第6話 根っこは勝気なカモネギすぎる嫁

 懇切丁寧にご説明差し上げる、俺。


「だからな、俺が惚れたのはおまえの剣の腕前であって、おまえ自身じゃないワケ」

「はぁ……」


 だが、当のレミュは生返事。顔も完全にキョト~ンって感じ。


「……わかってる?」

「はい、わかってますよ」


 レミュは何故かにこやかに笑ってうなずいている。

 あれ、おかしいな。わかった風にしてはリアクションが想定の外なんだが……?


「旦那様は、わたしの戦う姿に一目惚れしてくださったということですよね!」

「いや、違ッ……、あ、違くはない。戦う姿に惚れたのはあるけど……」

「じゃあ、一目惚れですよね!」


 さらに笑顔を明るくして、レミュが両手をパンと打ち鳴らす。


「違う違う違う、そうじゃないそうじゃないそうじゃない!?」


 笑顔でどんどんと迫ってくる彼女に、俺は激しくかぶりを振る。

 そりゃね、惚れたは惚れたよ?

 でもそれは、剣の使い手としてのレミュであって、本人に対してじゃないの!


 それを、どうにかこのポンコツ女剣士に理解させねば……。

 これからの俺の人生に、余計なしがらみは必要ない。


 性欲の解消とかは娼館にでも通えばよし。

 嫁とかも、必要と思ったら人生が落ち着いてからでも探せばいい。


 だから今はいい。

 本当に、今はそういうのはいいんだ。とにかく鍛冶がしたいんだよ、俺は。


「あ、の、ね、レミュさん。重ねて言うけど、俺は別に君に惚れたワケじゃねぇの」

「むぅ……」


 重ねて説明する俺に、レミュがやっとその顔から笑みを消す。

 しかし不満顔、というワケでもなく、何かちょっと不思議そうな顔をしている。


「それでは、旦那様はわたしがお嫌いなのですか?」

「え」


 何でそんな話になるの?

 いや、さすがにそんなネガティブな感情があるワケじゃねぇけど。


「それとも、わたしのことは何とも思っていない、ということでしょうか?」

「あ~、それは――」


 そっちの方が正しくはあるのだが、何とも思っていない。何とも……。


「……あ~」


 しばし、俺は腕を組んで考える。

 すると脳裏に浮かんでくる、先程ゴーレムと戦っていたレミュの躍動する姿。


 相性最悪の相手に、完全に格下の武器で果敢に挑んでいた彼女。

 勝率が低いからこそ自ら踏み出して行く姿は、俺の心に軽い興奮をもたらした。


 レミュは、会話してわかるが、普段の性格は完全なポンコツだ。

 しかし、戦っているときの姿はそんな彼女とは遥かかけ離れた凛々しさがあった。


 ――ああ、こいつ以外に俺の剣を委ねられる相手はいない。


 そう思ったからこそ、俺はレミュにミスリルの剣を譲ったワケだが。

 ん、それってつまり俺自身も、こいつを好ましく思ってるってコトじゃないのか?


 あれ?

 あれあれ? あれれ~?


『マイスター様、だいぶ悩んでますね~』

「お~、まぁ、さすがになぁ……」


 カジーナにつつかれるが、こいつに相談してどうなるものでもないからなぁ。

 と、俺がうんうん悩んでいると、レミュが言ってくるのだ。


「あのですね、旦那様」

「旦那様はやめろ。……で、何?」


「時すでに遅しです」

「は?」


 何を言ってんだ、このポン剣士。


「すでにわたしは旦那様を好きになっちゃいました」

「はッ!?」


 本当に何言ってんだ、このポン剣士ィッ!


