第5話 出会って三分、すぐ嫁ぐ

 レミュ・サルヴァトル。

 その名に、俺は既視感めいたものを覚えた。


「……サルヴァトル? 光の姫騎士エレナ・ミリシア・サルヴァトルの縁者か?」

「え、わたしのご先祖様をご存じなのですか?」


 マジかよ。

 こいつ、エレナの子孫なのかよ。


 ぶっちゃけ、エレナについてはあんまり印象に残ってはいない。

 何せ、前世では魔王をブチ殺すことのみに意識を注いできた俺なワケで。


 だが、名前と顔くらいは覚えていた。

 言われてみれば、顔の作りなんかはエレナに似ていなくもない、か?


 いやぁ、でもなぁ……。

 エレナはそこそこタッパあったけど、レミュはそれに比べれば明らかに小柄だ。


 髪の色は、結構カブってるかも。どっちも鮮やかな赤い色で長髪だ。

 背の高さに差はあるけど、身体の線が細いのも共通してる。


 でも、顔立ちが違う。いや面影はなくもないんだけどな。

 キリッとした凛々しいタイプだったエレナに比べて、レミュは幾分幼く見える。

 だけど、エレナと同じで出るところは出てるか、例えばおっぱいとか。


 あとは、何ていうか……、レミュの方がその、見すぼらしい。

 装備もボロいし、ちょっと使い込まれすぎている。

 手入れが行き届いているのがわかるからこそ見えてしまう貧相さというか。


 それもあって、エレナの子孫ってイメージは湧かなかったな。

 どっちも剣士で、手数優先のスピードスターっていうところまで同じなのに。


「え、待って。サルヴァトル家って、どっかの大国の公爵じゃなかったっけ?」


 今、この女は冒険者って名乗ったよな。

 大国の公爵の家の出で、冒険者。いやぁ、そういうのもなくはないんだろうけど。

 と、考えていると、おもむろにレミュがクスリと笑った。


「本当に、昔のことをよくご存じなのですね」

「あ、ああ。まぁ、ほら、名前が名前だからな。昔話でよく聞かされたんだ」


 適当に誤魔化しつつ、俺はレミュの次の言葉を待つ。

 どうやら、大国の公爵家っていう経歴自体、かなり過去の話のようだが。


「そうですか、そうですよね。姫騎士エレナの話は勇者クレイドが魔王を討伐したのち、役目を終えた勇者が神と共に天へと昇っていった場面で終わっていますものね」


 あ、そういう感じにアレンジされたのね。

 正確には聖剣叩き折ろうとして無理やり転生させられただけなんですけどね。


「実はですね」

「おう」


「魔王討伐の数年後、サルヴァトル家はとある理由で没落したんです」

「没落……」


 それは、よくあるあれか、魔王という共通の敵がいなくなって起きた戦争とかか。

 もしくは大国で起きた権力闘争に敗れての出奔とか、そういう――、


「オレオレ詐欺に遭いまして、全財産をだまし取られました」

「…………」


 え、大国の公爵家が? オレオレ詐欺に?

 へぇ~、異世界にもあるんだ~、オレオレ詐欺。……じゃなくてさ!?


「それ以降、サルヴァトル家は一気に没落、財政も悪化の一途を辿って貴族籍も売りに出し、今はこうして冒険者でありながらこんなところに来ている次第でして……」

「なるほど、大変だった……、ん? 冒険者でありながら?」


 あれ、ここに来たのはもしや、ダンジョン探索の依頼とかではない?


「はい。お金になるものを探して盗掘に来ました」

「うわぁ、バカ正直に自供しやがったぞ、この元公爵家……」


 いや、だが待て。おかしい。

 レミュの剣士としての腕前は元勇者の俺から見ても相当なレベルだ。

 それだけの腕があれば、冒険者として大成しててもおかしくないと思うんだが。


「実は、実家の借金が莫大で、わたし名義の借金もかなり多くて……」

「ギルドが絶対に重要依頼回したくない系のヤツ~」


 借金なんて、信用を損なう要素では不動の第一位だ。

 そして冒険者って稼業は言うまでもなく信用商売なので。……うん、なるほどな。


 そうか、エレナの家は一族総出で金銭感覚が破滅してたのかー。

 子孫であるレミュが魔王城に盗掘に来た理由を、俺は魂で理解したのだった。


「それで、あの~、ですね……」


 急に、レミュがくねりとしなを作りながらこっちの顔色を窺ってくる。


「これから、この地下階の探索をしたいんですけど~」

「おう」


「できればこのミスリルの剣をもう少しだけお借りしたいな、って……」

「それは別にいいけどよ」


 つか、その剣はレミュにくれてやる気だし。特に俺としても問題はない。


「あのですね、その……」

「何だよ、はっきり言えよ」

「では言いますが、この剣の使用料、少しだけまけてくださいませんか?」


 はぁ?


