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第1話

 僕は一番後ろの窓側の席で、気楽に外を眺めていた。最近見るようになった夢について、考えをめぐらせていた。だから、急にクラスがどよめきに揺れたときには、何事か、と忙しく教室内に首をめぐらせた。

「い、いったい何があったの?」

 僕は、前の座席の男子、近藤巧こんどうたくみに話しかけた。

「何って、聞いていなかったのかよ。転入生だよ、転入生。まったく、今日まで知らなかったぜ、そんなこと。総も知らなかっただろ?」

「知らないよ。それに、転入なんてそう簡単にできることじゃないはずだし…」

「だろ。それに、担任も知らなかったことなんて、なおさら不思議だ」

「そうなんだ…」

 僕は外の景色から意識をはがされて、担任教師の動向に注視した。

「静かにしろ。いいか、先生も急なことで驚いているんだ。正直、今のお前らと同じ気持ちだ。しかし、だ。決まったことは決まったことで、受け止めろ。今からその子を紹介するのに、こんなに騒がしかったら、自己紹介も聞き取れん」

 その子、ということは女の子なのだろうか。

「どうやら、今の言い方からすると女らしいな」

「そうみたいだね」

 耳打ちするように僕に顔を近づけた巧の言葉に、僕は同意した。

 窓からはモンシロチョウが迷い込んできていた。そしてまもなく、教室に充満する熱気に追いやられるかのように、あわてて外に飛び出す。

「葉月雅はずきみやびです。よろしくお願いします」

 さっきまで蜂の巣をつついた様子だった教室に、蜂がいなくなった。僕も、例外なくその一人だった。まるで魔法にでもかかったかのように、誰一人として言葉を発する者はいなかった。魔法は、彼女が教室のドアを開けたときから発動していた。

「総…」

 巧がブリキのおもちゃのように首を回し、金魚のように口をパクパクさせて何かを言おうとしている。

「分かってる。僕も同じだよ」

「…僕?」

「あ、い、いや、俺も同じだよ。転入生が綺麗だから驚いているんだろ?」

 巧は大きくうなずいた。

「俺さ、こういうのドラマとか映画とか、漫画とか非日常の世界でしかありえないと思っていたから、なんか信じられなくて」

「俺だってそうだよ。こういうの、まさに青天の霹靂って言うんだろうな…」

「へ? 晴天に辟易?」

「最近は晴れ続きで猛暑が続いていたからね…」

僕が言いたかったことはそのことではなかった。

「すまん、俺、元文学部だから」

「ノリツッコミも中途半端に、今度は俺の悪口か? そんなに文学部は博識か?」

 転入生の話題もそこそこに、こちらに身を乗り出してくる巧をなだめる。巧は大きな鼻息ひとつで引き下がった。

「まあ、なんにせよ、これで学校に来るモチベーションも高くなったわけだ」

「そう…だね」

 僕は、その綺麗な転入生に妙な感覚を覚えていた。栗色のセミロングが涼風に揺らぎ、わずかな光にも薄く輝く。同色の眉もきりっとしていて、意志が強そうに見えた。しかし、瞳は何よりも優しく穏やかで、表情には笑顔がともされている。すっきりした頬、首筋、鎖骨、制服、そうして視線を滑らせていくにしたがって、僕はその妙な感情を、僕の記憶から照らし合わせる作業へと変えていった。

「おい、こっち見てるぞ」

 巧が僕に話しかけた。そう言いつつ、葉月雅に手を振っている。僕は記憶との照合を中断し、雅の顔を見ようとした。

 胸が一気に高鳴った。

 時が止まったかと思った。全てを吸い込むような深遠な瞳を、彼女は持っていた。僕は瞬間的に、海の中へ深く、深く沈んでいく情景に遭遇した。

「おい、総、どうした」

周囲の景色が一変して、僕は黒い世界へと落ちていく。海の表面には太陽の光が反射しているが、やがてそれも見えないほど遥か海の底へ。底面などないようにも思えた。永遠の沈降がある。そう感じるほどに深い瞳と、海の情景は一致していた。

