第8話
ジゼルは結局隠れるようにして、生きることを選んだ。
ガラスの靴を履き、ロイの灰を集めて小袋へ詰め込んで、それだけを持って聖堂から逃げるようにして出て行った。
村を出て行くことにしたのだ。
そこで、ジゼルは隠れ住むのに街を選んだ。人を隠すには人の中ということだ。
しかし近頃流行っている疫病のために荒廃した街では
日頃の鬱憤ばらしのために、仲間外れや悪者探しが好きな人種で溢れていた。
病や自分の不幸を人のせいにする人たちで。
そこに、のこのこと現れて、魔女とバレてしまえばどうなるかはすぐに分かった。なんとなく街ではなく 村に住んだロイの気持ちがわかった。
とにかく、隠れる場所を見つけるためにジゼルは人々が比較的少ない裏を歩いた。
建物と建物の間の通路は狭く、石畳の上を歩くガラスの靴の音は心地よく響いた。その後をあの魔獣、いや今は猫の姿に戻っているシャルルがついて来た。
すると角の工場から体格ががっしりとした女性が慌てて工場から出てきた。
エプロンは皮でできており、手には分厚い手袋がはめられているままだった。その汚れが、その女性がそれほどの腕を持つ職人かを表しているようだった。
「そこのあんた!あんたはあの子の知り合いかい?」
「あの子?」
「修道士見習いのロイのことだよ。あんたがあの子の言ってたジゼルかい?」
ジゼルは思わぬところでロイの名前を聞いて、思わず涙が出てきた。
そして灰袋をぎゅっと握った。
「。。。そうです。」
「そうかい。時間があったら寄ってきな!」
職人はニヤッと笑って言った。
この人はきっとなにも知らない。だけど、生かされた私が伝えなくちゃ。足取りは重かったが、拒否は出来なかった。
時間があるも何も、行くところもないのだ。ジゼルはなんの迷いもなく工場に足を踏み入れた
室内は冬でも暖かかった。炉がありその中で何かが赤々としていた、そこから熱気が出ていたからだ。
床にはガラスがはかれて隅の方にまとまっていた。ジゼルはそこで気が付いた。
(ここって、ガラス工房・・・?)
ジゼルは通された作業台の横に用意された木製の年季が入った傷だらけの椅子にちょこんと座った。
「私はミルタ。あんたにその靴を渡した奴の保護者だ。孤児だったロイを拾って育てあげたのさ。」
シャルルが親しげににゃーと鳴いてミルタの足に絡み撫でをねだった。
「シャルルか。その姿のお前は久しぶりだね。」
ミルタもいつものことのようにシャルルを撫でた。
ロイにそんな人がいたなんて知らなかった。
ミルタは奥にしまってあったビエールの蓋を開けてジゼルの前に置いてあるコップに注いだ。
「どうして私のこと分かったんですか?」
「音だよ。こう見えてその靴、私が作ったんだ。自分の作ったやつは音でわかるのさ。」
ジゼルはガラスの靴を見つめた。
キラリと光って生みの親に挨拶しているようだった。
(なるほど。この壊れない不思議な靴はこの人が。・・・という事はこの人もきっと魔女。)
その証にシャルルとも親しげで、なんとなく同じ空気を感じた。
ミルタは目を細めガラスの靴を見つめながら聞いた。
「ロイはどうしてるかい。。」
ジゼルが「はい」とどう伝えるか迷っているうちにシャルルがにゃーと鳴いた。
「。。。そうかい。死んだのかい。。」
「死んじまったのか。….勝手な奴め。」
シャルルの鳴き声を聞くとミルタは言った。
外の何処かの工場からのピーと言う蒸気音が聞こえた。
まるで一瞬時間が止まったような感覚になった。
あの時、ミルタは涙を流したのだろうか。今になってはそんなことも忘れてしまった。
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次回は明日21日に更新します。
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