「いえ、あの、三割とか四割とかなんてワガママは言いません! 二割! 二割まけていただければ、それで十分なんです! お願いします! 今、手持ちがなくて!」


 眉根を寄せる俺にビクっと身を震わせて、レミュがいきなり土下座する。


「お願いします! こんなすごい剣の使用料だからきっとお高いとは思いますけれど、今はこの剣が必要なんです! 使用料は必ずお支払いします! だから二割、まけてください! できれば分割で! あ、二十四回払いくらいがいいです!」


 こいつ、やたら腰が低いように見えて、言ってる内容が自分に都合よすぎる!?

 思ってたより遥かに面の皮厚いな、この女。


『どうなさいますか、マイスター様』


 カジーナが俺に尋ねてくる。ちなみに、こいつは俺にしか認識できない。


「どうするもこうするもねぇだろ……」


 使用料なんていう前提からして間違ってるんだから、話になるはずもない。


「お~い、レミュ」

「はい! はい、え、五十回払いでもいいんですか!?」


 そんなこと言ってねぇだろうがよ~。こいつ、結構イイ性格してますねぇ。


「あのな」

「はい」


「その剣、おまえにやるから」

「はい!?」


 俺を見上げるレミュの目がまん丸になった。


「え、で、でもこんなすごい剣、わたしなんかには似合わな……」

「いや、おまえだ。おまえしかない」


 俺は断言する。

 育った環境のせいか、この女は随分と自己評価が低いようだが、全くの間違いだ。


 ミスリルの剣を使ったとはいえ、あの頑強な金属ゴーレムを両断せしめた腕前。

 レミュの剣の腕は、前世で見てきた中でも間違いなく屈指。


 もしかしたら、先祖のエレナよりも上かもしれない。

 それをまざまざ見せつけられた俺は、もうこいつしかいないと思わせられた。


「わ、わたししかない、ですか……?」

「そうだ。この剣の使い手は、おまえしかいない」


 俺は再度断言してうなずくも、しかしレミュはまだ理解しきれず戸惑っている。

 はぁ、と、一度ため息をついて、俺はわかりやすく言い直すことにした。


「だからな、要するにだ」

「はい……」


「俺は、おまえ(の剣の腕前)に惚れたんだよ」

「ひゃい!?」


「おまえ(の剣の腕前)は最高だ。おまえ(の剣の腕前)に一目惚れしたよ、俺は」

「あ、え、ああ、あの、あの……!」


 俺が言葉を重ねるたび、レミュが顔を赤くして口をパクパクさせる。

 その様子から伝わってくる。

 こいつ、これだけの剣の腕があって、本当に今まで褒められたことがないんだな。


 そう思うと少し可哀相にも感じる。

 俺が初めて打った剣の使い手として、誇りを持ってもらいたいとも思ってしまう。

 だから俺はその場に膝をついて、しっかりレミュに顔を近づけて言う。


「おまえと(この剣)の出会いは運命だ。俺は(この剣を託すなら)おまえがいい」

「…………」


 俺が言い終えると、レミュはしばしポカンとなったまま俺を見つめ返した。


「…………はぅ」


 あれ? 何で目に涙?


「旦那様ァ!」

「旦那様ァ!!?」


 え、何で急に抱きついてきてんの? 何で旦那様? え、旦那様って誰!?


「わたし、嬉しいです! 出会ったばっかりなのにそんな風に言ってくれるなんて。決めました、わたしの人生を差し上げます! 喜んであなたの妻になりますゥ!」


 はいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?


 何で? 何でいきなりそーなんの!?

 俺が鍛えた剣を譲るっていう話じゃなかったの? それが何でいきなり結婚!!?


『マイスター様』


 あ、カジーナがかつて見たことがないほど白けた目で俺を見ている。


『直近一分以内のご自身の発言を振り返ってはいかがかと』


 俺の発言を振り返れ、って?

 ただ、レミュの剣の腕前に惚れたから剣を使って、欲しい、って……。あ。


『相手に正しく意味を伝えるには、言葉がちょっとだけ足りませんでしたね』


 ……はい。すみません。


『勘違いって、する方とさせる方、どちらに非があるのでしょうね?』

「うわ~~~~~~~~ん、旦那様ぁ~~~~~~~~!」


 肩を竦めるカジーナを前に、ワンワン泣き喚くレミュに抱かれ脱力する俺だった。

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