「おい」

 巧は、僕の視線を遮断するように手を僕の眼前にかざしたり外したりしている。次に、葉月雅と僕を交互に見やり、その視線が重なっていることに気付くと、肩を落とし、呆れたように嘆息した。

「…笑った」

 葉月雅は口の端を広げて、目尻を下げた。穏やかな夏の海のような微笑だった。

「総」

 巧が、僕の頬をつねった。

「いてて」

「いつまで見とれてるんだ?」

「み、見とれてなんか」

「意外だなぁ、真面目な文学青年の総君も、面食いなんだねぇ…」

 目を細めて、いやらしい声を出す。

「ば…」

 僕の巧への反論をさえぎる形で、担任が大きな声を上げた。

「じゃあ、そうだな。とりあえず席は…」

 担任が、廊下側から、窓側まで見渡す。

「まさかとは思うけどな」

「ああ、それこそ非日常的なドラマか映画、漫画の世界だ」

 僕たち二人は、口ではそう言いながらも、内心では期待していた。

 僕の席は、一番後ろの窓側の席。このクラスは奇数人数。僕の隣は空席だ。

 担任の指示に固唾を呑む。

「…一番後ろだ」

 そう、窓側の。

僕の、隣の席。

二人は申し合わせたように隣り合う。

それが始まりなんだ。運命的な、何か新しいことの――

「…廊下側の」

「…え?」

「近くに女子がいたほうが話しやすいだろうからな」

 蝉の鳴き声が、僕の耳に大きく聞こえ始めた。

「ま、それが現実だよ。文学少年」

 巧が僕の肩に手を置き、同情する。

「元、だ。元文学部」

 巧の手が実際以上に重く感じる。脱力感は、必要以上に僕からいろいろなものを奪っていったようだ。

「悲しいのはむしろ、お前ではなく、俺のほうだぞ、総。現実はかくも厳しいものか、と打ちひしがれているところだ。同情の余地はいくらでもあるぞ。同情するなら、今のうちだ。同情するなら金…いや飯おごれ」

「はいはい」

 僕以上に落胆する巧に呆れて、葉月雅へと視線を移す。彼女は担任のほうを見ていた。

ちょうど彼女が眉間に力を入れたところだった。

「…いや、やめだ」

 すると担任は、何かに操られるかのように、平坦な声で告げた。

「篠崎の隣の席だ。篠崎、葉月と仲良くな」

 巧が素早く顔を上げた。

「おい、これこそ…」

「まさか、ね」

 巧は僕を、僕は巧を見て目を丸くした。

「映画か」

「ドラマか」

「もしくは漫画のような展開だね」

 疲れたように二人で息を吐いた。

「篠崎! 篠崎総!」

 大きな声に、僕たちは肩を強張らせた。

「すぐに倉庫に行って、葉月の椅子と机を取ってきなさい。ホームルームは以上だ」

 出席簿を持って担任はさっさと出て行ってしまった。教室のドアが閉まると同時に、クラスは緊張の糸から解放され、葉月雅を取り囲んで話題を展開し始めた。

「席を取って来い、とさ」

「何で俺…」

「そりゃ、総ほどうらやましい生徒には、彼女の席を持ってくるだけの、責、を負ってもらわないと」

「つまらないシャレだな」

 僕は呆れ返って、椅子の背に体を預けた。

「それじゃあ」

 僕はひざに手をつき、よっこらせ、と年寄りのようにして椅子から立ち上がった。立ち上がる際、掛け声を上げて立ち上がるのは年をとった証拠だ、と言っていた健康番組を思い出した。

