第一章 始まりの物語

一章/1話 勇者と剣

 今から語る事は、500年前、いや1000年以上前の話になるだろう。

実際、どれくらい昔なのかなんて、詳しい資料なんてないんだけどな。


●――――――――――――――――――――●


 その日はよく晴れた日だった。

 朝、カーテンを開けると強い日差しが部屋入ってきた。

この部屋には一人しか居ない。この部屋どころかこの家全体に一人だけだ。


 名前はサクラ。桜色の長い髪を提げ、眠い瞳を開く。

特に予定なんかはないのでゆっくりと支度をする。

 顔を洗い、髪をとかして、食事の準備、と言うところで気づいた。


朝食が何も無い。


「どーしよ……」

 どうにかして外に出ないような方法を考えようとしたけど、やはり外に買いに行く以外方法は無いみたい。

支度を済ませ、仕方なく財布を取り、玄関のドアを開ける。そして、買い物へ行くことにした。


「あーあ、めんどくさいしそもそも人に会いたくないのにな」

と独り言を言って周りを見る。人が居ないので返事はない。

 人に会わないようにと、村の裏路地を通る。

いつもなら猫1匹いない……はずだった、

「おはよう、サクラちゃん!」

ビクッと驚き、恐る恐る振り向くサクラ、声をかけてきたのは村の本屋の店主。

「朝の散歩かい?俺も――」

会話(というより一方的に話しかけられただけだが)の途中だけど、ダッシュで逃げる。



「……なんていうか、いつも通りだよな……」

本屋の店主は困ったように、そして呆れたよう呟いた。



 あ〜もう!なんで今日に限って、路地裏に人がいるんだよ!

いつもなら猫1匹いないし、たまにいる黒猫ですら振り向きもしないってのに!!

とにかく逃げないと。特に意味は無いけど、会話するなんて絶対無理だよ!


 路地裏を、村の出入口の見張りすら居眠りする門を、と猛ダッシュで駆け抜けて―――

気がついたら村を出て少しのところにある森の中にいた。しかもなかなかに深い内部に。

周りの暗い色の太い木が密集し、早朝なのに真夜中より暗く、リスなどの小動物も蝶や蜂などの蟲も、ましてや巨大な熊なんかはいるはずもなく。

ひとり、光のほとんど入らない森の深くに迷い込んでしまったみたいだ。

 失敗した!あまりに焦って走ってきてしまって迷子になっちゃった!しかもこの森、たぶん村の大人たちが言ってる、子供は絶対に立ち入ってはいけない森。

名前は確か……『白霧の森』……だっけ?あれ、『霞の森』だっけ?それとも『黒霧の森?』いやこれは真反対だし違うか。


 まあなんにせよちょっとヤバそうなとこに来ちゃった……どうしよう………ん?あれなんだろう?

あ!木々の隙間からほんの少しだけ光が見える!!もしかしたら出口かな?出口じゃなくても誰かいるのかも!!

 急いで駆ける。その光に近づくにつれて足が水を踏み、パシャパシャと音を立てる。その音すらも無視して駆ける。

しかし、光の元に行ってみても、出口も人も存在していない。ただ、そこにあったのは……


「なんだろう?『剣』…?かな」

苔むした石の台座に、1本の剣。見るから錆びて、斬れるものなどこの世に存在しないと思うほどの剣。

そして、その周り一帯は底が浅い池になっていて、近くに石碑のようなものがあった。


「ん?なにか書いてある。なになに?『この剣を見たものに問う。汝はこの剣が、何に見える?』と、どゆこと?」

と、思わず独り言。出口かと思ったらよくわかんないもの見つけちゃったし、ここから先はもう道なんてないようなくらい木が密集してるし。

どうしようかな、これじゃあ帰れないし、帰れないから朝ごはんも食べれない……………ん?ちょっと待てよ?


「これ、この剣が何に見える?なんてよくわかんない質問だけど、これを解けば何かがあるのかな?」

 それにこれ!なんとなく、なんとなくだけど!もしかしたら、よく書物である『伝説の剣』的なやつなのでは!?

これを引き抜けた物が勇者だとか、そういうやつ!!(じゃあもう石碑の質問とかどーでもいいや!!)


「そうに違いない!これは『勇者の剣』!そう見える!!だから引き抜けるか試してやる!!」

普段は消極的で、誰とも喋らない。家でただひたすら本を読み続けている。それ故にこの剣を見て、(自分で言うのもなんだけど)自信ありげに飛び跳ねて長い髪を揺らして喜ぶ。

自分が勇者になれたら、主人公になれたら、そんなことを考えて。だけど、

「よし、やってやる!……せーのっ――」


抜けた。一瞬で。力なんて全くかけずに。むしろ力みすぎてそのまま後ろに倒れるところだった。え?まって、伝説の剣って、こんなに簡単に抜けるの?

勇者たるものがスっと引き抜く。わかるよ、確かにどんな書物の勇者もひたすら力を加えて引き抜くなんて滅多にしないもん。でもさ、さすがに全く力加えずに引き抜けるなんてありえる?いや、ありえないでしょ!


「はぁ、こんな石碑なんてあったから伝説の剣かと思ったけど、こんな簡単に引き抜けるなんて、やっぱりただの錆びてる剣で、誰かのいたずらなのかなぁ?

まあよく考えてみても、石碑の言葉もよくわかんないし、こんなボロボロの剣が勇者の剣なんて方がありえないかな…」

 でも、村では大人たちしか本物の剣を買うことができない。それに、やっぱりなにか特別な感じがしてやまないから、持って帰るだけ持って帰ってみる…かな。

それにしても、いったいどうやって帰るかな……もうどこにも光なんて見えないから……光?そういえばさっきの光はこの剣が光ってたのかな?

じゃあなにかこの剣にここから出ることが出来る力があるかも!


剣を両手でしっかり握り、剣術なんて習ったこともないけど、自分なりにしっくりくるよう構えた。

そして、横向きに一振。その刹那、錆びた刀身は閃光を帯びてーーー


斬!


切断された。木々が。道を切り開くように。

そしてその道の先、微かに、今度こそ日の光を感じる……って、

「え?えぇぇ~~~!!なんか光った!!切れた!!えぇぇ!切れた!?こんなに太い木が!?何!?怖い!!なんで錆びてるのに切れるのさ!」

思わず叫んじゃったじゃん!誰もいないけども!!いつも声まともに出さないからおかげで喉が痛いよ!!

……とりあえず、帰れるってことでいいん…だよね?

 そうして、錆びた剣を担ぎ、切り開いた道を小走りで進んだ。

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