インディファレント
ドラコニア
天才美少女の独白
彼氏が出来ました。
町の外からやってきた年上の男性です。なにやら国の役人らしく、この町の調査とやらで来ていたらしいところにこの天才美少女のわたしが通りがかってしまい、一目ぼれされてしまいました。国の役人とか言ってるくせに、女子高生のわたしを彼女にしているのできっと悪い人なんだと思います。だってわたしまだ17歳ですからね、ぴちぴちの。
私はかなりの面食いで、彼はドラマに出てくるみたいな超ド級のイケメンなのでなし崩し的にOKしちゃいました。うーん、イケメンって罪深い。
付き合ったその日から、彼が借りているというマンションで同棲生活を始めました。
さすがは国の役人です。都内のタワマンには及ばないでしょうが、町では一番の高級高層マンションです。素敵です、一生ここで甘い蜜だけを吸っていたい。
恋人同士なので、もちろんセックスもしました。彼は27歳で、私は17歳。やはり彼はいけない大人なのだと思います。顔はピカイチなのですが、セックスはとても下手でした。前戯もあそこも短くて最悪でした。しかしそれを顔の良さで補っていたので良しとします。
付き合って同棲してからというもの、私はなんとなく学校に行っていません。家にも帰っていません。しかしいいのです。私のことを気に掛ける人はいませんから。彼も特に何も言ってきません。未成年と付き合っている後ろめたさもあるのでしょうか。
彼は一応この町には調査のために来ているので、毎日朝早くからどこかへ出かけていきます。二擦り半で出してしまう男は朝も早いんだなあ、としみじみ思います。
調査とやらから帰ってきた彼の顔は、毎日険しいです。何をそんなに思い詰めることがあるのでしょうか。
日に日に顔を険しくしていく彼から、ある日突然こんな提案をされました。
「さやかちゃん、この町やっぱりおかしいよ。逃げよう」
いきなり何を言い出すのでしょうかこの新参者は。未成年淫行をかましてるお前の頭のほうが断然やばいと思います。しかしそんなことは口に出さず、とりあえず彼の言い分を聞いてみます。
「この町の人間は狂ってるよ! いや人間かどうかも怪しいぞ! 三大欲求と殺人衝動、それだけで動いているゾンビ一歩手前の人間じゃないか!」
私が生まれ育ったこの町に対して随分な言い様です。しかし彼が言っていることもまた事実なので、一応まだおとなしく聞いてみます。
「さやかちゃんはこの町で唯一まともな人間だ! だから頼むよ、僕と一緒にこの町を出ようじゃないか!」
あー、うっせーなこいつ。てか興味がわきません。こいつが話していることに。
そろそろこいつといるのも飽きたので殺そうと思います。セックスも下手だったので。死ね!
わたしがおもむろに取り出した金づちに彼はきょとんとします。が、一秒後にはその意味を理解したのか、殺されまいと逆に私の首を締めあげてきます。ぐえ、苦しい。セックスでしていた首絞めとは比較にならない強さです。
しかし私は天才美少女女子高生なのでそんなことでは動じません。金づちで一心不乱に男の頭をぶん殴り続けます。金づちが頭蓋にめり込む感覚が、酸欠でぼやっとした感覚と混ざってたまらなく気持ちいいです。
男はいつの間にか動かなくなっていました。少年漫画と同じです。気合こそ正義。最後は根性あるやつだけが生き残ります。
あー、人殺すの最高に気持ちいです。セックスにもオナニーでも得られぬ多幸感でいっぱいになります。さいこー!
わたしは天才美少女ゆえ昔からモテにモテ、あげくずっと羨望と嫉妬の的でした。
わたしは疲れました。こいつは普通じゃない、とか。こいつは天才だ、とか。こいつは異常者だ、とか。
馬鹿々々しいと思います。世間はお人好しなフリをしながら近づいてきて、人を型にはめるのが大好きです。ちょっとでも規格が違うと、鬼のような形相をして牙をむいてきます。
人は自分の中の世間という物差しで他人を計ろうとします。たった15センチの定規で1キロの長さのモノを計れるわけもないのに、計れないと怒るのです。
くだらなすぎます。わたしはわたしです。それ以下でもそれ以上でもありません。
そこで天才美少女のわたしは考えつきました。
今まで世間がわたしにそうしてきたように、わたしが世間を自分好みにかたどってしまえば少しは生きやすくなるのではないか、と。
まず初めに、町の人間全員を洗脳しました。さっき殺した男が言っていたように、三大欲求と殺人衝動以外何も感じない素晴らしい、ワンランク上の人間に仕立て上げました。
まず初めにというか、したことはこれだけです。天才なので手間はかけません。
これで町の人々は、めでたく無関心な世界を生きるようになったのです。
ヒトとは本来こうあるべきなのです。あれやこれやとごちゃごちゃ考えて生きるなんてもってのほかです。食って寝てヤッて殺って。それだけでいいのです。
しかしさっきの男はさすが国の役人というだけあってなかなかの切れ者でした。このままではわたしを殺すことが出来ないと思ったのか、最後の力を振り絞ってわたしの首に首輪型の時限爆弾をつけていたようです。
わたしは天才美少女なので、この爆弾は無理に外しても爆発するし、かといって首輪解除のパスワードを知っているのは目の前で息絶えているこの男だけなので、このまま首から上が吹き飛ぶのを待つしかないということを一瞬で理解しました。粗チン野郎のくせに中々やります。
「ぐぇ」そんな間抜けな鳴き声をあげながら爆散するわたしを、わたしはウェブモニター越しに眺めます。
わたしは天才美少女なので、こんなこともあろうかと自分が死んだときに意識を電脳空間に転送するようなシステムを開発していたのです。どうですか、すごいでしょう。
現実世界で生きられないのは少し名残惜しい気もしますが、これからはネット社会の時代ですからね。こういう生き方も悪くない気がします。
電脳世界からわたしの町を一望しながら、時々こうして小説を書く。中々に素敵じゃありませんか。
インディファレント ドラコニア @tomorrow1230
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