「仕方がないけど行くよ。次の授業まで時間がないしさ」

「頑張ってな」

 にこやかに手を振ってねぎらう。まったく手伝う素振りも見せないのが巧らしかった。

 倉庫とは体育館内部の倉庫のことで、校舎からは離れた場所にある。分かってはいたのだが、往復の往の段階でとても面倒くさく感じられてくる。

 廊下をこする上履きの音が、いつもより大きい。

「篠崎総…君」

 少しためらい気味の声が、憂鬱で猫背になった僕の背中に届けられた。聞きなれない声だったが、僕はその声色になぜか懐かしい感じがした。

昔、どこかで聞いたことが…。

記憶のノートをめくり、声だけを手がかりにページを探す。やがて、その声から推測された人物像の輪郭が、脳裏に描かれようとしたとき、再び僕の名前が呼ばれた。

「篠崎総君」

 僕は振り返る。

「君は…葉月、雅――」

 彼女は微笑んだ。

「――さん」

 僕は自ら知らずに呆けた声になっていた。

「総…」

 僕は、彼女がそう呼んでくれることになぜか抵抗感を感じなかった。まるで、そう呼ばれるのが当たり前で、ずっと以前からそのように呼ばれていた奇妙な感覚があった。むしろ、逆に君付けで呼ばれることのほうが、不自然で、不快感すらある。

「なぜ、君がここに?」

「なぜ? 総を手伝いに」

「席なら俺が取ってくるから、教室で待っていればいいのに。それぐらいの、責、は僕にあるよ」

「シャレ…ですよね」

 複雑な表情を見せる。僕はやはり巧のようにはいかない。

「責任があってもなくても、手伝います」

僕は心中で感心していた。あのクラスの喧騒の渦中にあって、渦をかきわけてここまで来たこと、そして、転入早々に積極的に他人に接触したことについて。もし僕が彼女の立場なら、気後れして他人に積極的になれなかったであろう。

「そんな。転入していきなり手伝わせるなんて、気が引けるよ」

 案の定、ファーストコンタクトで、気後れしている僕がいた。無意識のうちに、気が引ける、と言ってしまっているところからも、理解できた。考えた傍からこうでは、と僕は心で舌打ちした。巧とのファーストコンタクトでもそうだった。幸い巧は積極的な性格だったから、気後れする僕を飲み込んで、僕ともどもクラスに溶け込んでいった。巧のさばさばして物事にとらわれない性格、加えて、明朗快活な性格は、僕以外にもさまざまな生徒への求心力となった。もちろん、そうした巧を苦手とする者もいるにはいるが、前述の性格を持つ巧は、そうした些細なことなど全く意にも介さなかった。そうした巧がいてくれたからこそ、今、孤立していない僕がいるのだ。

「総は、私が怖いの?」

「い、いきなりだね」

 葉月雅は、僕に近寄り、僕の瞳をじっと覗き込んだ。何かを看破しようという、探るような視線の色だった。瞳の黒が僕を飲み込んでいく。瞳の周囲に広がるブラウンは、さながら木星のよう。変な例えだが、木星の中心にブラックホールがあるような、大きな力のある眼球だった。

 僕は、耐え切れず目をそらした。

「行きましょう。時間がないわ」

 僕を残してさっさと歩を進めていってしまう。廊下の窓から吹き込んできた風が、葉月雅の髪の毛をそっとなでた。波打ち、広がる。

 僕は、彼女の横に並んだ。

「あ、あの、旧体育館の場所は分かるの?」

「ええ、分かるわ」

「今日が初めてではない?」

「そうね」

「じゃあ、俺が案内するまでもない、か」

 僕の歩調が葉月雅に遅れをとる。

「不慣れだったら、総が案内してくれたの?」

「もちろん。俺だって、それぐらいはする」

「ふふ、たのもしい」

 葉月雅は、初対面のはずの僕を、総、と呼び捨てにする。一方で僕は彼女のことをまだ何と呼んでいいのか分からない。愛称すら思いつかない。初対面からいきなり呼び捨てにされた経験は、生まれて初めてだった。前向きに考えれば、僕も葉月雅のことを呼び捨てにしていいということではないだろうか。葉月雅。葉月。雅。考えれば考えるほど気恥ずかしい。呼び捨てはさすがに馴れ馴れしいのではないだろうか。ならば、さん付けがいいだろうか。僕個人では、雅、と呼んでみたい。

