第11話

 スラム街の戦闘から一週間ほどたったが、特に情勢の変化は無い。キダ君とも連絡を取り合ったけど、貴族側の動きに目立つものも無いようだ。埼玉の貴族に混じっていた、妙に強かった貴族の若造。アレが北関東の貴族という情報も、あくまで俺とキダ君の推測だったわけで、今回のことは杞憂(きゆう)に終わってくれるのかと俺は思った。

 残る問題はカイナをどうするかだ。ずっと街の中に入れておくことは出来ない。俺や街の人間が許したとしても、カイナの家族、つまり東の貴族が許さないだろう。カイナの親父がもう動けないとしても、その後を継ぐはずの兄貴が何か言ってくるはずだ。下手したらカイナの事を口実に、街に攻め込んでくるかもしれない。まあ俺らの街はごく小規模だし、貴族が攻めて得になるような事はあまり無いとは思う。

 街に配置されている監視カメラの映像に俺は目を移した。覗き見はあまり良い趣味ではないけど、俺はもうみんなと直接会うことが出来ない。最近はずっとカメラを通して街を見ている。中心地にある広場の映像に、サイカとカイナが写っていた。二人を子供たちが取り囲んで、何かゲームのようなことをやっている。みんな楽しそうだ。

 ケイスケから通信が入った。

「どうした。何かあったか?」

「いえ、特にこれって事は無いんですけど。カジハルさん、カイナさんをこのまま街に置いておくつもりですか?」

「追い出すわけには行かないしな。お前はどう思う?」

「カイナさんはいい人ですよ。貴族とは思えないくらい。僕の貴族に対する考えも少し変わりました。街の子供たちもなついています。ですが、やはり市民と貴族は一緒に暮らすべきではないと思います」

「そうだな、俺もそう思うよ……」

「カイナさんが僕のプログラムについて、センスがあると言ってくれました。貴族に認められて正直嬉しかったです。ただ、やっぱり貴族は怖いですよ。模擬戦闘で、カイナさんはまるで踊るようにして戦っていましたよね。戦いを心から楽しんでいるような感じ。僕のプログラムなんかじゃ、到底追いつけない部分があると思いました。たぶん頭の中もだいぶ違う」

「戦争と訓練じゃまったく意味が違うからな。カイナは戦うことを日常としている。それが貴族だ」

 俺は言った。

「恐らく東の貴族は、カイナさんの居場所をすでに掴んでいると思います。この街に来ていることを把握している。要点は、貴族はなぜカイナさんを自由にさせているか、ですよね。何か意図があるんでしょうか。そこが心配ですよ僕は」

 ケイスケが言った。

「やっぱりお前頭がいいな。門番じゃもったいない。権限をもっと広げてやるよ。と俺が言う前に、お前はすでに全権を掌握しているようだけど?」

 俺は笑って言った。

「……やっぱりバレてたか。すみません」

 ケイスケが言った。

「いいよ。問題無い。この街の人間は結局寄せ集めだからな。本当に信頼できる人間は少ない。よろしく頼むよケイスケ。あとでリングの所在データも送ってやる。いままで俺が作ってきた非常用のデータだ。それを使えば、例え免疫系が居なくても当分はやっていける」

 俺は言った。

「え? どういう事ですか? カジハルさん、街を出て行くんですか?」

 焦った声でケイスケが言った。

「違う違う。でもまあ、俺はいつ死ぬかわからんだろう? この前のスラムみたいな件もあるからな。それとな、どうやら俺はオヤジ程は長生きできないらしい。免疫力の上限が最近見えてきちゃってな。相当うまくやっても、あと五年持たないだろう。そういうことだよ」

「そんな……。気力で……そう、気力でもっと生きてください。伝説の免疫系の息子なんですから」

「生きるよ。限界まで俺は生きるぞ。退屈なのが一番ツライからな。というわけで俺は、カイナの兄貴に会って来るよ。スラムと、埼玉貴族の件も確認してくる。それで全部、はっきりするだろ」

 俺は言った。

「貴族の屋敷にですか? 死にに行くようなものですけど……。でも手ぶらで行けば、いや、でも……」

「悩むな悩むな。大丈夫だ。たぶん最悪、半殺しで済むだろ。殺す価値も無いよ。しかも一応カイナという人質もいるしな。むしろ俺は楽しみだ。貴族の家に行くなんて初めてだからな。予想以上にワクワクしてきたぞ」

 俺は笑った。

「やっぱりカジハルさん、長生き出来無さそうですね……」

 ケイスケがため息をついて言った。

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