんて考えながら、このピンク色の幸せ空間を脳裏に焼きつける。
姉がここに存在すれば、これ以上求めるものなんて僕には無かったんだろうなと、どこか冷めた目で見てしまう。
少しの虚無が入り交じり、この場をどうやって収めようかと思案する。
散らかったテーブルに寝る学に、しなだれかかって来る愛ちゃん。
見えない何かと会話してる教授を前に、追加で日本酒を注文して問題を先伸ばしにする。
――当然だが、混沌とした個室を助けてくれる人は何処にもいなかった……
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