 雅。

 馬鹿らしくも、心の中で反芻してみるのだった。

 二階から一階への階段を下りるときまで、僕は葉月雅の少し後ろを歩いていた。彼女を見ると、ふいに彼女の後姿が、誰かに似ている気がした。思い出したように吹き上げてくる風。その風に舞う髪の毛の隙間から、うなじがのぞく。

「総」

 階段を踏み外しそうになった。

「な、何?」

 一足先に階段を下りたところで、葉月雅が僕を見上げる。

「雅、がいいのよね。総は」

「え、あ、ま、まあ、そう…かな」

 どぎまぎして、背中から一気に汗が噴き出した。

「でもさ、何で? 俺、そんなこと言ったかな…」

「私…総のことなら何でも知っているから」

 一陣の風が、僕と雅の間を通過していった。階段を下りることすら忘れて、僕は棒になった。思考回路もシャットダウンして、再び立ち上げるのに数秒を要した。

「君、エスパー?」

 雅は、首を軽く横に振った。

「ストーカー?」

 雅は笑った。口に手を当てて。はじめてみる雅の笑い声に僕は、恥ずかしくなって視線をそらした。踊り場の窓から、青空が見えた。

「総、おかしい」

 笑いが止まらない雅を見ていると、僕も顔が自然とほぐれた。

「だって、君がそんな風に見えたから。僕が考えていたこと、ずばり言い当てるなんてさ。雅と僕は、初対面のはずなのに。そんなこと、万に一つの可能性じゃないか。いや、もっとあるかもしれない」

 僕は、少し興奮していた。ほぐれていった全身の緊張が、僕の感情を後押しした。

「とにかく、嬉しいんだ。まるで、映画や、ドラマのようで。都合よくいかないと思っていたこの現実の中で、こんなにもいろいろな偶然があるなんて。まるで夢を見ているみたいだ。まあ、最近の僕の夢といったらろくな夢をみやしないけどね」

 微笑んでいたはずの雅は、急に険しい顔をし、僕の言葉を遮断する形で、そっとつぶやいた。

「…夢を見たのね」

「え…?」

「何者かに追われる夢」

「それがどうかしたの?」

「夢というものには、いくつか役割があるわ」

 うつむき加減の雅が、傍にいる僕ですらやっと聞こえるぐらいの声音で話し出す。

窓からの風が止む。

「ああ、それなら聞いたことがあるよ。一つ目は、記憶を整理する役目で、夢の中で色々なものが混在しているのは、まさに整理中だから。二つ目は、抵抗力をつける役割。怖い夢を見せるのは、それに対する抵抗力をつけるため。三つ目は、記憶力を持続させる役割。繰り返し同じものを見せることで、それに対する記憶力をつけることができる」

 天然のクーラーがなくなり、僕は夏の暑さを思い出す。

「こんなところかな」

「一般的にはそう言われている。でも、それはどれも夢に対しての勝手な推論にしか過ぎない」

 一週間を精一杯生きた蝉の死骸が、廊下に落ちていた。羽がちぎれ、胸部には穴が開いている。

「夢には、この世界と、もうひとつの世界をつなぐトンネルのような特性がある。そしてそれは、誰が望んだものでもない」

 葉月雅は、強い口調でそう言った。

 それきり、旧体育館まで雅は口を開かなかった。雅と並立して歩いていたが、とても話し出せる空気ではなくなっていた。

 倉庫は、体育館の舞台袖から、さらに地下へ降りたところにある。舞台の真下がちょうど倉庫になっているという仕組みだ。湿っぽく淀んだ空気が、ほこりにまみれて停滞している。瘴気を吸い込んだように、僕は思わず咳き込んでしまった。口を手で被い、倉庫の中に足を踏み入れる。洞窟に挑む探険家の心境に似たものがあった。洞窟の奥には、新旧の机や椅子が山積みにされていた。他にも、生首のような剣道の面、つぶれたピンポン球、お菓子の袋など、廃棄同然のようなものが散乱していた。電気をつけようとしたが、どうやら壊れているようだった。