「旦那様がわたしを嫌いでないなら、わたしは旦那様についていきます。何とも思ってないなら、これから好きにさせてみせます。旦那様は、わたしがお嫌いですか?」

「……おまえ」


 明るい笑顔でとんでもねぇコトをのたまうレミュに、俺の背筋がゾクリとする。

 だが、それは恐怖による悪寒ではなかった。


 今の言葉の中に、レミュ・サルヴァトルの本質が垣間見えた気がしたからだ。

 そこに見えたのは、剣を振っているときと同じ、挑戦的な強気の彼女。


 自分の意を真っすぐに貫き通そうとする、実に俺好みな剣士の姿だった。

 うわぁい、こ~りゃ参ったぞ……。


「はぁ~……」


 俺はため息をついて、軽くポリポリと髪を掻く。

 こんなものを見せられては、口が裂けても『嫌い』なんて言えるワケがねぇわ。


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~……」


 腕を組み、天井を仰ぎ眺めて、俺は長々と声を出して気持ちの整理をつける。


「あのさ、レミュ」

「はい、何でしょうか?」


「しちゃおっか、結婚」

「え――」


 天井を仰いだままの俺の呟きに、レミュが意外そうな顔をする。

 何だよ、その反応は。

 ここまでグイグイ押し込んできたクセに、何でそこでその反応なのさ。


「ただし、先に言っておくが、現時点では九割打算だぞ」

「打算、ですか……?」


 目をしばたたかせるレミュに、俺は指を三本立てる。


「この先、おまえ以上の剣士に出会える可能性は低い。そう思ったのが一つ。そのおまえが俺に従順で都合がよさそうだと思ったのが一つ。あとの一つは――」

「ぁ、あとの一つは……?」


 俺の言葉を待って、彼女はゴクリと息を飲む。

 だがあえてそれ以上は俺は語らずに、手を開いてレミュの方に差し出す。


「それでよければ、今日から俺とおまえは夫婦だ。……どうだい?」


 そう言って、俺は握手を求めようとする。

 きっぱり『都合のいい女だから結婚する』と言い渡したワケだが、果たして――、


「…………」


 レミュはしばし俺を見たまま呆けていたが、すぐに瞳にジワリと涙が浮かぶ。

 あ、これヤバイ。と、俺の直感が告げてくるが、遅かった。


「旦那様ァァァァァァァァァ~~~~! よろじぐお願いじまずぅ~~~~!」

「ぐああああああああああああァァァァァァァァァァァ――――ッ!?」


 次の瞬間には、俺はレミュに抱きつかれていた。

 速いッ! この女の動き、あまりにも速すぎるゥゥゥゥゥゥゥ――――!


「好きです! 大好きですぅ、旦那様ァ! ん~、ちゅッ! ちゅ~!」

「ちょッ、わかっ、わかった! わかったから離れ、む、むぐゥ~~~~ッ!?」


 速いだけではなく、レミュは腕力もとびっきり強かった。

 おかげで俺は、彼女を振りほどくこともできないまま、唇まで奪われてしまった。


『あ~あ~あ~あ~……』


 そんな俺とレミュを、完全に他人事みてーに見ている我が相棒、カジーナ。

 物理的に助けることができないとはいえ、ちったぁこっちを心配しなさいよッッ!


 ――こうして、俺とレミュは結婚した。してしまった。


 それによって俺は、彼女の借金を一緒に背負い込む羽目になった。

 俺がそれに気づいたのは、しばらくあとのことだ。


 え、今?

 それどころじゃないって、見てわかれよ!



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 悲しいお知らせです。


「空! 空! 空! これも空ッ! 全部、盗掘されたあとじゃねぇかァ~~!」


 魔王城の地下、すっからかんでした。

 倉庫と思われたこの地下空間、確かに多数の宝箱があるにはあった。


 が、どれもこれも空。空っぽに次ぐ空っぽ。

 何一つ残ってやしなかった。

 希少な素材とか期待してたのに、その期待が最悪の形で裏切られたワケだ。


「……何で~? どうして~?」


 これには、レミュも脱力を見せている。

 金目のモノを探して盗掘に来たら、すでに先客万来でしたと来たもんだ。


「レミュ、一体どういうことかな? おまえが戦ってたゴーレムはこの地下階の番人じゃなかったんか? おまえが入ってきたルート以外、入り口があったんか?」

「え~っと、え~っと……」


 俺の問いに、レミュは焦った様子で何やら大きな紙を広げ始める。

 何事かと思って横から覗き込むと、それは地図のようだった。


 古びて色褪せた紙が使われているものの、地図に使われているインクは新しい。

 地図にはデカデカと『魔王城地下隠し財宝の地図』と書かれている。


「あ、あれ~、おかしいですねぇ~。この地図によるとここに莫大な財宝があるって書かれてるんですけど。……あれ、そういえば地図にゴーレムのことが載ってない」

「おい、おい……」


 まさかと思いつつ、俺はレミュに確認する。


「レミュ君、おまえが戦ってたゴーレムってトラップに引っかかって出現した?」


 この問いかけに対して、レミュは古典と首をかしげて、


「え? いえ、地図に描かれてた入り口を思いっきり塞いでましたけど……」

「おまえ、全力で騙されてんじゃねぇか!」

「えええええええええええええええええええええええええええええッ!?」


 おっきな瞳をいっぱいに剥いて、レミュが驚愕に跳び上がる。

 が、何でそこでそんな風に驚けるんだよ。こっちがビックリしてんだよ、今は!


「あんなわかりやすいデカブツが載ってない時点で、その地図はニセモノだよ!」

「そ、そんなぁ~……」


 ニセモノの地図を広げたまま、レミュがヘナヘナとへたり込む。


「この地図を買うために残りの我が家の全財産、全部払ったのにぃ~~」


 清々しいほど、カモ!

 ネギどころか土鍋と具材と自分が煮られるための水と薪を全部背負った、カモ!


「どうしましょう、旦那様……」


 レミュが、ほとんど泣き顔でこっちを見てくる。

 今となっては、この鍋セット一式背負ったカモも俺と無関係ではない。


 結婚なんてしちまった以上、こいつの家の借金は丸々俺の借金でもあるワケで。

 あ~、もう逃げちゃおっかな~、レミュ見捨てて別の街にでも――、


「……って、ワケにもいかんか」


 と、俺は盛大に嘆息する。

 やはり剣士としてのこいつの価値を思うと、手放すのは非常に惜しい。


 俺とて、生半可な想いでレミュに剣を託したワケではない。

 そうなると、仕方がねぇな~……。


「まぁ、安心しとけ」

「ほへ?」


 半べそかいてるレミュの肩を叩いて、俺はゴーグルを下ろしてある一方を見る。


「儲けがゼロってことにはならねぇさ。もしかしたら地図代くらいは賄えるかもな」

「ほ、本当ですかぁ!?」

「多分、だけどな」


 肩をすくめる俺が見る先には、レミュが斬ったゴーレムの残骸が転がっていた。

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