一章/10話 宝石の帽子

 店の奥にはカウンターがあり、中年の男がそこにいた。

「すみません、この帽子を買いたいんですけども…いくらですか…?」

「あ?ああ、その帽子な。ちょいと見せてみ」

店主さん?がラメから宝石の入った帽子を受け取り、付いていた値札を確認する。

「ねえ、ラメ。帽子の値段、確認してなかったの?」

「いや~、あまりにもピンときちゃったもんだからつい…えへへ」

「ちなみに、今全部でいくら持ってるの?」

お金が足りない、なんていわれても困るので一応聞いておく。

「えっとね~、まず金貨が一枚でしょ~それから~」

まてまてまて、まず少なくない?

「そんなことないもん!ここに来るまでで結構長旅だったから使っちゃっただけで、もっとあったから!」

なんか今みたいに、ぱっと物買っちゃうとことか、ラメって意外とお金遣い荒いのかな。


「お嬢ちゃん、この帽子、金貨1枚と1アピスな」

ええと、1アピスっていうと、銀貨5枚だから、金貨1枚と銀貨5枚かな。そういえばラメは金貨以外はいくら持ってるんだろう。

「うう、私今、金貨1枚と銀貨3枚、あと銅貨とジズ朏貨が二枚ずつしかないよ~。ねえサクラくん、お金かし――」

「やだよ。どーせこんな感じで無計画に物を買ったからお金が旅の途中でなくなってるんでしょ」

「わぁ!ひっどい偏見!!信じらんない!」

「ところで店主さん、それほんとにその値段で合ってますか?」

あ!ボルジアさん。い、いたんだ。

「ああ、すみません。驚かせてしまいましたか?私無口なもので」

「い、いえいえ、べっべつに、全然問題ないです!こ、こちらこそ失礼なことを―――」

「サクラくんびっくりしすぎだよ~」

いや、でもやっぱりあんまり人と喋るのが得意じゃないから…てかボルジアさんが言ってる値段って、どういうことだろう。

「値段が正しいかどうかだぁ?こっちはちゃんと値札見て言ってんだろうがよ」

うう、この人ちょっと怖い…

「じゃあその値札をしっかり見せてくださいよ」

「え、ええそれは…」

ボルジアさんが店主の持ってる帽子をいきなりとる。笑顔で。

 なんかこの人もちょっと怖い…

「ふむふむ、おかしいですね。ここにはしっかりと書いてありますよ?『金貨1枚と銀貨3枚』と」

ボルジアさんが値札を見て言う。すご!もしかして最初から気づいてたのかな?

「えぁあ、これはその、ちげえんだよ…ほらあれだよ、読み間違えちまってさ!」

いやそれは流石に無理があるんじゃない?

「それは流石に無理があるでしょう。こんなにはっきり書いてあったら読み間違えるはずがないですよね」

ボルジアさんが値札を示す。しっかりとした紙に、黒く濃いインクではっきりと値段が書かれている。

「てか、お前お屋敷の!」

店主がボルジアさんを指さして叫ぶ。

「いや、その、悪かった!どうか領主様への報告はやめてくれ!」

すごく狼狽えている。自分が詐欺しようとしたくせに。それより、領主様ってローズさんのことだろうけど、そんなに怖い人ではないと思うけど…

「お嬢様は街の治安維持のために、詐欺などの撲滅を目標としていて、詐欺などのトラブルがあった場合、裁判などのうえ、街を追放するなどの措置をとることが多いですから、それに対する事でしょう」

なるほど、ていうかボルジアさん、まるで僕の心を読めるみたいに疑問に答えてくれるなぁ。まあどっちかっていうと心を勝手に覗かれているような気がしてちょっと怖いけど。

「さて、あなたはいったいどうしてこんなにわかりやすい詐欺なんかしようと思ったのですか?」

「うぅ…」

ボルジアさんの問いに、唸った……ラメが。確かによく考えればなんで値札付いてたのによく見なかったんだろう。

「…ちょっとあまりにもピンときちゃったからつい…」

僕の考えを察してラメが言い訳をする。いやほんとに便利な言葉だね、「ピンときた」って。

「その、ほんとは普通に売ろうとしたんだよ、知り合いが冒険者から手に入れたモンを買い取る店やっててな、そいつが『お前の店で売れそうなやつやるよ』ってんでいくつか買ってみたんだが、冒険者がもって来たモンだから怪しいのは無ぇかなって一応確認してみたら、一つだけ綺麗な宝石がくっついてんのがあって、それがこの帽子なんだけどよ。でもこれ、なんか見てると吸い込まれそうっつーかなんつーか、とにかく不吉な感じがしてよ、普通の人が買ってなんか文句付けて来んように普通よりちょっと高めに値段付けといたんだがな?ちょうどそんときその魔法使いの嬢ちゃんがくれって言うからよ、身なりが良いし魔法とかにも詳しそうだから売っても大丈夫そうだし、なんならちょっとばかし高値で売ってもバチは当たんねぇって思って…」

いやそもそもこんな店普通の人来なそうだけど。

「ふむ、つまりやはり悪意があってやろうとしたってことですね?」

ボルジアさんの視線が店主に鋭く刺さる。

「いや、そうなんだがもう反省してるつーか、その、もうこんなことやらねぇから!」

「まあ、反省はしているみたいですね。では特別に報告は無しで」

あ、いいんだ。

「ところで、この値札通りの値段でいいのよね?じゃあ買います!」

え、今の話聞いてた?

「聞いてたよ~あれでしょ?なんか不吉な感じがする~とかの」

「聞いてた上でそれって、意味が分かんないんだけど?」

それにお金もギリギリじゃん。

「いや、ほとんどピッタリだから買うんだよ!」

ほんっとに意味が分かんない。

 そんなこと言いながら、ラメは手際よく財布から硬貨を出しカウンターに並べて「これでいいですよね?」って帽子を買ってるし。

「何だろう?呪いとかなのかな?いや~、やっぱり好奇心は止められないね!これが叡智を持ち、神秘の探究者たる魔法使いって感じだね!」

自ら呪いに掛かりにいく魔法使いがいてたまるか。てか、吸い込まれる感じって言ってたけど、ラメ、すでに呪いに掛かってるんじゃないかな?……やだなそれ、出会って一日も経ってないのにさっそく仲間が呪われるの。


 店を出て歩いていこうとしたとき、ローブを羽織り、丸眼鏡をかけた少女と目が合った。

「あの!もしかしてその帽子、呪われてる、とか言われてませんでしたか!?」

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