「さて、どれにしようかな。…っと、それにしても…」

 足場が暗くておぼつかない、と言おうとした僕の周囲に、突然まぶしいほどの光線が差し込んできた。まぶしさに眼前に手をかざし、光線の元をたどると、直線の向こうに、雅がいた。舞台袖の窓を開けて、地下に光を届けたのだった。雅の必死に背伸びをして窓を開けている姿がとても神聖なものに見えた。雅の頭上に位置する窓から降り注ぐ光芒に、僕は天へ昇るような錯覚を覚える。幻想的なものだった。雅が、別の世界から僕を迎えに来た天使に見えた。もちろんそれは、僕の想像でしかないのだけれど…。

 光は徐々に光量を増やした。

 幻想的な光景とは裏腹に、背伸びを繰り返す途中で事故的に見えてしまう雅のスカートの中を、僕は見ないようにと努力していた。しかしながら、思春期に後押しされてついつい見てしまっていた。

背伸びをして、目いっぱいに手を伸ばして、開かずの窓を開ける雅。半分ほど開いたところで、雅は、僕のほうを振り返った。

 当然、目が合う。

 雅は、僕のほうへ進んできて、明かりの入った地下倉庫に足を踏み入れる。思春期ゆえの過ちを叱責されると思ったが、雅は何も言わずに僕を追い越して、机と椅子を選択し始めた。

「雅」

 雅は手を止めて背中で僕の呼びかけを受けた。

「ごめん。その…」

「気にしないで。私も気にしてない」

 しばらくの間入り口で佇立していた僕と、奥で机を選別していた雅。その間、光はその中間を照らし続けていた。今は光源である太陽が雲に遮蔽されたためであろうか、光が少々翳り始めている。

 突然、雅は振り返って僕を見つめた。

僕をずっと見つめたまま、光の袂で立ち止まる。刹那、雲から太陽が顔を覗かせたのか、燦々と雅を照らし出した。ほこりが金色に輝き、雅の周囲をゆらゆらと舞う。スポットライトを一身に浴びた雅は、僕に言った。

「総、私はあなたを選んだ。そして、私を救ってほしい。すべてのことから。私はもう、体中を深く病んでいる。自分ではどうしようもないくらい。自分自身の力では戻れないところまで来てしまっている。でも、可能性はまだある」

「…雅、いきなり何を言っているの?」

「総、あなた自身を…見つけて」

 雅の顔が苦痛に歪む。

「…ひとつになるの。まずはそこから…」

「雅、君は急に…何を」

 雅は大量のほこりの上にひざをついて、がたがたと震えだす。自らの肩を抱き、まるで何かにおびえるように、歯を鳴らし始めた。

「…痛い…」

 ついには、ほこりの海に倒れてしまう。

「雅!」

 僕は慌てて雅を抱き起こそうとするが、雅はぐったりしたままだ。

「どうすれば…どうすれば、どうすれば!」

 僕と雅の周囲に広がっていた窓からの光も、終幕へと向かうように消失していく。そして、連動するかのように周囲の情景も限りなく黒に近づいていく。

「雅、しっかりしてくれ! 目を、目を…」

 黒から派生した闇が、触手のようなものを伸ばし、僕と雅を引きずり込んでいく。僕は、雅を助けようと身を呈すが、黒い触手はかまわず僕から飲み込んでいった。

「雅、目を…」

 僕は、漆黒に染まった雅を抱きしめたまま、自身も黒に落ちていった。

「目を――!」

 涙が流れたのか、この闇では分かるはずもなかった。

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