新訳:夢十夜

@ramu1641

新訳:夢十夜

私の名前は壮一。年齢17歳。自宅は鏑流馬市越後鼓門の住宅街にあり…交際はしていない。夜11時には床に就き、必ず8時間は眠るようにしている。寝る前に温かいミルクを飲み、20分程のストレッチで体をほぐしてから床に就くとほとんど朝まで熟睡する。そのはずなのに、今日はあまりよく眠れていない。体が重い。寝汗も書いている。この私に何があったのか…。そういえば、こんな夢を見た。

 夢というのは人の深層心理を表し、浅い眠りを過ごしている証拠となる。人はどんな夢を見たかを日記に起こす習慣もあるようだ。今朝見た夢は何か自分にあるかもしれない。私は、この日を境に夢日記を徒然なるままに書き起こした。

〈5月21日〉

 こんな夢を見た。学校の廊下の真ん中で、早朝の暁が差す中、ただ立っていた。前後関係はわからない。ただもやしのように呆然と立ち尽くしていた。周りには誰の気配もない。

今日は文化祭2日目、そうだ、仕事があった。準備に取り掛からなくては。そう思い新聞部の部室を目指し細い足をコンパスの針を刺すようにぎこちなく動かした。ただ歩いた、部室をただ目指し歩いていた。廊下が長いのか、たどり着かない。5分もすればつくのにつかない。それどころか昇降口にすらたどり着けない。まるで、廊下という空間が孤立したかのような感覚が脳に存在していた。それでも歩いた。きっと出られると歩き続けたがそれでも出られない。諦めて歩みをやめようとした時、後ろから誰かの声がした。最初は何を言ってるかわからないが不思議と怖いとは思わなかった。懐かしさと同時に温かい感覚を感じた。しばらくしても渦巻管に木霊が鳴り響く。そしてようやくわかった瞬間、私は目覚めた。

 <5月22日>

 こんな夢を見た。昨日と同じく歩いていた。一つ、違うこととすればポケットに違和感があることだ。手をいれると長方形の滑らかな輪郭を感じた。携帯だ。けど私のものではない。これは後輩のものだ。電源をつける。ロックが開く。圏外にもかかわらずマップを開く。あの時はこの不可解な行動と状況に疑問を持たなかった。これが夢というものなのだろう。そして現在地と周囲を確認する。そこにあったのは一本道だった。何もない、分岐すらない一本道だ。ズームアウトしてもある道は一本だけだ。この道を歩くしかないのだろうと思い歩こうとした時一つ、着信が来た。自分の携帯からだった。「何かあった?大丈夫?」。「大丈夫、今そっち向かうね!!」と返信し走った。その瞬間、私は目覚めた。

 〈5月23日〉

 こんな夢を見た。昨日とは違う。水の中にいた。暗くて周りが見えないが水の中にいた。ゆりかごのような振動を繰り返し移動していた。懐かしいという感情しかなかった。喜怒哀楽すらない。「懐かしさ」というものが私の存在をこの水の中で定義していた。しばらくすると鼓動が聞こえる。一小節に2回ほどだろうか、鐘のような清く重たい音が鳴り響いてきた。その音はまるで私に語り掛けているようだった。その声は少し前に聞いたことがあるような気がした。そして、愛のような温かく、冷たく、硬く、やわらかい何かが耳から体に侵入していく。未知のものだ、そのはずなのに抵抗できなかった。正確に言えばしなかった。受け入れていた。初めて目にしたものを口にするような感覚だ。おいしい、気分がいい、眠りたい。その感情に身を任せ虹彩を暗転させた。そして、瞼を開いた。

 〈5月24日〉

 こんな夢を見た。明るかった。白い壁が見える。何かに覆われ、抱えあげられている。なぜだろう、泣いていた。自分の理性に反して泣いていた。喉が火傷する程、体中の水分が抜けてしまうほど泣いた。声が聞こえる。あの時の声だ。夢を見始めたときに聞こえた声だ。上には顔がある。優しい、仏のような顔が。「あぁ、あなただったんですね。」そんな気がして目が覚めた。

