チョコレートは二度もらう

天城らん

1、ミスばかりの彼女


「日高。お前、馬鹿か!?」

 と、高校から10年来の親友に怒られた。

「チョコをもらって素直に喜ばないなんておかしいぞ! 好きな子から告白されてなんで悩むんだ?」

 確かに、進藤の言うことは正論なのだろう。

「好きだというか……気になるというか、目が離せなかったのは事実だ。しかし……」

 俺が、口籠るのには理由がある。

 たとえ義理だとしても、彼女からバレンタインデーにチョコをもらえるはずがない。

 会社では、俺が彼女を嫌っていると評判だし、同僚からは後輩女子をいじめるなとよく言われる。

 俺が彼女を怒ってない日はないからだ。


 嫌いだからそうしているわけではないが、仲が悪く見えるならしかたない。


 たしかに、彼女 村山愛に優しくしたことなど一度もない……。



 *



 後輩の村山愛は、今年の新入社員の中で、やたらと目を引く子だった。

 美人という意味ではない。

 社内を駆けずり回りドジばかりやらかすことで、有名だったからだ。

 けれど、どんなヘマをやらかしても、俺以外の社員にはよくかわいがられる。

 丸顔で愛嬌があり、いつも笑っているせいか新入社員の中では一番幼い印象を受けるからだろう。

 実際、彼女は大卒で入社だから俺よりも5つも年下だ。



 彼女は俺と同じ部署に配属された。

 他の新入社員は、半年もすぎればそれなりに仕事に慣れたが、彼女だけはいつまでたっても失敗ばかりしていた。


 今までにやらかした彼女の失敗は数えきれない。


 トラブルに巻き込まれ、ボロボロの服で入社式に来たり。

 クライアントとの約束に遅刻。

 重要書類をシュレッダー。

 俺のパソコンに水をこぼし破壊。

 etc……。


 彼女の失敗は派手で、入社5年目で戦力として十分働いていると自負している俺さえ、フォローしきれないことがしばしばある。


『村山っ! 何考えてるんだ!』

『お前だけのミスじゃ、済まされないんだぞ!』

『すみませんじゃない! 謝る前に失敗しない努力をしろ!』

 毎日この調子で、俺が怒鳴らない日はない。


 彼女が、失敗をすればするほど俺の仕事は確実に増えている。

 はっきりいって、彼女のフォローのために休日出勤したこともあるし、残業などしょっちゅうだ。

 ただ、怒鳴りはするが決して俺は腹を立てているわけではない。


 何があっても、仕事の内だ。

 他人の失敗のフォローも含めて、すべて終わらせるのが仕事というもの。淡々とこなすだけだ。

 そう、彼女だから仕事の手伝いをしているわけではなく、彼女でなくても誰かが仕事でミスをすれば俺は誰であろうとフォローはする。


 決して、彼女だけを『特別』扱いしているつもりはない。


 ただ、どうして彼女にだけあんなに声を荒げてしまうのかまだ俺はわかっていなかった。


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