第5話

 結婚が決まってからのみどりは、いつ顔を合わせても、何かしら食べていた。


「大丈夫だって。そんなに食べないから」


 そう言って、みどりの食欲が止まることはなかった。昔からみどりは食欲旺盛であり、食べるのが好きだったが、太りやすい体質という弱点を持っていた。

 太りにくい体質の私からしたら羨ましい限りだが、みどり本人からしたらとても気になるようで、よく太って仕事先の制服がきつくなったと言っては、ダイエットをしていたのを間近で見ていた。


「またそんな事を言って……。どうなっても知らないよ」

「は~い」


 そんな私の話を聞いているのかいないのか、適当な返事をしていたみどりが顔を真っ青にしたのは、結婚式の数日前。

 当日、式場で着る予定だったウエディングドレスの試着をした日だった。


「ただいま……って、どうしたの? お通夜みたいな空気になっているけど」


 スポーツジムのインストラクターの仕事から帰宅した私がリビングに顔を出すと、真っ青な顔をしたみどりと、深刻な顔をした両親、芳樹さんがテーブルを囲んでいたのだった。


「みどりが、ウエディングドレス着られなくなったって……」

「どうして?」

「ここ最近の暴食が原因でサイズが合わなくなって、ウエディングドレスが着られなくなったのよ……」

「やっぱり……そんな気はしてた」

「ちょっと、やっぱりって何よ、まり! 喧嘩売っているの!?」


 納得した私に食ってかかってきたみどりを、母と芳樹さんが引き止める。

 両親やみどりの伴侶となる芳樹さんだって、気づいているだろう。

 芳樹さんを自宅に連れて来た頃に比べて、みどりの身体には肉が付き、今や顔や腕、太腿や尻にも肉が付いたことを。体重もきっと増えているに違いない。


「だからって、なんでこんな暗い空気になっているの? ウエディングドレスなんて、別の物を着ればいいじゃない」

「今から別のウエディングドレスを用意しても、予定していた式には間に合わないって。式の日程を変更しても、参列者に連絡しなきゃいけないし、キャンセル料も掛かるし……」

「でも、それってみどりの自業自得だよね。私は止めたよ。ウエディングドレス着られなくなるって」

「アンタがもっとしっかり止めていれば良かったのよ! どうするのよ! ウエディングドレスは着れないし、結婚式はキャンセルになりそうだし……」

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