 〈5月25日〉

 家にいる。そして遊んで、学校に行って、受験して。進学して、働いていた。いつの間にか働いていた。まるで時間が早送りされているような感覚だ。何もかもに置いて以下らているのに、自分はここにいる。みんなといる。家族も、親友も、大切な人もいる。現実で体験することのなかったあり得ないほどの充実感が神経に伝わっている。ショートしそうだ!!嗚呼、デミアン!!なんてすばらしい日々だ!!子のまま暮らしたい!!愛に包まれたこの世界で生きていきたい!!楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!!

 気が付きと場所が変わっていた。朝だ。覚めてしまったのかと思い、現実で生きることに多少のためらいを覚えつつ一日を送ることにした。虚しい。

 〈5月26日〉

 何も見なかった。気が付くと朝だった。虚しい。戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻

りたい戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい

 〈5月27日〉

 今日も夢を見れなかった。なぜだ、なぜ夢を見れないのかと考え、悩んでしまう。一人で抱え込んではストレスをため込んでしまい、生活の質を損なう。そう思い私は後輩に日記の夢のことを話した。奇遇にも、彼女も同じような夢を見ていたようだ。彼女も依然、あの夢の日々が忘れられずこの日常に飽いているようだった。もしかしたら私たちは夢の中で出逢い、思考を重ねているかもしれないということが話の顛末として一区切りつけた。また夢を見れるだろうか。もしかしたら、彼女のことを想えばまた見れるかもしれない。そう思い今日も床に就いた。

 〈5月28日〉                 

 やっと見れた。そこにあるのは白い砂浜、淡い水色の透き通った海、そして二回り大きな月が水面を、私を照らしていた。彼方には一隻の舟が見える。そして一人の少女もそこで佇んでいた。彼女の気がして、私は船に向かって泳いだ。不思議と何も負担は感じなく、だんだん彼女に向かって泳ぎが加速していた。まるで波が押してくれているような…そんな感じだった。船縁に手を乗せ、彼女の顔をみたとき、彼女は泣いていた。笑顔を浮かべ、涙を流していた。その涙が水面に落ちる。海が星の色に染まっていく。彼女が私の手をつかみ海へ飛び込んだ。沈みゆく中で私たちは思考を重ねた。体を重ねるとかそんな次元を超えて意識を重ね合わせた。彼女がふいに、私の首元に手を伸ばした。少しずつ力が加わっていく。私も彼女の首に手を添え、ただ時間を過ごした。

 〈5月29日〉

 今日も夢を見た。昨日と相変わらず彼女と過ごした日々を送った。ただ、目が覚めると現実に直面しそれに向き合うのが苦しくなっていた。それは彼女も同じだろう。彼女は私にあることを提案してきた。私は二つ返事で了承した。楽しみでしょうがない。この日々から抜け出し、夢の世界へいっしょに行けるのだから。

 〈5月30日〉

 明日、いよいよこの世界から抜け出せる。こんな悪夢からやっと目が覚めるんだ。深夜、勝手口を抜け出し彼女のもとへ走る。もうすぐ海が見える。こんな世界から自由になれるんだ。


 …それでは、5月31日、本日のニュースをお伝えいたします。午前四時ごろ、鏑流馬市蟹江海浜公園で男女二人組の水死体が発見されました。発見現場付近には一冊の日記が見つかりました。警察は二人を自殺とみて調査を進めています。

 

 〈5月31日〉

 夢の世界に行ける。こんな悪夢からやっと覚めるんだ。彼女も喜んでいる。誰にも見つからないうちに早く行こう、そう彼女に言って彼女に自分の首に手を添えさせ、私も彼女の首に手を添えた。そして、一緒に夢を見た。   

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