第6話
ヒステリックになったみどりに溜め息を吐くと、私とみどりを見比べていた芳樹さんが、何かに気づいたようだった。
「そうだ! みどりさんの代わりに、妹のまりさんが新婦として出ればいいんだよ!」
「へっ?」
芳樹さんの言葉に、私だけではなく、両親やみどりも芳樹さんを見つめる。
「みどりさんの妹なら顔が似ているから、遠目から見るだけなら、本人と分からないし、体型も細身だからウエディングドレスも着れるはず」
「でも、芳樹……」
「みどり、安心して。結婚式なら、また後日やればいい。家族だけでこっそりと。まさか君だって嫌だろう。『式で着る予定だったウエディングドレスのサイズが合わなくなり、着られなくなりました。他のウエディングドレスを手配しても、式には間に合わないので、今回の結婚式はキャンセルして、後日執り行います』。なんて参列者に連絡するのは」
不安そうな顔をするみどりの両手を握って、芳樹さんが力説する。
「適当なキャンセル理由を作って、参列者に説明しても、いずれは本当の理由がバレてしまう。そうなったら、君は一生お笑い草になってしまう。それなら、ここは結婚式を済ませてしまった方がいい」
「でも芳樹さんが、私以外の人と誓いのキスをしているところを見るのは……」
「そこはヴェールか何かで隠して、キスした振りをすれば良いよ。式場の人達にも、キスの振りだけするって予め言っておけば怪しまれないし、もし参列者が気づいても、『人前でキスするのが恥ずかしかったから』とでも言えばいい。今はこの状況をなんとかしないと!」
あのおどおどした気弱な雰囲気から考えられないくらい、芳樹さんは力強く語った。
みどりは最初こそ納得していないようだったが、芳樹さんの力説を聞いて、渋々納得したようだった。
「芳樹さんがそう言うなら……後日、結婚式もやってくれるって言うし……」
「ちょっと待って! 私の意見は無視なの!? 芳樹さんも、みどりも!!」
「あらあら、いいじゃない。みどりはともかく、まりは仕事ばかりで全然男気がないんだから。こんな機会がないと、貴女、ウエディングドレスも着ないでしょう」
私の反論も虚しく、両親まで芳樹さんの言葉に納得する。
こうして、私は双子の姉の代わりとして、結婚式で新婦役を演じることになったのだった。
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